表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/236

161.店名は『MIX☆PARTY』

過程は波乱万丈どころの騒ぎではなかったが、結果としては無事に迎えた文化祭。

とはいえ、今日は校内公開の為、活気は控えめ。

本チャンの一般公開は明日だから、今日は所謂前夜祭みたいなものではあるが、

どういう動きをするか考える必要もあるし、重要性は高い。


(しかも、予選はこっからだからな)


ミス・ミスターコンテストは2日がかりのイベント。

今日の校内投票で候補を10人に絞り、明日の決選投票で決まる。

アピールタイムが設けられているのは2日目だけだから、まずはここを突破せねば。

あと、それはそうと。


(雫、何着るつもりなんだろ)


全く聞いてなかったし、他の奴からの情報は無い。

コスプレ自体は嫌いじゃないと言っていたが、何着てくるんだろうな。

もっとも、何着ようが可愛い、もしくは美しい、或いはカッコいいと、

プラスの印象にしかならないということは確定しているが。




「サル、ちょっといいか?」

「何ですかい?」


サルの衣装は玉子の握り寿司の着ぐるみ。ネタ系どころか、ネタそのものだった。

背中側がゴテゴテしてるけど、大丈夫なんかそれ。


「何で透じゃなくて、俺をミスターコンに推薦したんだ?」

「それ? ほぼあん時に言ったままだが……透はいねぇな、ちょっと来い」


辺りを見回してから、店舗となった教室の隅へと俺を連れる。

透には聞かれたくないことというのは分かるが、何だろ。


「お前さんが一番分かってると思うけど、透の裏がちょいとね。

 あのまま調子に乗らせたらロクなことにならんと思って。

 おこぼれ貰った所で仕方ない感もあるし、連覇されてもムカつくし」


サルも透から離れ始めたってことか。やや嫉妬含みではあるが。

ただ、それは透を推薦しない理由。俺を推薦する理由が分からん。


「だったら陽司とか、もっといい奴いるだろ?」

「陽司はこの手のイベントで目立つの嫌いだし、何より女心を分かってない。

 何やってもカッコいいだろうけど、確実に手ぇ抜きそうだし。

 その点怜二なら、女子は勿論人の心が分かるし、やる時にはやる男。

 顔はメガネで補正かかるし、透以外なら最右翼よ」


陽司は人の助けになることを好む一方で、面倒事は事前に回避するタイプ。

そう考えると、興味示さないところを無理強いしたところで出ないか。


「それによ、最近普通にカッコいいぞお前?」

「それはないだろ」

「いやマジで。内面が外に出てきたって感じ。

 メガネ抜きでも、この前ルックスはB+にしたし、今や総合A。男の色気も出てきたしな。

 うまくすれば、水橋も惚れるんじゃね?」

「だといいけどな」


暫定的な答えは既に貰った。そして、俺は最終決断を急かすことはしない。

俺は本気で雫のことが好きだが、雫にはいくらでも可能性がある。

無理強いをする必要は無い……ということにして、俺はヘタレている。

勿論、この文化祭で何かしらのアクションは起こすつもりだが。


「そういえば、その水橋は何を着るか知らねぇか?」

「それが全然。女子の会話にも出てこなかったし、さっぱりだわ。

 ま、あの感じならあんまり変わったものにはならんだろ」


ネタ系には走らないと思うけど、ここで変な茶目っ気出さないか不安。

とはいえ場所は文化祭、つまり校内。あまりはっちゃけはしないだろう。

衣装チェックも兼ねて、校内公開の今日は全員、一度衣装に着替えるから、

そろそろ戻ってくると思うんだが……


「ただいまー」

「お待たせー。いやー、やっぱりみんなかぶるもんだねー」


見渡す限りのメイド、メイド、メイド。

クラシカルなロングスカートタイプ、コスプレ色の強いミニスカートタイプ、

アニメか何かから引っ張ってきたようなゴテゴテしてるもの等々。

一応はナース服とかもいるけど、基本は大体一緒。


