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169.生理現象

入り口を覆う黒い布をくぐって入ると、中は真っ暗な狭い通路。

支給されたペンライトの弱い光では、足元を照らすのがやっと。

僅かに聞こえるBGMが恐怖心を煽る、中々に本格的なアトラクション。


(思ったよりクオリティ高いな。……けど)


そこまで怖いとは思わない。ホラー耐性は高い方だと自負してる。

心霊系の番組とか映画は、どこか冷めた感じで見てるし。

というか、この中にいる間は雫とすごく近い距離にいるという、

俺にとってはこの上ない緊張と興奮で、恐怖心とか感じる余裕ねぇよ。


「うー……」


どちらかと言えば、いや明らかに不安なのは雫の方。

反応を見る限り、怖がりなのにホラー好きという一番面倒なタイプかも。

入った途端に縮こまってプルプルしてる。……なんだこの可愛い生物。

って、そんなこと考えてる場合か。ホラーは恐怖感を楽しむものだけど、

このままじゃ辛そうだから、とりあえず。


「怖かったら、とりあえず俺の服掴んどけ。

 前にいる奴の服をぐいぐい引っ張ると、落ち着くって聞くから」

「うん、そうする……」


2回目の衣替えを終えた、制服のブレザーを引っ張られる感触。

これで、気休めにはなるはず。


「じゃ、行くぞ」

「……行かなきゃ、出られないもんね」


雫にとって、適度な怖さでありますように。

いざとなったら、順路をサクサク抜けることだけ考えるか。




角を曲がると、少し開けた空間があった。

掃除用具入れ、ゴミの山、ダンボール箱……さて、どこから来るか。


「嫌な予感する……」

「ここが最初のポイントだろうな。一応、覚悟しとけ」

「うん……」


握られている部分が、更に強くなった感触。

だけど、どこか弱々しい。ものすごく庇護欲を感じさせる。

ただのアトラクションとはいえ、絶対に守らなければ。


「安心しろ、俺がいる」

「うん……絶対、離れないでね」


当然。雫を離してなるものか。

このお化け屋敷にいる間は、絶対に……


「ヴォ゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」

「うぉっ」

「キャーーーーー!!!」


壁だと思ってた幕から、突如ミイラ男が出現。

そう来たか、明らかに何か潜んでそうな備品は囮。

予想外の所から来ることによって、驚きを増幅させる作戦か。


「あひゃっ、こっ、来ないでっ!」

「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」

「こっちだ! こっち行くぞ!」


雫の腕を掴み、順路へと進む。

これは予想外だ。凝った仕掛けに迫真の演技。

しかもこれは序盤だ。この先はもっとヤバいと考えるべきだろ。


「どうしよ……もう出たい……」

「落ち着け、ここにあるのは全部作り物だ。

 見た目が変わってるだけで、全員学校の生徒だ」

「それは分かってるんだけど……うぅ、入るんじゃなかった……」


まさかこんなところで、意外な弱点が発覚するとは。

なるべく早めに終わってくれよ……?




(……無駄に凝ってるな、本当)


今度は天井がやたら低い通路。ここは這って進むことになる。

出口らしきものは見えない。何回か曲がる構成だろうか。

ペンライトで照らしても、突き当たりらしきものすら見えない。


「何か出るよね……?」

「多分な。でも、行くしかない」


覚悟を決めて、中に入る。……本当に狭いな。

後ろには雫もいるし、慎重に進まないと。


「藤田君、いる?」

「目の前に」


なんなら足首も掴まれてるしね。一瞬お化けかと思ったわ。

どうやら、さっきのミイラ男の時点で大分メンタル削れてるらしい。

できることなら、この辺は優しめであって欲しいところ……って。


「水橋、ちょっと待った」

「何……? まさか、何か……」

「今の俺いるところまで来ると、こんにゃくで顔撫でられる」


急に古典的になったな。横から突然出てきた。

しかも当て方が悪かったのか、結構ぐいぐい押し付けられて、なんとも人為的。

どちらかというと、怖いというよりは面白いわ。


「この先も何かあったら事前に言った方いいか? ネタバレになるけど」

「もう十分怖い思いしてるから、なるべく教えてくれると嬉しい」

「分かった。見つけ次第伝えとく」


本末転倒ではあるんだけどね。入ってしまったものは仕方ない。

クレープの全トッピングみたいに、一度失敗しないと分からないこともある。

今回もまた、そういうことなんだろう。




「作り物の手!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!?」

「蛇のおもちゃ!」

「キャァァァァァ!!!」

「またこんにゃく!」

「気持ち悪いぃぃぃぃぃ!!!」


雫の絶叫が止まらない。

この通路は色々と落し物を用意してるエリアということか。

さっきからグロいものに気持ち悪いものがやたらと出てくる。

クソ、出口どこだ?


「もうやだ。おうちかえる」

「もう少しだから、辛抱してくれ。……あれ? 行き止まりだな」

「え、そうなの?」

「ここに来るまでに分かれ道とかあったか?」

「無かったと思うけど……ひぃっ!」

「どうした!?」


後ろを振り向くと同時に、雫の後ろからガタガタという音が鳴る。

俺の位置からだとペンライトの光が届かないが、外形はなんとなく見える。

状況から考えるなら、あいつは恐らく追いかけてくる系のバケモノ。


「来ないで! 来ないでぇーーーーー!!!」

「逃げるぞ! あ、でも行き止ま……あっ!」


突然、行き止まりだと思っていた所に光がさした。

よく見ると横穴ができている。こんなとこまで凝ってるのかよ!


「こっちだ!」

「おうぢがえ゛る゛ううううう!!!!!」


恐怖のあまりに幼児退行しかけている雫を誘導し、通路を抜ける。

これ模擬店のレベルじゃねぇだろ!? 雫が完全にパニックじゃねぇか!?

いや、お化け屋敷って本来こういうものだけどさ!


「もう大丈夫だ。落ち着け、な?」

「うえええええん! うえええええん!」


通路を出るなり、思いっきり抱きつかれた。

ああもう、ガチ泣きだよ。分かった分かった、大丈夫だ。

落ち着くまで、背中トントンしておくから。


(ただ……)


位置の感覚からして、そろそろ出口だとは思うが、もう一山ありそうな気がする。

既に雫のメンタルは限界。けど、途中退場できるようなものは見当たらない。

できるだけ、守っていくしかないか……


「……ねぇ、藤田君」

「ん、落ち着いたか?」

「うん……ごめんね」

「いいっての。もうすぐ出口だろうし、あとちょっとだけ頑張ろう?」

「うん……あの、さ」


といっても、具体的にはどうしていくべきか。

お化け役に手を上げたり、セット破壊したりする訳にもいかないし。

ここは手を繋いで……




「私……トイレ、行きたくなってきた」

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[気になる点] >「私……トイレ、行きたくなってきた」 教室だからバケツがあるか ダイジョウブ、モンダイないヨ、ミンナヤッテルカラ
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