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153.大事には大事

その日中に、門倉は全てのクラスへの通達を終えたらしい。

当然大騒ぎになったが、門倉は固く口を閉ざし、教師陣は面倒がっている。

問題解決を望んだり、その為に動いているのは生徒だけ。


『怜二君、今大丈夫?』

『どうした?』


メッセが来た。この件は、雫も重く受け止めている。

本質的には楽しいこと好きだし、模擬店もやりたいと思ってたんだ。

このままにしておいていい訳がない。


『ボクなりに調べようと思って、先生から話を聞いてみた。

 けど、殆どの先生は無関心みたい。何人かは他の生徒にも聞かれてて、

 食傷してるから話したくもないって』

『この学校の悪いとこ出ちまったな……』

『問題意識があったのは上田先生ぐらい。けど、他にも分かったことがある。

 やっぱり、裏で山内先生が糸を引いてるみたい』

『マジか。もしかしたらとは思ったが』

『文化祭なんて下らないって言ってたから、文化祭自体を潰そうとしてるのかも。

 それも教育の為とかじゃなくて、恨んでるとか、憎んでるって感じで』

『ということは大方、門倉は利用されてると考えるべきか』

『ボクも、そうかもしれないって思ってる』


透が関係していたり、今のおかしくなっている状況だとその限りでは無いが、

元々の思考は品行方正かつ、学業優先というのが門倉。

文化祭そのものに憎しみがあって、こういうことをしているとは考えにくい。


『直接聞いてみるのは難しいか』

『さっきやってみたけど、うるさいって言われただけだった』


取り付く島も無い、か。成績でマウント取りまくって、それが出来ない相手は

無視を決め込むか一方的に拒絶。……まさか、ここまで幼稚な奴だったとはな。

誰か、門倉が何を考えているかを引き出せる人間は……


『会長しかいねぇな、聞きだせるの』

『私もそう思う。けど、凄く忙しそうなんだよね』

『部分的にでも、仕事が代われないか聞いてみる。それで時間が作れれば』


直接の問題解決の為の行動ではないが、補助的なものが必要と見る。

文化祭そのものを元に戻すのが主目的だが、イレギュラー対応のサポートとか、

副次的に発生した問題を解決する必要もある。

そして、俺はそういう裏方仕事が得意だ。なら、その方面で動こう。




「君のおかげで、門倉君と話す時間ができそうだ。恩に着るよ」


やはり、会長は門倉からの事情聴取をする時間がとれていなかったようだ。

今後の段取りや、想定される可能性の説明する必要があったとのことだが、

山内先生のクラスは勿論、やる気の無い先生方にお願いした所で、

きちんと伝えられないか、間違った形で伝えられると判断し、

生徒会メンバーで直接伝達することにしていたらしい。


「役員で手分けはしているが、仕事は文化祭以外にもある。

 加えて山内先生が目を光らせているようで、絶対的に人数が足りない。

 ……君には、迷惑をかけるな」

「迷惑だなんて思っちゃいませんよ。俺だって、文化祭を楽しみにしてたんです。

 これが解決の為の一助になるなら、幸いです」

「ありがとう。その気持ちと働きに報いてみせるよ」


俺以外の人の行動を円滑にする為に、俺は動く。

今回は全校を巻き込んだ騒動だ。多分、俺の役割はそういうとこなんだろう。

やれそうなところは、積極的にやっていく。


「ところで先輩。率直に聞きますけど、山内先生ってどんな人なんですか?」


その為の情報収集の一つがこれ。考えてみたら、俺は山内先生を印象でしか知らない。

恐らくは敵対することになるし、知れることは知っておくべきだ。


「山内先生か……」


腕組みをして、視線を宙に泳がせた。

何も無い中から搾り出そうとしているか、色々と思うところが多過ぎるのか。

恐らくは、後者の方だろう。仮にも生徒会顧問なんだから、接点は多いはず。

さっき聞いたところによれば、今回の件で圧力かけられてるみたいだし。


「ある意味、優秀な教師だよ。『教育』というものを誰よりも考えている。

 惜しむらくは、それが屡々(しばしば)独善的であるということだ」

「それらしき話は聞いてます。噂の範疇ですけど」

「その中に、非行に走っていた生徒を正しき道に戻したという話はあるか?」

「えぇ。一番有名なものかと」

「どうも、それは恣意的な要約らしい。その手段は暴力と恫喝だったそうだ。

 卒業生の先輩方や、先生方が異口同音に言っていたから、信憑性は高いはずだ」


雫が妙な噂を立てられていたという例があるから、断言はできない。

しかし、会長が嘘をついている、もしくは適当言っているとも思えない。

何のメリットもないし、そもそも会長は嘘がつける人間ではないからな。

下手すりゃ嘘をつくぐらいなら切腹するとか言い出しそうな人だし。


「今回のお話で分かったことがあれば、後で連絡頂けますか。

 門倉、ずっと話を拒絶してて……」

「彼女からの信頼はそこそこにあると自負している。聞き出してみせるよ」


日数は残されていない。

本来の文化祭に戻せたとしても、模擬店の準備ができなきゃ意味が無い。

絶対に、何とかしなきゃならねぇんだ。




翌日の朝。

会長はどこまで話を引き出せたか、門倉はどうなっているか。

風雲急を告げる中、報せが届いたのは意外な所からだった。


「せんぱーーーーーーーーーーい!!!!!?」


新人戦に向けて練習量を増やしているとは、練習に付き合っている雫の言。

熱血陸上娘、八乙女が久方ぶりに教室に押しかけた。

相変わらずの声量に押し切られそうになったが、聞き逃さなかった。

何か、声色がいつもと微妙に違う……?


「落ち着け。どうしたんだ急に?」

「たっ、たっ、大変なんです!」


珍しく、息を切らせている。こいつがこんなに慌ててるのを見るのは初めてだ。

一体、何が……




「うちのクラスが、文化祭をボイコットするって言い出したんです!」




「…………ボイコット?」


驚き、困惑、混乱。

様々な感情が入り乱れ、逆に声を小さくさせるには、十分すぎた。

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