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150.生徒会長、脇役を呼ぶ

色々な意味で波乱が起きた中間テストも終わり、いつもの日々に。

あれから、透と透ハーレムの周辺は何かと変化している。


「麻美、ちょっと……」

「何!?」

「いや、その、提出するプリント……」

「そこに置いて頂戴!」

「っ! わ、分かった……」

(……透以外なら、誰に対してもか)


門倉はずっと、気が立ちっぱなし。

あの時のことは時間が解決してくれることを望んだが、願い届かず。

異常な状態のまま、文化祭を迎えることになりそうだ。


「なぁ鞠、今度の土日空いてる?」

「ごめんね、しばらく遊びに行けそうにないんだ」

「マジー? 最近付き合い悪くねー?」

「私も色々あって。ごめんね」


穂積は俺の嘘アドバイス通り、透から距離を置こうとしている。

その一方で透はやたらと穂積に絡み、様子のおかしい門倉を気にかけてはいない。

これは心配ないというより、面倒くさがってると考えるべきだろう。

で、空いた時間と心の隙間は穂積で埋めようとしている、と。

生憎、その逃げ道は封鎖させてもらったよ。……というか、それ以前に。


「透。補習と追試がいつあるかを忘れた訳じゃないよな?」

「あっ、先生! やだなぁ、俺がそういうのすっぽかす人間に見えます?」

(……見えるから言われたんだろが)


夏休みの宿題を門倉に代筆させていた報いは、中間テストできっちり来た。

数学で赤点が出たらしく、平常点含めてなお足りない模様。

追試が失敗すれば冬休みが消し飛ぶ。勿論、無断欠席すれば留年だ。


この場合気にかけるとなったら、門倉がどうなるかだ。

裏を返せば、門倉も透から安心感を得ることができない状況にある。

俺にテストの点数を抜かれたことは勿論、透が赤点になったのも辛いだろう。

交流が無いから透以上に予測不能だ。とはいえ性格が性格だから、

あまり大きなことは起こさない……と、思いたい。

古川先輩と八乙女も気になるが、古川先輩のケアは雫がいるし、

八乙女も新人戦に向けて頑張ってる。今現在で、俺が何かする必要は……


「失礼する」


思い悩んでいたら、教室の入り口からハスキーボイスが響いた。

音量自体はそこまで大きくないが、非常に印象的で、通りのよい声。

そしてこの声の主の名前は、校内生徒・教員全てが知っている。


「3年6組、出席番号28番、深沢凛。

 2年1組、出席番号27番、藤田怜二君に用があってここに来た」


完全無欠の生徒会長、深沢先輩。

……ん? あれ、もしかしなくても俺を呼んだ?


「はい、俺が藤田ですけど」

「あぁ、知っているよ。今日の放課後に時間はあるか?

 少しばかり、君に話したいことがあるんだ」

「構いませんよ。どちらに行けば宜しいでしょうか?」

「感謝する。それでは放課後、生徒会室に来てくれ。そこまで時間は取らせない」

「分かりました」


にしても、フルネームどころか出席番号まで覚えられてるとは。

俺と先輩に接点は無い。とはいえ、先輩のことだ。俺を気にかけていたというよりも、

全生徒のフルネームと出席番号を暗記しているということだろう。

相当に難しいことだとは思うが、会長ならできそうだし。


「会長。ご用があるなら私が承ります。彼は全く頼りにならない人間ですから」

(ここにも突っかかるか)


