131.水橋家のつくりかた
「ヤバッ!」
「どうした怜二君! 俺も若者には……しまった!」
「おいおい、二人とも同じとこで落ちんなよ!」
コントローラーの数は水橋家の人数分、つまり4つだから、誰か溢れる。
負け抜けだと海と雫がずっとプレイすることになるから、
適当にローテーションを組んでやっている。
「腕相撲みたいには負けんぞ、怜二君!」
「望む所ですよ!」
4人対戦とは1対3か2対2、もしくは1対1対1対1という形になるが、
これはレベルの差的に、1対1が二つといったところ。
海と雫のゲーマー組と、俺と源治さんと渚さんのそれなり組に分けると、
その中でのゲームレベルは伯仲している。
「おい! ここに偽アイテム設置したの誰だ!?」
「ちゃんと見て無いのが悪いんだよっと♪」
「雫この野郎! せめて海狙えよ!」
「俺じゃ引っかからねぇよっと!」
「だーっ!? 今度はバナナかよ!」
……俺、馬鹿だったな。オフスタイルで茶目っ気全開の雫を前に、
何でわざわざ過去のことを、それも嫌なことを思い出したんだろう。
それに、水橋家総出のテレビゲーム対戦に混じらせてもらうとか、
最高に楽しい中でそんなこと考えるとか、失礼にも程がある。
「こうして観戦するのも楽しいわねー。頑張れ源治さーん♪」
「おう! 絶対に勝って……しまった!」
「お父さん、同じとこで落ちてない?」
あと、1学期の頃の雫以上のスピードで、源治さんの印象が変わっていく。
強面の気難しい親父さんかと思ったら、気さくな子供好きの親父さんだった。
その一方で渚さんは第一印象そのまま。容姿が雫と殆ど一緒だから、
素の雫の特徴を全体的に過剰にすれば、そのまま渚さんになる。
……元の雫の時点で、結構ぶっ飛んだ部分多いんだが。
「やはり、こういうものは君達世代が現役か」
「いや、最近は割と大人ターゲットにしたゲーム多いぞ? これもそうだし」
「何なら実況者とかは大体大人ですし」
「そういえば、そういったことを生業にする者もいたな。
ゲームすることが仕事など、昔じゃ考えられない話だが、それもまた立派な職だ」
頭柔らかいな。源治さんぐらいの年の人って「俺の若い頃は……」で始まる説教をして、
徹底的に今の時代に流行っているものを否定しにかかったりする人も多いけど、
源治さんにそういった所はないんだな。
「俺もあと30ぐらい若ければ、そういう道を目指していたのかもな」
「嘘つけ。そんな気更々ねぇだろ」
「バレたか。あぁ、俺はこうして地道に稼ぐのが性に合っている。
おかげで人並みに出世はしたし、こうして家庭を築くことができた」
「私の目は間違ってなかったってことよ♪」
「……思い出すな、あの頃。もう20年は前になるか。
まさか、高校生の嫁をもらうことになるとは思っていなかった」
海の言ってたことが本当なら、渚さんはかなり若くして結婚したことになる。
渚さんが高校生の頃、源治さんは浪人したか大学院生でも無い限りは、
既に社会人になっている。
「あの時の源治さんは凄かったわ。色々な意味で」
「お母さん。怜二君の前でその話はやめてもらえる?」
「渚。頼むからその話は水橋家だけで完結させてくれ」
(……色々あったんだな)
法的には許されているとしても、少なくとも片方は学生での結婚だ。
何かと大変なことはあったんだろう。
「ところで怜君。私と源治さんってどこで知り合ったと思う?」
「え……そうですね、話からすると渚さんは高校生ですよね。
源治さんは社会人でしたか?」
「あぁ。大学を卒業して、今の会社で働いていた」
「となると接点無さそうですけど……家庭教師とかやってました?」
「お、ご名答! いい勘してるわね」
勘というか、学生と社会人の間に何らかの関係が生まれるとして、
出会いの機会として一番自然なのはそれじゃないかな、と思ったまでだが。
「勉強そっちのけで、俺を連れまわしてたな。
それでからに成績はいいというのがまたなんとも」
「家庭教師のおかげ感を出せば、契約期間延びるし、必死にもなるわ。
それはそれはゾッコンの一目惚れだったから」
「で、親やら何やら説き伏せてゴールインだろ?
力業で押し通す辺り、お袋だよな」
「7歳ぐらいの差、大したこと無いと思ったんだけどね」
「学年で考えてみろ。大学1年生の男と小6の女が付き合えば、事案だ」
うわ、エグっ。年齢差そのままにズラしたらそんなことになるのか。
「ということで、私が高校卒業するまでは清い交際でいたいってことだったのよね。
本当、このダイナマイトボディ相手によく耐えたわ」
「加減と言うものを覚えてもらいたいんだが、もう諦めたよ。
それぐらいじゃなきゃ、銀婚式近くまで続いていない」
「でも、お母さんを止められるのってお父さんぐらいでしょ?
世界中探しても、2人といないと思うよ」
「いたら大至急連れて来い。俺の年収分までは出す」
(海、その気持ち分かるわ)
渚さんを止められる人……うん、源治さん以外に浮かばん。
止められる訳じゃないけど、一度門倉に会わせてみたいな。
かつてないほどにわたわたして、しっちゃかめっちゃかになること請け合いだ。
「っしゃ、ゴール!」
「うむむ……やはり、実際に車を運転するのとは違うな」
「軽自動車とカートじゃ違うしね。安心して、敵は私が討つから!」
「そう簡単には行きませんよ!」
人と人には相性がある。水橋家の人間はクセだらけ。
でも、俺は誰一人として嫌いじゃない。……一人は、大好きだし。