148.7cm
小腹を満たした後は、適当にウインドウショッピング。
服は予定通り買ったし、他に買いたいものがある訳でもない。
でも、折角学校のファッションリーダーの翔も来てるし、
小物類を見繕うことにした。
「ゴリゴリのアクセはめっちゃ人選ぶってのは分かるよな?
かといって無難過ぎるのも面白くない。そこのバランスが重要。
肌や服の色と合わせるか、ワンポイント入れるか。
一回方向性決めてから選んだ方がまとまるぜ」
「髪飾りだと、どういうのがいいかな?」
「透狙ってるなら怜二に聞いとけ。どうなん?」
「今のままでいいと思うぞ」
正確には、何でもいい。透はまず間違いなく気付かないから。
顔や胸、尻とかはよく見るけど、爪とか小物の変化には全く気付かないし。
それでやたらモテるんだから、ルックスの重要性というのは本当に。
(整形以外でどうにかするってなったら、ファッションだよな)
雫が勧めてくれたんだし、伊達メガネを買い足してみるか。
といっても、伊達メガネってどこで売ってる? 普通にメガネ屋?
それともアクセサリー関係? どっちだろ。
「藤やんみたいに伊達メガネってのもアリだな。コレとか」
(あ、普通にあった)
メガネ屋じゃなくても置いてあるのか。しかも比較的安い。
適当に選んでみるか。
4人それぞれで思い思いの品を選び、それぞれの意見交換。
ここでもやはり、中心となるのは翔。
「俺は今回革ジャンで行ったから、思いっきりメタル系。
手首にチラっと光るシルバー……ヤベーだろ?」
「カッコいいな。言い方が鼻につくが」
「ふっふっふ、カッコつけてこそ前島翔よ!」
伊達メガネは一人で来たときに買うと決め、俺はキーホルダーを選んだ。
地味な財布のワンポイント。もしくは鞄か。
「えへへ、おそろだねー♪」
「……うん」
穂積と雫は、雪の結晶をモチーフにしたブローチ。
シンプルで主張し過ぎないデザインだから、大体の冬服に合いそう。
何より、雫の表情がほんのり緩んでる。嬉しいんだろうな、間違いなく。
「じゃ、これで会計とするか」
「そうだな。色々買ったけどさ、翔、懐大丈夫なん? それ割と高かったし」
「んー、微妙。ま、もうちょいでバイト代入るし、いいものは高いんだよ。
対価なしでいいもん手に入るとか、虫がいい話なんて詐欺以外にねぇよ」
(……確かに)
うまい話には裏がある。対価にしろ代償にしろ、等価交換。
俺の目標だって同じだ。雫を彼女にしたいなら、自分を磨かねばならない。
そして、透と決別するに当たっても、多少の心の痛みは仕方ない。
「で、この後どうするよ? もうちょい遊ばね?」
「私はまだ大丈夫だけど、怜二くんと雫ちゃんは?」
「そろそろ、帰ろうと思ってた」
「俺も。バイトのシフト出さねぇと」
「じゃ、藤やんと水橋とはここでお別れか」
「怜二くん、雫ちゃん。また遊ぼうね♪」
今日は何かと充実した一日だった。
翔は相変わらずだったが、いい動きをしてくれたし、楽しかった。
雫も総合的には楽しんでたみたいだし、そこそこいい結果だろ。
三人には、感謝しないと。
「ということで鞠んよ、思いがけなくデートということになったな!」
「デートではないかな。けど、折角だから遊ぼっか」
「つれねーなー。ま、それなら勝手にデートだと思わせてもらうぜ♪」
……いや、感謝はしてるよ? 服を選ぶのとか助かったよ?
だから、せめて俺がここから去ってからにしてくれよ。
「楽しかったよ。前島君は、やっぱり苦手だけど……」
帰り道、今日一日の感想を雫から聞いてみる。
内容はほぼ予想通り。翔がもう少し自重してくれればよかったんだが。
「もうちょい捌ければよかったんだけど、ごめんな」
「怜二君が謝ることなんてないよ。
前島君も、悪い人ではないと思うんだけど……」
翔を相手にするのが得意な女子といったら、それこそ苦手な相手が存在しない穂積ぐらい。
面食いな女子は透に矢印向いてるし、翔のレベルだともう一つか。
正に天から二物を貰えなかった、残念なイケメンだよ。
「ところでさ、雫の伊達メガネってどこで買ったんだ?」
「今日行ったお店。小物系は大体そこからかな」
「へぇ。メガネの他はキャップとか?」
「うん。色々と幅広いし、安いから便利なんだ」
色々な種類買うとなったら、それなりに金がかかるしな。
勉強会の時に分かったけど、メガネだけでも結構な種類あったし。
「ところで怜二君、今日、よかったね」
「……何が?」
「穂積さんに言ったこと。あれ、逆アドバイスだよね?
神楽坂君、構われたがりだし」
「あー……分かる?」
「ボクは興味無いのにやたら絡んでくるから、分かってきた」
最近になって、透はまた雫に絡み始めた。
そうでなくても古川先輩の件もあるし、あいつがどういう人間かは、
嫌でも分かってしまうというところか。
「今までずっと、後手に回りっぱなしだったからな。いい加減覚悟決めねぇと」
「そうかな? 怜二君、わりと頑張ってると思うけど」
「全然だっての。今まで雫だったり、陽司や翔、秀雅に任せっきりだった。
俺が変わらなきゃならねぇんだから、俺がやらねぇといけねぇのに」
もう、『都合いい人』はやめる。何なら『いい人』もやめる。
……けど。
(いや、何が『けど』だ!)
腹決めたんだろ!? 振り切れよそんなもん!
こんなこと、当然だろが! あいつがどんだけやらかしてきたと思ってんだ!
だから……けど……!
「ねぇ、怜二君。あっちの路地行かない?」
「え? あぁ、いいけど」
雫からの謎のお願いの声で、俺の葛藤は一時中断となった。
別にいいけど、急にどうした? その辺は店どころか、人もいない。
帰りの近道って訳でもないし……
「ここかな。それじゃ怜二君、ちょっと屈んでもらえる?」
人気のない、室外機が大通りからの視線を遮る位置。
全く意図が分からないが、拒絶する理由もない。
軽く膝を曲げ、雫の身長と同じぐらいの位置まで頭を下げる。
「こんな感じか?」
「うん、丁度いい」
行動の予測がつかないことに関しては今に始まったことじゃないが、
それにしたって、謎のお願い二連続というのは不可解。
今回の女神様は、一体どんなお戯れを……
(……ん?)
柔らかな感触は、頭から。
そして、草木を掻き分けるような音が続く。
「よしよし」
……あの、雫? 何で俺の頭を撫でてるんだ?