15.スタイル・コントラスト
「せんぱーーーーーーーーーーい!!!!!」
特定余裕。
相も変わらず、元気なことで……おや?
「透くん……」
これは初めてのパターンだな。
何もかもが逆の二人が、ここで出会うか。
ダウナー系巨乳文学少女、三年生の古川先輩。
アッパー系スレンダー陸上少女、一年生の八乙女。
遂に同タイミングで、透に会いに来た。
「どうも、雲雀先輩。って、つかさも来てたのか」
「……? あっ、これはどうも!」
「あっ、うん。初めまして……」
さて、八乙女にとっては初めての透ハーレム女子との邂逅だが、
どうなるのかね。
「先輩も透先輩にご用事で?」
「えっと……うん」
「でしたら、お先にどうぞ!」
「あっ……ううん、大丈夫。私は後でもいいから。えっと……」
「八乙女つかさです! 八百屋のやにグッっと行ってからギュッと曲げる字にくノ一!
つかさは全部平仮名です!」
「あ、ありがとう……」
テンションの差が激しすぎて体に悪そう。
そして八乙女よ、『乙』の字の説明、もっとどうにかならんかったのか。
「透先輩! いい汗をかきに! ひとっ走りふたっ走りみっ走り!
やってみませんかーっ!?」
「……!」
言っちゃったな。
表情は分からないけど、あの前髪の震えは動揺と見ていいだろう。
ここで透はどういう選択をするのか。
「悪い。今日は文芸部行く予定なんだ」
「文芸部!? 先輩、帰宅部じゃなかったんですか!?」
「俺は正式には部活やってないだけで、帰宅部じゃねーよ。ですよね、雲雀先輩?」
「……えっ? あっ、うん」
「なんと! えっと……すいません! お名前いいですか!?」
「あっ、うん……古川、雲雀」
「古川先輩ですね! もしかして、透先輩を呼びに?」
「うん」
「そうでしたか! これは失礼致しました!」
妥当と言えば妥当。
古川先輩の方が、自分から言い出すの難しいだろうし、
どっちを気にかけるかとなった場合、この選択になるか。
「ま、そっちはその内な」
「かしこまりました! では、わたしはこれでっ!」
「あっ、八乙女さんっ!?」
「相変わらず速ぇなー。……じゃ、雲雀先輩」
「あっ……うんっ!」
ごく自然な流れで手をとりやがったよ、この主人公様は。
さてさて、これからどうなることやら。
「怜太先輩!」
今日は珍しく、透ではなく俺に声。
透は穂積と遊びに行くみたいだったから、既に帰ってるけど。
「何だ?」
「古川先輩と透先輩って、お付き合いされてたりしますか!?」
久方ぶりの、TPとしての御用か。
コイツのことだから、本人達に直接聞いてもおかしくなさそうなもんだが。
そこら辺は流石に線を引いたんかね。
「付き合っては……いないな。
知っての通り、ちょくちょく文芸部には行ってるけど」
「なるほど! それならまだ大丈夫ですね!」
そういえば、透に告白済みなのは何気に八乙女だけか。
やり方と普段の言動がアレだから、本気にされてないけど。
「それにしても、透先輩ってやっぱりモテるんですね!
古川先輩、運動はされてないみたいですけど、なんかこう、その、
……どーん! って感じで!」
うんうん、分かるよ。
穂積と違って、結構コンプレックス感じてるのかもな、八乙女。
とはいえ、こいつは陸上やってる分、脚が綺麗だけど。
「うー……なんかモヤモヤしてきたんで走ってきますね!
先輩もどうです!?」
「遠慮するわ。バイトあるし」
「左様でしたか! それではっ!」
全力疾走する姿は、こうして見るとカッコ可愛い。
八乙女は多分、『黙ってれば美人』っていうタイプだな。
「失礼します」
「あ……いらっしゃい」
翌日、今度は古川先輩からお呼びの声が。
ということで、文芸部の部室に向かった。
「どうも。それで、話って何ですか?」
「うん、あのね……八乙女さんと透くんって、どういう関係?」
今度はこっちからか。確かに不安でしょうね。
八乙女が恋愛感情持ってることについては……伏せておくか。
「中学の時から一緒の、先輩と後輩です。
たまに走り込みに付き合ったりするくらいの、友達ってとこですね」
「そう、なんだ」
空気が少し、弛緩した。
穂積と門倉に加えて、八乙女も透を狙ってるとなったら、
内心穏やかにはなれんだろうし。
まぁ、八乙女はああいう奴ということを考えると、バレるのは時間の問題っぽいが。
「その、さ。透くんって、痩せてる子の方が好き、かな?」
「正直分かりません。あんまりこだわり無い感じかと」
「……やっぱり、私みたいに太ってるのは嫌いかな」
先輩のそれは太ってるんじゃないんです。肉付きがいいと言うんです。
八乙女も古川先輩も、タイプが違うだけでスタイルいいんだけどね。
お互いに逆の悩みを抱えるか。
「そんなにたくさん食べたりはしないんだけど、私、体質的に太りやすいんだ。
二年生の頃で70……ッ! あっ、ごめん! 何でもないから!」
すいません、バッチリ聞こえました。
でも先輩、タッパもあるからそれくらいでもデブではないはず。
「透、古川先輩の事を悪く言ったことないですから。
あんまり気にする必要、ないと思いますよ」
こういう時にかける言葉の正解は、恐らくはこう。
俺自身がフォローを入れたところで、より自分を卑下するだけ。
透にどう思われるかが気になってるのなら、その答えっぽい物を出せばいい。
「そっか……ありがとう」
「いえいえ。では、俺はこれで」
【サルの目:生徒データ帳】
・神楽坂 透
帰宅部(女絡みなら文芸、陸上に顔出す)
ルックス S
スタイル B
頭脳 C+
体力 B
性格 B
【総評】
ルックスこそ超絶イケメンだが、それ以外は普通。
しかしモテ方がただ見てくれいい奴のそれとは全く違う。
理由らしい理由も無く、相当神様に愛されたとしか思えない。
あまりにも規格外過ぎるので、暫定的に専用ランクをつけておく。
総合ランク:殿堂入り