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17.脇役、本領発揮

「水橋さん、今日は私と透君と一緒にカラオケに来なさい」


すぐに帰ろうとしていた水橋に駆け寄り、肩を掴んで。

学級委員、門倉が出し抜けに言い出した。


(おいおい、何ですか一体)


ややこしいことになってる、もしくはなる予感。しかし、何故こうなったかの予想はつく。

教室をざっと見渡して、透の姿を確認。その顔は微妙にニヤついてる。

で、これと今の出来事、そして現在の透・門倉・水橋の関係を掛け合わせると。


(別口からの攻略、ってことか?)


透が水橋を狙っていることは明らか。だが、自分ではどうにもオチそうにない。

となれば、自分以外の誰かを手を使って水橋を引っ張り、半ば強制的に絡む。

そうする中で、うまいことハーレムに取り込む。そういう(はら)だろ。

その『誰か』を門倉に任せたのは、自分を盲目的に信じてるからか。適当言って騙して、

水橋と自分が今まで以上に絡める場所や状況に持ち込む、と。


幼馴染に対して、下衆の勘ぐりはしたくない。

とはいえ、今までも似たようなことをしてきたことは、何度かあった。

常套手段として用いているのを複数回見てきた以上、今回もか、と思ってしまう。


「帰るから」

「待ちなさい。前から思ってたけど、あなたはクラスメートとの関わりが薄すぎる。

 同じクラスになった以上、こういった付き合いは大切にしてもらわないと」

「用事がある」

「どうせ大したことじゃないでしょ? 新学年の最初は、交友関係を深めるのが大事。

 クラスで浮いてるあなたの為に、わざわざ透君が言ってくれたのよ?

 あなたは透君を蔑ろにする気?」

「そんなことは……」

「なら来なさいよ。そして透君に感謝なさい。

 透君があなたのことを気にかけてくれたんだから」


門倉の理詰め攻撃。もっとも、その殆どが透を起点にしてるから、理としてはボロボロだが。

けど、これまずいな。水橋がそういったことにチャレンジするのはもっと先の予定。

そうじゃなくても、透と透ハーレムに水橋が同じ空間にいたら、何が起こるか分からん。


「帰れないから、避けて」

「そうはいかないわ。私は学級委員として、クラスの和を保つ責務がある。

 あなたのような人でも、クラスに馴染めるようにするのが私の務め。

 私は自分に課せられた仕事から逃げるような、半端な気持ちで委員やってないから」

「私は大丈夫だから」

「透君の優しさに報いなさい、とまで言わなきゃ分からない? だからあなたは浮くのよ。

 正直な所、あなたのような不可解な存在は諦めようと思っていたけれど、

 透君がわざわざ、一肌脱いでくれたのよ?」


透の表情が変わった。ニヤつきが消えて、少し焦ってる。

これ、門倉はやらかしてるな。水橋に対する当たりがキツくなりすぎてる。

透の狙いからしたら、ここで透の名前を出しながら詰るのは、逆効果だ。


そして、水橋はテンパってるかもしれない。

ここ最近の感じからして、水橋は若干、コミュ障のきらいがある。

学校では優等生の仮面を被り、人との交流は最小限。しっかり演じないとボロが出る。

だが、こうも畳み掛けられると、返答に詰まってしまう。

これを黙って見ている訳にはいかねぇ。ならどうする?


答えは単純。こういう時、俺のすべき事と言えば。


「まぁまぁ門倉。そう強引に誘うこともねーだろ?

 カラオケくらいいつでも行けるんだからさ、水橋が行きたい時に誘ってやれよ」


緩衝材として割って入る。

まずはこうして、門倉と水橋を離し、意識を俺に向けさせる。

さて、それじゃヘラヘラ顔作って……参ろうか。


「私は今水橋さんと話をしているの。あなたには関係ないから」

「いやいや、お前も水橋も、俺のクラスメートだから。

 そいつらがモメてるの見て、無関心じゃいられねーよ」

「邪魔だからどいて。水橋さんと話ができないじゃない」

「一回落ち着けって。委員頑張ってるのは分かるから。そこは本当偉い。

 けど、押し引きのバランスは考えようぜ? な?」

「ここではっきりさせなきゃ、透君が……」


その言葉、待ってたぜ。

フィニッシュ、決めさせてもらおうか。




「……その透の顔、見てみ?」

「は? ……あっ」




小声で囁き、人差し指。

門倉が振り返った先には、苦い顔をしてる透。


「麻美。そこまでしなくていいんだ。同じ女子ならって思ったんだけど。

 無理させちまってごめんな。雫も、悪かった」

「あ……その、これは……っ!」


重要なのは『どういう言葉か』じゃない。『誰の言葉か』だ。

門倉にとっては千の俺の言葉より、一の透の言葉の方が遥かに重い。


ここでやるべきは、門倉と論戦を繰り広げることじゃない。

主人公様へのアシスト……門倉の意識を、透に向けさせること、だ。

そうすれば、後は透が門倉を解してくれる。


「皆もごめん。別に誰がどうこうって訳じゃないから。

 俺のお節介が裏目っただけ」


ざわつき始めていた周りへのフォローも、透に一任する。

クラスカースト最上位の透の言葉は、自然と全員が信じ込む。

そして、透の望みが『事を荒立てないこと』と判断するや否や、空気は元通り。


茶を濁して、目立つ部分はパス。

これが、脇役仕事の最適解。


アイコンタクトと軽いジェスチャーで、「後はヨロシク」とだけ送って終了。

脇役は仕事を終えたらさっさと引っ込む。これも最適解であると同時に、鉄則。


(……なんだけど)


脇役の特徴を理解していない奴が、約一名。

普通、こうなった場合の女子の感謝や賞賛の送り先は主人公様。つまり透。

そして、それらは受け流され、重要な部分は聞こえなかったふりをされる。


脇役は、主人公様に必要な情報を与えたりとか、アシスト能力が重要。

その為には、些細な話も聞き漏らしちゃならねぇ。

平たく言えば、地獄耳って訳だ。


「…………ぅ」


僅かな唇の動きと、呼吸音。

この距離なら、それだけで判断はつく。


水橋。

脇役に対する「ありがとう」は、それだけで聞こえちまうんだぜ?

【サルの目:生徒データ帳】

門倉(かどくら) 麻美(あさみ)

帰宅部

生徒会書記

ルックス A+

スタイル B+

頭脳   S

体力   C

性格   C


【総評】

才色兼備の天才。ただ、美人ではあるけど『色』気は無い。

透とそれ以外に対する格差がまぁ酷い酷い。そして真面目過ぎる。

過去には宿題を代筆したとかもあるらしく、恋するとダメになるタイプか。

理由は知らんが、透に一番似合う女は自分だと信じて疑ってない様子。


総合ランク:A

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