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126.強くてコンテニューでニューゲーム

水橋が、俺を強引に止めてまで言いたかったこと。

「分かんない」……俺も、分からない。

言いたいことをまとめて抽象化したんだろうけど、

(ほぐ)してもらわないことには、理解ができない。


「どういう、ことだ?」


なるべく話しやすいように、ゆっくりと、声色にも気を使って。

ふて腐れた訳じゃないし、怖いとか、そういった気持ちにはさせたくない。


「ボクだって、人並みに興味はあるよ。その……恋愛の、こととか」


はにかみながら、静かに。

そもそも、恋愛に興味が無いという可能性も想定してたけど、

水橋は、本質的には普通の女子高生だ。色恋沙汰に興味があってもおかしくない。

それらしい少女漫画が好きだとか、それっぽい要素は、今までにもあったし。


「だけど、今まで誰かと付き合ったこともないし、友達もほとんどいなかった。

 だから……分からないんだ。どこからが『恋』なのか」


そこまで聞いて、考えてみれば当然のことだと気付いた。


水橋は、人との距離のとり方がおかしい。

これは水橋が常識外れなだけだと思っていたが、答えはもっと単純。

今まで、人間関係が極端に薄かったから……ただ、純粋に『知らない』んだ。

恋人がどこからかは、人によって違うし、曖昧なものではあるが、

誰しも何かしら、それらしい基準は持っているはず。

でも、その為にはそれ以前の段階、『友達』がどこまでかを知る必要がある。

それだって、今年になってようやく掴み始めたんだから、その先はこれからのこと。

つまり、水橋には自分の気持ちを定義する為の、基準が存在していないんだ。


「怜二君がボクのことを好きっていうのは、嬉しい。怜二君はいい人だし、素敵な人だから。

 でも、ボクのこの気持ちが『恋』って言えるのかどうか、ボクには分からない。

 だから、ずっと考えてたんだ。……お母さんに、勧められて」


予想は半分的中。渚さんの差し金だったか。

いい性格してる人だけど、何だかんだ水橋の母親だ。頭は回るし、水橋のことを大切に想ってるはず。

まさかおちょくることの方がメインだなんて、そんなオチはないだろう。


「色々あったよね。海の家とか、お祭りとか。思い出して、真剣に考えた。

 それでも、分からないんだ。ぐるぐる回って、うまく言葉にできなくて……」


水橋は今、人間関係の一つ『恋人』の基準を作っている。

高校生になるまでに形成されるはずだったものを『初めて』作っている。

そんな中で俺の好意を知って、困惑している。


「知りたかったんだ。怜二君は、ボクを一人の女の子として好きなのか。

 もしかしてさ、夏休みにボクを遊びに誘ってくれたのも……そういう?」

「……あぁ」

「そっか。今思えば、あの時にボクは気付いてたのかもしれない。

 けど、よく分からなかったからしまいこんだままで、今日まで保留しっぱなしにしてた。

 それがお母さんのせいで……おかげ? いや、『せい』でいいや。お母さんのせいで、

 また考えることになっちゃって」


自分の中に基準の無い感情を向けられていることを、渚さん経由で知ったということか。

どこまでをどのように伝えられたかは分からないが、ある程度おちゃらけながらも、

しっかり考えるべき、真面目な話としてというところか。


「怜二君、もう少し聞いていいかな」

「俺に答えられることなら」

「怜二君にとって、『恋』ってどこから?」


俺にとっての『恋』の基準か。これは水橋が基準を作るに当たっての、一つの判断材料になる。

最初の頃の『彼女が欲しい』が『水橋を彼女にしたい』になったきっかけ。

そしてそこから今までにあったことを掛け合わせると……


「できるだけの時間、二人きりでいたいって思ったら。

 一緒にいて楽しいだけじゃなくて、二人だけで同じ時間を共有したいって思ったら、

 それは『恋』だと思う」


隣にいてくれれば、他には何もいらない。邪魔とさえ思う。

身も蓋もなく言えば、束縛したいと思ってしまう。

多かれ少なかれ、そういう気持ちになってしまうのが恋だと、俺は思う。


「そっか。ということは、怜二君はボクに対してそういう気持ちを持ってるの?」

「そうなるな。俺は何人かの友達の中の一人としてじゃなく、

 二人きりで、雫のたった一人の彼氏として、傍にいたい」


何か、色々さらけ出すことになってるな。恥ずかしいけど、なるようになれだ。

中途半端になって口ごもる方が余計に辛いし、情けない。


「ねぇ、怜二君。こういう時の答えで『友達から始めませんか』ってあるよね。

 でも、ボクと怜二君はもう友達にはなってる」

「……あぁ」

「だから、決めた」




「ボクはまだ、怜二君の想いに応えられない。けど、拒絶したくもない。

 だから……今は『友達以上恋人未満』っていう関係じゃダメかな?」




(……それが、水橋の答えか)