「お前らもっと考えて選べよー」

「アンタ達も大概じゃん!」


言い争いを尻目に、男子の衣装を見てみる。こっちは種類多い。

戦隊ヒーローの全身タイツ、落武者、日本語Tシャツ他諸々。

ただ、どっちが接客に適しているかとなったら……うん。


「秀雅的にはどうなん、これ?」

「定番だからハズレにくいのはあるけど、コスプレ=メイドって訳じゃない。

 普通のウエイトレス服でも結構可愛いのあるし、セーラー服という手もある。

 けど、女子にその辺の知識はないか。言っといた方がよかったか?」


コスプレ喫茶をやるに当たり、俺はギャルゲー知識のある秀雅を少し警戒していた。

しかし、蓋を開けてみれば衣装への干渉は0。本人もスタンダードに軍服。

何故か聞いてみたら、「元ネタ分からないとつまらんだろ。ガチなのは高いし」と。

そのつもりはなかったが、心のどこかで秀雅を馬鹿にしていたのかもしれない。

この場合、馬鹿なのは俺だ。こういう無意識の見下しは反省しないと。


「いや、そこまでの必要は無いだろ。文化祭の模擬店なんてそんなもんだし」

「それもそうか。にしてももうちょい別の……お?」


視線が俺の後ろに向く。方向は教室入り口。

何が見えたのかと思い振り向くと、そこにいたのは。


(おぉ……そう来たか)


白衣(しらぎぬ)と緋袴、穢れなき佇まい。

ただ一人でその場の空気を変えることができる、日本の美。


「わぁ、雫ちゃんすごく綺麗!」

「……ありがとう。穂積さんも、似合ってるよ」


雫が選んだのは、巫女装束。ウィッグもつけて黒髪ロングに。

コスプレであるのにも関わらず、その姿は誰よりも絵になっていた。




開店準備をしながら、シフトを確認。

各部活の展示や発表会の都合がある為、部活所属者は拘束時間少なめ。

逆に言えば、帰宅部の俺はそれなりに拘束時間が長い。

だが、それは全く苦にならない。何故なら。


(うまく行って、よかった)


不自然にならないように注意しつつ、雫とシフトを合わせた。

同じ店舗で、同じ仕事ができる。それならできるだけ長い方がいい。

仕事に関しては海の家での経験があるし、問題はないだろう。

雫にとってはあまりいい思い出ではないというのが気になるが、

そこまで強烈なトラウマにはなってない、はず。

そして、もっと気がかりなのは。


「コレ本当にやるのか」

「まぁまぁ、これぐらいのサービスはね?」


サルの提案でできた、スペシャルシート。誰が持ち込んだのか黒のソファー。

この席に座る客は、一定時間直接店員からの給仕を受けられる。

おまけのツーショットチェキもついて、お値段1000円ポッキリ。(フード代別)

指名された店員の懐に全額入るということで、女子からも賛同を得た。

なお、書類にはコレの記載はない。混乱に乗じてブッ込みやがった。

これまでだったら門倉が止めただろうけど、落ち込んでるスキを突いた形。

そして、席の後ろには誰がどの時間帯にいるか、顔写真つきで並べられている。

……完全にその手の店じゃねーか。


「こういうとこで他店と差をつける。うちは発想が違う!」

「危なっかしいにも程があるだろ」

「怜二含め、やりたくない奴の写真はないし、各時間帯に腕っ節のある奴いるし。

 怜二が抜けた後は陽司、その次は優って感じで」

「はっはっは、不埒な輩を退治するのは任せたまえ!」

「だからポーズとらんでいい。まぁ、それなら大丈夫だろうけど。

 でもさ、売り上げは繰越金扱いだろ? そこまでいらんと思うが」

「ある程度は打ち上げ代ってことで還元されるらしいぜ。

 ま、怜二か鞠がミスターなりミスなりになってくれれば最高だが」

「それについては鞠に任せる。俺には期待すんな」


普通に仕事して、適当に校内回ろう。

明日の一般公開は、やたら忙しくなるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