これも、躍起になっているが故か。もしくは俺を敵対視してるからか。

いちいち貶すことに関しては、諦めたからどうでもいい。


「麻美君。それは私に人を見る目は無いということか?」


えっ? 先輩、何でそんな嫌味ったらしい言い方を……


「そっ、そんなことは!」

「私は藤田君に用があるんだ。君に為せて彼に為せないことがあるように、

 彼が為せて君に為せないこともある。そこを弁えよ」

「……はい」


あの門倉を、完璧に押さえ込んだ。

やはり、深沢先輩は最強の生徒会長だ。どんな相手にも物怖じせず、どんなこともできる。

初めて見たが、これが生徒会長としての『深沢凛』という人間、か。


「では、失礼する」


それにしても、一体どういうことだろう。

俺の周りでは色々あったが、俺自身が何かやったということはない。

強いて言うなら古川先輩の件? それぐらいしか浮かばないな。




放課後、生徒会室に入る。

深沢先輩は既に椅子についていた。


「よく来てくれた。茶は飲むか? ペットボトルだが」

「すいません、頂きます」


ペットボトルを受け取り、緊張で乾いた口内を潤す。

生徒会に所属していない俺にとっては、この場所に入るのは初めて。

とりあえず、先輩の向かい側に置いてあったパイプ椅子に座る。


「鍵はかけるし、後輩に人払いを任せてある。意味するところは分かるな」

「他言無用ということですか」

「あぁ。君の評判は聞いている。忠告するまでもないとは思うが、な」


凛々しい表情を少し緩めて、俺の目を見る。

分かってはいたけど、目力強いな。吸い込まれそう。


「話の前に言っておく。前回の中間テストで、君は大幅な躍進を遂げたそうだな。

 例年成績が落ち込みやすい時期に、素晴らしいことを為したと、私は思う」

「ありがとうございます。今回は調子が良かったもので」

「今後も好調であることを祈るよ。さて、それでは本題だ。

 その中間テストがあってからのことなのだが、麻美君の様子がおかしい」


なるほど、そのお話でしたか。

会長から見える範囲でも、何かしらの異変があると。


「彼女が言うには、君は不正行為を働き、テストの点数で自分を上回った。

 しかし、いくら調べてもその証拠が出てこない。こんなことはありない。

 絶対、何かを隠している……率直に聞くが、君は不正をしたか?」

「いえ、してません。証拠は無いですけど」

「私も悪魔の証明を要求するつもりはないし、君が不正を働いた可能性は

 限りなく低いと思っている。元より君の成績は優秀な方だし、

 麻美君に対して思うことがあるとしても、こういうやり方は好まないだろう」

「仰る通りですけど、何故そう思いました?」

「私は生徒会長だ。全校生徒の特徴を把握する程度造作も無い……とまではならんが、

 知っている範囲は一般生徒よりは広いつもりだ」

「流石、ですね」


情報通のサルとはまた違った形かつ意味で、詳しいんだろうな。

その熱意をもって、生徒会長になった訳だし。


「本人を諭そうとしたんだが、一向に聞き入れてくれなくてな。

 そこで、君に聞きたい。最近、麻美君に何か変化はあったか?

 どんな些細なことでもいい。教えてくれないか」

「分かりました。できるだけ思い出してみます」


一応、話せることは色々とあるからな。

出せる情報は全部出しておこう。

 



