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125.想いを届け

どういう意味での質問だろうか。

俺に、好きな人がいるかって……


(……目の前にいるんだけど)


この発言の真意は何だ? 何を汲み取ればいいんだ?

表情は……至って真剣だな。これはからかいでも、冗談でもない。


(ぼかしつつ、正直に答えるか)


こういう時に嘘をついて、いい方向に転がることは少ない。

それに、水橋相手に誤魔化せる自信はないし。


「……いる」


誰かまでは聞かれてないから、有無だけを答える。

常識外れのポイントがいくつもあるのが水橋だが、

他人の色恋沙汰にまで、大きく踏み入るような人間ではないはず。


「LIKEじゃなくて、LOVEの意味で?」

「あぁ。彼女にしたいって思ってる」

「そっか」


意味合いの確認も終わった。

さて、水橋は一体何を思ったのだろうか。

ただ気になっただけというのなら、これで話が終わってもおかしくない。

……部屋、出るか。


「そろそろ寝るか。それじゃ……」

「待って」


呼び止めるか。ということは、続きがある。恐らくは、この質問に関連した話。

そういうことなら、聞こうじゃないか。


「何だ?」

「その……無茶苦茶なこと、聞いていい?」

(……?)


無茶苦茶なこと?

水橋自身がそう自覚する位に、突拍子も無い質問ってことだろうか。

今までのことから考えると、これ、よっぽどだぞ。


「まぁ……いいけど」


とはいえ、聞かれないままだったらそれはそれで怖いし。

今この場で解決してしまった方が、後々楽だろう。


「……あのさ」


それにしても、予想が全くつかないな。一体何を……




「その好きな人って、ボク?」




(…………………………マジかよ)


水橋と俺の関係が、『友達』で合っていることを確認した、数ヶ月前。

思えば、その時にも同じようなことを聞かれた。

あの時は、水橋の方から引いてくれたが。


(どうしよう、これ)


電話越しでもない、対面で。

表情からも雰囲気からも、明らかにこれは冗談でも何でもない。

水橋は正気だし、至って真剣だ。


(考えろ、何がどうしてこうなった?)


一つずつ、考えよう。

こんな質問をしたっていうことは、俺が水橋を彼女にしたいと思っていることを、

水橋は多少なりとも感づいたんだろう。そうじゃないなら、好きな人が誰かを聞くことはあっても、

好きな人が自分であるかどうかを聞くなんてことはありえない。

何かしら、俺が水橋のことを彼女にしたいと思っているように判断できることがあったはずだ。


(無いこともない、けど)


遊びに連れて行ったり、プレゼント贈ったりと、アプローチはそれなりにした。

けど、それは友達の範疇のことだと思ってるだろう。


料理研究会盗難事件の解明、八乙女の朝練に協力、古川先輩のいじめ問題解決と、

俺と水橋が一緒になって何かをするということは、たくさんあった。

だが、それらで得られたものは穂積、八乙女、古川先輩と水橋との繋がり。

俺との関係を意識するに至るものは存在しない。


海の家では客の暴行から、夏祭りでは整備不良の照明から、水橋を守った。

一番それらしいけど、ここまで大胆な言動をするには、理由としては弱い。


きっかけは何だ? 水橋が、何かを意識した瞬間は……


(……夕食?)


もしも、あの時の渚さんの言ったことを、水橋が深く考えていたとしたら。

その中で今までの行動を思い返し、俺の今までしてきたことは、

友達としての遊びではなく、彼女にしたいが故の行為だと気付いていたら。


(感づいたと、考えるべきか)


辻褄は合っている。憶測に過ぎないが、そう考えるのが自然だ。

それじゃ、この質問の意図は何だ? 水橋が俺の気持ちを知ることで、何が生まれる?

……二つ、可能性がある。

一つは、恋愛感情を抱いて欲しくないという忠告。

自分は友達として付き合っているだけで、彼女にはなりたくない。

自分を彼女に出来そうだと思っているのなら、それはとんだ勘違いだと伝えること。

そして、もう一つは……ありえない。絶対にありえない。とは、思うけど……


(俺が……好き……?)


奇跡的に、両想いだとしたら。

水橋に想いを伝えるだけで、俺の願いは叶う。


「何でそう思った?」とか聞きたいところだが、そうしても答えは返ってこないだろう。

そして、恐らくこの質問はなかったことになる。

そうなったら、今後の付き合いは気まずいものになる。

勿論、浮かんだ二つの可能性のどちらがそれらしいかと考えれば、

後者の可能性が非常に低い以上、ほぼ確実に前者。それもそれで、気まずくなる。

けど、事ははっきりするし、水橋をこれ以上不快にさせなくて済む。

……なら、決まりだ。覚悟を決めよう。




「あぁ。俺は雫が大好きだ。俺の……彼女になって欲しい」




意外と、すんなり言えた。

選択肢が一つしか無かったから、迷わない分、逆に簡単だったのかもしれない。


水橋、お前の答えを聞かせてくれ。どんな答えだって、受け入れる。

関係の解消、サポートのみの継続、どちらでもいい。

でも……願わくば。


「……えっと」


とても長かったのかもしれないし、とてつもなく短かったのかもしれない。

時間の感覚が壊れた状態じゃ、判断はつかないけど、水橋の答えは。


「……ごめんね」


……そう、だよな。

分かっていたよ、この恋は実らないってことぐらい。

じゃ、愚かな勘違い男はこの辺で退散するか。


「馬鹿なこと考えてごめんな。それじゃ、おやすみ」

「え……あっ、違う! 怜二君待って!」


何で呼び止めるんだよ。

これは俺の勘違いで、お前に無駄な負担を……!?


「んっ!」

(!?)


突然、後ろから抱きつかれた。

そのまま引っ張られて、ドアに向かおうとしていた俺の足は止まる。


「ボクは、怜二君のことが嫌いなんじゃない。……分かんないんだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ここからどうなっていくか楽しみです。
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