16.効果範囲:全
「雫ちゃんおはようっ!」
「……ぅ」
今だ進歩が見られないどころか、むしろ下がったまである状態。
水橋の天才的な才能は、コミュ力とのトレードオフなのだろうか。
穂積、ちょっとでいいからそのコミュ力水橋に分けて……あ。
「鞠、おはよう」
「おはよう、怜二くん」
「それは下駄箱に?」
「うん」
中央で留めるタイプの封筒。
分かりやすいことに、ハートマークのシールで留められている。
彼女はまた一人、無自覚に男子をオトしてしまった模様。
(なるべく傷つきませんように)
結果の分かりきっている告白。
同学年及び先輩方は、穂積がどんな人間かをある程度知っているので、
コレは多分、後輩の誰かか。
「ところでさ、昨日の部活ってどんなんだった?」
「新入生への入門編ってことで、お菓子作り。
一人だけ戸惑ってる子がいたから、私がついたんだ」
多分そいつだろうな。
穂積的には先輩として優しくしたってだけだろうけど、
相手側にとっては凶器以外の何物でもない。ハートを打ち抜かれる的意味で。
「でもって、こちらが昨日作ったクッキーでございます。お一ついかがでしょう?」
「頂きます。……うん、うまい。いい感じにバター効いてる」
「ふふっ、よかった♪」
料理研究会所属の穂積は、こうしてよくお菓子を振舞う。
去年のバレンタインは大変だったな。勘違い男子が殺到した。
……そういや、告白には明らかなチャンスだったと思うんだけど、
透に告白はしてなかったっぽいんだよな。
「透にあげようと思うんだけど、どうかな?」
「いいと思うぞ」
「ありがとう。あっ、透ー!」
実は透、甘い物はあんまり好きじゃない。
が、穂積含め、女子から貰ったお菓子類は美味そうに食ってるし、
穂積手作りのお菓子を拒否する男子は、この校内には居まい。
(ある意味、穂積も主人公補正貰ってるかもな)
誰からも愛される。誰もを愛している。
LIKEとLOVEの境界線を曖昧にし、勘違いさせる。
それを嫌う奴にすら、自然体であり続け、笑顔にさせる。
クッキーと一緒に、少しばかり元気も頂いた。
さて、本日も頑張るか。まだ見ぬ後輩男子が浅手で済むことを祈りつつ。
その日から少し後に、分かったこと。
「鞠、女子からラブレター貰ったって本当!?」
「うん。間違いだと思ったんだけど、本気だったみたい」
「また新たな伝説生まれたわ……」
「サルっち、聞いた? 鞠んが一年女子から告られたって話」
「モチのロン。ちなみに、鞠が女子から告られたのは、
俺の知る限りでは3回目だ」
「……勘違い男製造機改め、勘違い人間製造工場と名づけよう」
後輩男子よ、すまない。余計な心配だった。
そして穂積よ。透とは別な形で、お前のモテ具合もおかしいわ。
【サルの目:生徒データ帳】
・穂積 鞠
料理研究会
ルックス S
スタイル A+
頭脳 C
体力 B
性格 S
【総評】
クラスカースト最上位でありながら、誰とでも分け隔てなく接する陽キャラ。
しかもド天然物であり、勘違い男子の逆ギレや女子の嫉妬すら浄化してしまう。
透の彼女候補としては一番近いか。微妙に決め手欠いてる感はあるが。
学業成績はちょっと残念な部類だが、どうでもいい。
総合ランク:S