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143.バランスのとれた不安定

街路樹が色づき、道行く人々の装いも秋らしくなってきたある日の週末。

俺はグレーのインナーに深緑のジャケットを羽織り、駅前に来ている。

雫から貰った伊達メガネもかけた。なんとなくこそばゆい。

時刻は10時過ぎ。待ち合わせの時間を考えると明らかに早いが、

いてもたってもいられなくて、結局来てしまった。


(あー、楽しいな畜生)


テスト明けの息抜きの時間を雫と過ごせるだなんて。

今回は夏休みの時とは違って、穂積含めて友人との遊びという概念だが、

それもそれで十二分に楽しい。


「怜二くーん!」


先に来たのは穂積。補色を上手く組み合わせた、メリハリのあるコーデ。

無難な色やデザインを選びがちな俺とは正反対の派手な服装だが、

全体のバランスは上手くとれている。


「早いな」

「怜二くんこそ。ところで、この服どうかな?」

「いいと思うぞ。透も明るめなの好きだし」

「透……うん、透もか……うん、よかった」


……ふむ。夏祭りの一件が、まだ尾を引いているのだろうか。

透の話になれば、いつも太陽みたいな笑顔を輝かせるはずだが、

控えめな微笑みに留まる。


「多分だけど、水橋もすぐに来るだろ。

 あいつが待ち合わせに遅れるとは考えにくいし」

「雫ちゃんって真面目だしね」


事実、俺との待ち合わせには早めに来るしな。

俺がやたら早すぎるから、順番としては後だけど。

それはそうとして、今回の変装はどんな感じだろうか。

街中に出る時はいつもしてるっぽいから、学校との印象は変えると思うけど、

そこに穂積が一緒となると、どうなる?


「あれ、雫ちゃんじゃない?」

「どこだ? ……んっ!?」


俺が今まで見たことのある、雫の変装コーデは3種類。

パーカーにショートパンツを合わせた、ボーイッシュスタイル。

フリフリのワンピースにツインテールウィッグをかぶった、オタサーの姫。

あえて安物でまとめて、垢抜けないのが逆に可愛らしく見える、純朴少女。

正確には半袖パーカーなんかもあるが、基本は一緒なので除外。

そして、今日のコーデはそのどれでもないし、そもそも『変装』じゃない。


「お待たせ」


そこにいた雫は、女神ではなかった。

だが、それは決して悪い意味ではない。むしろ、全くの逆。


(……おい、マジか)


最先端の流行のポイントを押さえながら、合わない部分は適度に排除。

全体的な色調は控えめにして、デザインもシンプルかつカジュアルに。

女の子らしい柔らかなボディラインが主張し過ぎない程度に現れ、

服ではなく、『水橋雫』という少女の可愛らしさが最大限に際立つコーデ。


「二人とも、どうしたの?」

「えっ? あ、いや……服、似合ってるなって」

「雫ちゃん、すごく可愛い!」

「……ありがとう」


学校でのどこか近寄りがたい雰囲気は消え、等身大の姿に。

どこをどうしたって、誰もが振り返る美少女そのものだった。


(これは、分からなかった)


あまりにも予想外で、あまりにも当然過ぎること。

何を着ても似合ってしまう雫が、その魅力を最大限に引き出せる服装をすれば、

超、超、超ド級の美少女になる。


「服、見に行く前にお昼にしよっか」

「うん。穂積さんは、どこがいい?」

「あったかいものが食べたいな。怜二くんは?」

「まぁ……俺も、そうだな」


今回はこれからのシーズンのものを買うわけだが、どうしよう。

今の雫を超える服装が全く思いつかない。

くっそ、今まで無難さを最優先にしてきたツケが……




「あれ、藤やん?」




これは助け舟か、こじれる要因か。

女子二人連れたこの状況から、出会ってしまうとは。


「……よう」

「おいっす! 何何何ー? 美少女二人もはべらせて、えーコラ?」


雫がオシャレ着で来たことに続く、本日二つ目の想定外。

キング・オブ・チャラ男、前島翔と、偶然にも遭遇してしまった。




「いやはや、お前さんも隅に置けねーなー、このこの!」

「いいから黙って食え」


「遊びに来たんだろ? 俺も混ぜろよ!」「いいよ!」

この間、僅かに数秒。

全く持って予定外だったが、穂積は本当に誰とでも分け隔てない。

もっとも、あそこから同行を断るというのは至難の技だが……


「にしても、水橋どうしたん!? どこで買ったんだよそれ!?」

「服屋」

「そりゃそうだけど。それがビニコンで売ってる訳ねぇけど」


流れでそのままファミレスへと入り、昼食。

女子二人はドリア、俺と翔はグリルチキンとライスを注文し、

後はサラダとフライドポテトを適当にシェア。

一緒に外でメシ食うことは何度もあったが、それは雫だけか、男子だけの場合。

この組み合わせでメシを食うというのは丸っきり初めてだ。


(初っ端から不安要素ができちまったな……)


透と出くわすより遥かにマシだが、雫にとっては翔も苦手だろ。

陽司なら気さくで爽やかだから問題ないけど、翔は典型的チャラ男。

雫に対してどう接するかにもよるが、捌く難易度は高い方。

コミュ力は成長しているとはいえ、困惑する場面も出てくるだろう。


「カワイコちゃんは何でも似合うからお得だよなー。

 中途半端だと何かと苦労しちまうんだよ。な、怜二?」

「何で俺に振った」

「お前さん、ブサイクって訳じゃねぇけど、まぁ……な?」

「自覚はしてるが、殴っていいか?」

「チキン一切れで何とか!」

「いらねぇよ。黙って食え」

「ほいほーい」


最大の難所は、会話のテンポが早いこと。

話題は選んでくれるだろうし、女子にもこのままということはないだろうけど、

男子相手にタタタタッという早いテンポで会話を合わせることはどうだろうか。


「で、この後服だろ? 丁度よかったわ、俺も行くつもりだったし。

 つーことで、楽しく行こうぜ!」

「うん!」

「そうだな」

「……宜しく」


プラスに考えよう。これで男女が同数になった。

さっきまでならともかく、この状態なら誰に見られても怪しまれない。

ついでに会話の実地練習の上級編と洒落込むか。

フォローしながら、楽しもう。

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