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152.これも慣れたこと

さも当然のように言ってのけた後、席に座って民俗学の本を出す。

意に介さないどころか、至極当然とでも言わんばかりに。


「参考資料ならあるから。他には図書室からでも……」

「おい門倉! どういうことか説明しろ!」


男子の一人が食って掛かる。そりゃ当然だ。

文化祭の模擬店がなくなったなんて、誰も聞いちゃいねぇ。


「何をかしら。文化祭は文化への造詣を深める行事よ」

「お前も書類貰ったよな! 模擬店の出店要項とか!」

「あれは模擬店の話じゃなくて、クラスで何をやるかでしょ?」


言い争いは平行線。このままじゃ埒が明かねぇ。

まずは何がどうしてそうなったのか、そもそも本当にそうなったのか。

現状の把握が最優先だ。


「門倉。それは誰が決めたことだ?」

「あなたに関係ないでしょ」

「大アリだ。俺もこの学校の生徒だし、過去にこんな事例はない。

 去年はどのクラスも模擬店やってただろ」

「去年は去年。今年はそうもいかない。

 ま、テストで不正をするような誰かさんに言っても分からないでしょうけど」


落ち着け俺。門倉がトチ狂ってるというのは今に始まったことじゃねぇ。

この部分を否定したら「誰かさんって言ったのに、自覚があるのかしら?」とか、

揚げ足を取りに来るに決まってる。そのトラップには引っかからんぞ。


「先生がそう言ったのか?」

「はいはい。さっさとあなたも何の文化を発表するか考えなさい」

「その前に誰が……」

「うるさいわね! 決まったんだから私の言う通りにしなさい!」


持っていた本で机を思いっきり叩いて威嚇し、話を強引に打ち切る。

……会話すらできねぇのか。いくらなんでもこれは異常だ。

周りも問い詰めてはいるが、完全無視を決め込んでる。


(……別の所から、調べるか)


おかしなことになってる門倉からは、何も得られそうにない。

先生方とか、生徒会とか、別の場所から情報を引っ張ろう。




「俺も情報収集は今から。現時点では何にも分からん」


まずは基本となるサルから。事前情報でも持ってるかと思ったが、

流石のサルも困惑しているらしい。


「規定が変わることはあるとしても、模擬店自体が禁止にはならんだろ。

 そうなる理由が無いし、そもそもどうやるってんだよ?」

「生徒会か、教員会議のどっちか?」

「多分な。いずれにしても麻美一人でどうこうできるもんじゃねぇ。

 誰か組んでると見るべきだな。例えば山内先生とか」


山内……現生徒会顧問で、門倉との太いラインを持つ教師。

その詳細は知らんが、門倉が誰かと協力して何か仕掛けるとしたら、

その候補として真っ先に浮かぶ。次点で深沢会長、あとは透というとこだが、

他の二人がこんなことをやるとは考えにくい。


(で、その内会長は)


門倉の言っていることが本当なのか、メッセージで連絡をしてみた。

返信は予想通り『初耳だ。既に模擬店希望の書類は受理している。

その精査を行うことは彼女にも伝えたのだが……』とのこと。

その後に『とにかく、麻美君に話を聞いてみる。連絡ありがとう』と来た。

つまり、この件に関して会長は一切関わっていない。

透はもっと難しいだろう。何せ当の本人は補習に追われている。

接触する時間をとることすらままならない。

いずれにしても、無茶苦茶だ。独断専行か、誰かが裏にいるのかは知らねぇが、

いくらなんでも無理筋が過ぎる。


「ハッタリの線もあるだろうな。それか変わったと思ってるのは本人だけで、

 実際は何も変わって無いということも。いつもの早とちり的な」

「それは俺も考えた。大掛かりっていうレベルじゃねぇ。

 仮に山内先生と組んでたとしても、二人で行事丸ごとは変えられないだろ」

「ま、こういう時こそ俺の出番よ。実際に何かしたりはしないが。

 でもまぁ、必要なら俺も責任被るから。怜二なら、そう思える」

「……どうした? 何か悪いもんでも食ったか?」

「言うと思った。けど、俺の行動原理は知ってるだろ?

 透につくのは、もうメリットよりもデメリットの方が明らか多いんだよ。

 その点怜二なら、信頼できるし」

「そうか。なんか、ごめんな」

「いいってことよ。鞠や雲雀先輩の件もあったし、お前さんなら何とかしてくれそうだしさ」


遂にサルも、透から離れ始めた。

順当に失脚の坂道を転がり落ちている。どうすんだろうな、透。




「九分九厘、ロクなこと考えちゃいねぇと思う」


山内先生が、門倉と組んでいると仮定して。

詳しい情報を持っているのは、部活の顧問という関係がある陽司か。

こいつもこいつで、いい印象は持っていないみたいだ。


「アニキからの話だけど、会長を邪魔だと思ってるらしい。

 秩序を守るっていうか、縛り付けることが教育だと思ってるとか」

「なるほど。そこまで来ると門倉も拒絶しそうな気がするが」

「利用されてるって線があるかもな。普通に同調しててもおかしくねぇけど」


仮定が合っていたとして、どっちがヤバいだろうか。

門倉は御そうと思えばやれんこともない。となると山内先生か?

事が分かり次第だが、今後の動向には注意する必要がある。


「俺も拾えそうな所は拾ってみる。文化祭の改悪とか許せるか。

 こちとらそれが楽しみで生きてんだよ」

「同じく。透も役立ちそうにねぇし、色々やってみるわ」


古川先輩の時に続き、陽司も頑張ってくれるらしい。

なら、俺も微力を尽くそう。




「まぁ、何とかなるんじゃねーの?」


透は相変わらず楽観的。

距離を取っていたから、俺に対してどういう反応になるか気になったが、

古川先輩との件も、カンペ捏造の件も忘れてるらしい。

もっとも、こいつから反省の言葉が出るなんて、ハナから期待しちゃいない。

同様に、何かが得られる可能性も低いと思ってたし、落胆はない。

それより、ついでに門倉とのことを聞いておくか。


「最近、門倉と話してねぇみたいだけど」

「麻美も忙しそうだしさ、たまには一人にしてやった方いいだろ。

 それより鞠はどうしたか知らねぇ? 俺と一緒の時が一番楽しいはずなのに、

 最近よそよそしいんだよな。あいつは一人にしてやれねーんだよ」


自分の都合を優先した結果、三行で矛盾したよコイツ。

どんな頭してるのか、一度カチ割って見てみたいわ。


「知らんな。それこそ門倉がああなってるのと同じぐらいには」

「何でだろうなー。俺、何もしてねーのに」

(何もしてないからだろ)


余計なことはしまくってきたけどな。

本当に何もしてなかったら、どれだけ救われた人間がいることやら。

今回の件も、完全排除でいい。いや、排除すべきだ。

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