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123.お約束

「湯が足りなくなったらこれを押す。

 あとタオルだけど、こっちで用意したから自由に使ってくれ。

 使い終わったらこのカゴに入れるのだけ頼んだ。

 シャンプーとリンスは自由に使っていいからな」

「分かった。色々とありがとう」


海から風呂場の説明を受ける。

ここも結構広い。脱衣所だけでもそれなりの広さだし、浴槽は脚を伸ばして入れる大きさ。


「時間とか気にすんなよ? お前は親父に勝ったんだ。

 堂々と勝者の余韻に浸れ」

「そうしたいところだけど、ハンデもらってやっとだし、そうもいかねぇよ」

「素直になれって。ハンデの一つぐらいあっても……」

「親父さん、左利きだろ?」


食事の時、箸を持っている手は左だったのに、腕相撲では右腕を出された。

両利きであると考えるより、手加減の為と考えた方がいいだろう。


「……バレてたか」

「ハンデは二つ貰った。勝負前に気付いてたけど、黙ってた俺の反則負け。

 ズルして勝ったんだから、いいとこ無効試合だ」

「いやいや、それはズルじゃねぇよ。親父も分かっててやったんだからさ。

 バカ真面目になんねぇで、勝ったってことだけ感じとけ」

「何分、この性格で17年生きてきたもんで。ちょっと難しいな」

「んじゃ今からそう思うように。じゃ、ごゆっくりー!」


性格の矯正は、時間がかかる。

けど、水橋が変わっていくように、俺も変わらなきゃならねぇんだ。

考え方を図太く、自己中に。俺は俺の為に。

そう考えていくようにしないと、な。




「ふぃー……」


思いっきり脚を伸ばして、浴槽に浸かる。

水橋の家って色々と豪華だな。部屋の広さとか、設備が充実してる。

こういった家に住む為には、それなりの稼ぎがいるはず。

そう考えると、源治さんは結構な高給取りなんだな。


(水橋のスペックは、親父さん譲りか)


才色兼備の才の方を源治さんから、色の方を渚さんから。

遺伝によって得たポテンシャルを努力で開花させた水橋。

俺は……どっちも足りてねぇな。何倍もの努力が必要だ。

親に不満がある訳じゃねぇけど。


(で、多分)


親父さんにもバレただろ。俺が水橋に惚れてるってこと。

あれだけ本気(マジ)になってるのを見られちゃ、少なくとも疑いは発生する。

渚さんはどこまで感づいてるのか分からないけど、あのエスパーぶりを見ると、

知られていてもおかしくはない。


(知らないの、本人だけか……?)


水橋にとっては、あくまで俺は友達の一人。

遊びに誘ったりはしてるけど、俺の思惑に気付いた様子は無い。

やけに距離が近く感じるのは、男女関係無く、心を開いた相手に対しては

そこそこ距離を詰めに行くタイプだから。別に俺だけ特別、ということでは。


(ないこともないかもしれないんだよなぁ……)


今までずっと、勘違いだということにして押し殺してきた。

けど、『もしも』という言葉が出てくる回数は、間違いなく増えている。

思い上がりも甚だしいと思ってるけど、心のどこかで期待もしている。

そして何より、勘違いだということにしている理由は、別の所にある。

結局の所……俺は、傷つきたくないんだ。


(いつから、こんな弱虫になったんだろうな……)


色々な考えが、脳裏をよぎる。

風呂は命の洗濯って言うけど、余計なことが浮かんでしまうことも多々ある。

そういえば、この風呂って水橋も毎日入ってて……ってオイ。

余計なことを考えるな。この後水橋が入るとかそういうのを考えるな。


(……上がるか)


不埒な考えは湯に流して。

いい感じにあったまったし、頃合だろ。




「はぁ……あっ」




突然だが、『主人公補正』というものにはどういうものがあるか、挙げてみよう。

イケメンだったりスペック高かったり不死身だったり女にモテたり、

色々と挙げられるが、全体的に共通していることは『都合いいこと』。

そしてそれは、本人の意思に関係無く発動することもよくある。

こういうことは、脇役の俺には起こらないと思ってたんだが。


(……あっ、これヤバイ)


俺が湯船から立ち上がった時と同時に、何故か風呂場の扉が開いた。

お互いにボーっとしてたから、気付かなかったんだろう。

……で、こんな冷静な分析をしてる場合じゃない。


「キャーーーーー!!!」

「うわあああああ!!!?」


何でここに、水橋が来てんだ!? いや水橋家の風呂場だから普通だけど、

俺が風呂に入ってることを何で知らな……


(……いや、知らなくてもおかしくはないか)


夕食の後、水橋は二階に上がった。多分、自室に篭ったんだろう。

で、その間に俺はこの風呂場に来たから、風呂場に誰かいるとは思わない。

風呂場の扉は半透明だから、中に俺がいることには気付きそうなものだけど、

渚さんのおちょくりにげんなりしてたままだったから、特に注意せず扉を開けてご対面、と。

えぇっと、とりあえず……


「ごめん!」


謝りながら座り、扉の方向に背を向ける。

こうすれば(腕とタオルでギリギリ隠れてはいたけど)水橋の身体を俺が見ることはないし、

水橋も俺の身体を(視線的にはセーフだと思いたい)見なくて済む。

後は静かに扉を閉めてもらえれば、傷は最小限に留まる。


「え……あ……」

「……本当に、ごめん。まず、扉を閉めてくれないか」

「あ……いや、ボクの不注意だから……あと……腰、抜けた……」

「……マジか」


どうすっかな……俺がやろうとしたら、振り返ることになるし。

致し方ない。立ち上がれるまで待とう。

それまではこうしてずっと背中を向けていれば……


「どうしたのー? 何か凄い声……えっ?」


……渚さん、何てタイミングで!?

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