口には出さないけど、残酷だな。曖昧な関係を、曖昧なまま捉えて、

なおかつある程度の希望も残すって言う、生殺し。

……でも。


「分かった。それでいい」

「ありがとう。……ボク、いっぱい考えるから」


希薄にならざるを得なかった人間関係が少しずつ深まって、『友達』ができた。

その先は、もっと繊細で、もっと奥底にある、尊い感情……『愛』に基づくもの。

つまり、水橋はこれから、『恋』が何かを知っていくんだ。

急ぐ必要はない。ゆっくり、じっくりと考え、結論を出せばいい。

それまでに、水橋にとっての俺を特別な存在にできるように努力する。

それが、俺のやるべきことだ。


「最後に一つ、聞いていい? 純粋に気になったんだけどさ、

 怜二君はボクのどこを好きになったの?」


普段の茶目っ気が、少し戻ってきたか。

彼女になった訳でも無い好きな相手に、どこを好きになったのか聞かれる。

どういう拷問だと思ったけど、プラスに考えればいい機会だ。伝えちまえ。


「楽しそうにしてる時の笑顔、かな。この笑顔、守りたいって思った。

 あと、何事にも一生懸命で頑張ろうとしてるとことか可愛いし、

 頭はいいのに時々突拍子もないこと言うギャップとかも……」

「ちょ、ちょっと待って! 思ってたより恥ずかしい!」

「今でさえ、何故かこの抱きついた体勢のままでいることとか」

「え? ……あっ!?」


我を忘れてたんだろうけど、俺が足を止めてもなお、腰に回された腕は離れなかった。

おかげ様で色々当たってたよ。


「一番は、こういう危なっかしさの虜になったんだろうな」

「うー……悔しいけど否定できない……」

「そういうとこを好きになったんだから、そのままでいてくれ」

「……怜二君、中の人変わってない?」

「俺は俺だっての。強いて言うなら、俺は雫が思っている程、綺麗な人間じゃない」


俺も男子高校生の端くれだからな。

それなりにゲスい気持ちを持ってたりするし、それなりに心は薄汚れてる。

全体的に浮世の垢にまみれてるし、綺麗か汚いかなら、間違いなく後者。


「ところで雫、俺からもお願いがある」

「何?」

「これからも、他の奴らの前じゃなかったら、怜二って呼んでくれ。

 それと、俺からも雫って呼ぶのを許して欲しい」


友達以上恋人未満の関係から、前に進む為の準備として。

明確に変わったという、証が欲しい。


「うん、いいよ」

「サンキュ。それじゃそろそろ遅くなってきたし、寝るな。

 おやすみ、雫」

「おやすみなさい、怜二君」


こんな形で告白することになるなんて、思ってなかった。

けど、これなら十分チャンスはある。

考え方によっちゃ、ようやくスタートラインに立てたんだ。


(絶対、雫にとっての特別な男になるぞ)


可能性が生まれたなら、前へと進むだけ。

俺は絶対に、水橋を……雫を、彼女にする。

ここからが、正念場だ。




――――――――――――――――――――――――――――――




『俺は雫が大好きだ。俺の彼女になって欲しい』


ドキドキした。

漫画の告白シーンはたくさん見てきたし、憧れだった。

けど、まさか怜二君がボクのことを好きだなんて。


(ボク、こんなに想われてたんだ……)


自惚れだと思ってた。

驚いたけど、考えてみればそんなにおかしくもない……かもしれない。

いつからボクのことを好きになったのかにもよるけど、

今までの怜二君の行動は、ボクが好きであるが故のことだと考えても、

何にもおかしくない。


(これからは、きちんと向き合わないと)


結局、結論が出せなくて猶予を貰うことになった。

怜二君のことは嫌いじゃない。ううん、好き。……LIKEの意味では。

LOVEとして好きかどうかは、考えないようにしてたんじゃなくて、考えたことがない。

まだ素も出しきれてないし、恋とかはもっと先の話だと思ってた。


(誘ったのは、ボクだけど……)


お母さんが言ってたことは、間違いじゃなかった。

怜二君は、ボクのことを一人の女の子として、好きになってた。

ごまかすことだってできたのに……想いを伝えてくれた。


考えに考えて、結論を出そう。

怜二君の勇気に、応えなきゃ。

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