「そこで突然声を上げて、暴れだしまして」

「ふむ、不可解だな。普段の麻美君は極めて理知的な人間だ。

 感情的になることはあるとしても、そこには論理がある。

 無茶苦茶な癇癪を起こすようなことはないと思っていたのだが」


テスト後にあったことを中心に、情報を提供する。

会長から見ても、門倉が衝動的に怒ることは不自然に感じるらしい。


「時に藤田君。その話なのだが、神楽坂君はどの程度関わっていると考える?」


今思えば、透の行動も非常に怪しい。普通に考えれば、あのカンペは透の捏造。

透の独断だとは思うが、門倉と結託したという可能性も消しきれない。

ただ、そうだとしてもその後の門倉の暴走は想定外だったんだろうけど。


「どうでしょうかね。あいつも大概自己中な奴ですし。

 機会に乗じて、俺を陥れようとしたってとこじゃないですかね?」

「彼の醜聞は聞いているよ。何なら雲雀君の件で見てもいる。

 強ち間違いでもないかもしれないな」


腕を組み、口がへの字になる。会長も、透のことはよく思っていないようだ。

まぁ、あいつの本質を知ってよく思う奴がいるとは思えないが。


「私の望みは、全生徒が充実した学校生活を送ることができるようになることだ。

 そして、その為には生徒に可能な限り、自由を与えることが必要だと考える。

 だが、誰かの自由が誰かの幸福追及の妨げになるのなら、その限りではない」


普通の高校の生徒会長の望みとしては非常に立派だが、あまりにも高すぎる理想。

それでも校則の改正等で、目に見える成果を出してきたのが深沢先輩。

本心から言ってるだろうし、決して絵空事ではない。


「本気、ですよね」

「愚問だ。私はこの望みを目標に生徒会長になったんだ」

「失礼、言葉が足りませんでした。深沢先輩っていつも本気ですよね、という意味です。

 遊び半分で生徒会長になった訳じゃないということは理解しています」

「あぁ、そうだったか。確かに私は常に全力を尽くしている。

 青春は短い。今の自分を後押ししてくれるのは過去の自分だ。

 今本気にならないのなら、いつ本気になるというのだ」

「先輩の場合、生きてる間はずっと本気でもおかしくなさそうですけど」

「ははは、違いない。とはいえ、私も多少は休息がいる。

 生徒会を引退したら、受験前に少しばかり、落ち着かせてもらおう」


生徒会の業務がどういうものなのか、俺はそこまで知らない。

だが、一般生徒である俺が知ってる部分だけでも色々とやり遂げてきたんだ。

実際にやってきたことは相当にあるだろう。


「故に、麻美君のこと含め、今の諸問題を解決したいんだ。

 彼女は真面目で誠実な人間だが、時折感情的になるきらいがある。

 その部分の支えというのが神楽坂君というのもまた問題だ」

「先輩は透のこと、どこまでご存知です?」

「雲雀君に関連したことなら殆ど。体育祭での蛮行も知っているよ。

 故に、雲雀君の苦しみに気付けなかったことは、私の大きな過ちだ。

 君と君の友人の働きには、本当に助けられたよ」

「友人に恵まれたもので」

「類は友を呼ぶ。君の人徳だな」

「買い被りすぎですよ」


俺の友人に陽司や翔、秀雅やサルがいたのは、単に運がよかっただけだ。

この頃は脇役補正的な不運や間の悪さを感じることは殆どない。

意識を変えた甲斐があった、かもしれない。


「いずれにしても、門倉がおかしなことになってるのは事実ですね。

 思い当たる節と言えば、それこそテストぐらいしか」

「成績そのものは下がっていないんだがな。どうしたものか……」

「すいません、力になれなくて」

「君が謝る必要はないよ。力不足を嘆くべきは私だ。

 しかし、嘆いてばかりもいられない。早急に解決する必要がある。

 そこでなのだが、連絡先を教えてくれないか? 今後も情報交換をしたい」

「構いませんよ」


努めて冷静に返答をしたが、ちょっと驚いた。

生徒会関係者でも何でもない俺が、深沢先輩の電話番号を手にするとは。

とはいえ、雫みたいに雑談相手を求めてるわけじゃないから、

業務的な内容オンリーになるんだろうけど。


「これでよし、と。何かあったら宜しく頼むよ。

 最後に聞きたいんだが、仮に今回のように事情聴取をするとして、

 神楽坂君を呼ぶ必要はあると思うか?」

「それを聞く時点でお考えかと思いますが、100%ありません。

 はぐらかした挙句、ナンパ紛いのことをされて時間の無駄になるのがオチかと」

「やはりか。一応、彼も関係者だがな。カンニングペーパー捏造疑惑といい」

「透のことが気になるんだったら、俺に聞いて下さい。

 幼馴染だったんで、無駄に詳しくなってますから」

「そうさせてもらうよ」


これは決して、透を不利にさせるための行動ではない。完全なる真実だ。

あいつが先輩に対してまともな言動をすることはありえない。

嘘をつくのは当然として、美人には見境がないんだ。ロクなことにならん。


「雲雀君の件は勿論として、君は何かと頼りになる人間だと聞いている。

 生徒会役員ではない君に手数をかけてすまないが、これからも宜しく頼む。

 その代わりと言うには自惚れが過ぎるが、君からも相談があるなら連絡してくれ」

「いえいえ。大事な青春の為にも、相互協力と参りましょう」

「……君、意外と面白い人間だな」

「そう仰るということは、普段の言動の自認はそれなりに?」

「自覚はしてるさ。青春第一、直情径行型の人間だということは。

 かつては単刀直入とも言われたよ」

「あぁ、語源の方ですか」


一振りの刀を持って、敵陣へと特攻をかける。

生徒会長としての深沢先輩の特徴を、この上なく現している四字熟語だろう。


(さしずめ俺は、足軽ってとこか)


生徒会は面倒な仕事が多いから、俺は入るつもりはない。

だが、支援先が信頼できる人なら、雑役を勤めさせて頂きますよ。

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