表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/236

12.起点は教室に

思いの外、水橋とその周りのやつらとの距離は遠かった。

それが判明した今、次はどうするべきか。


「おはよー水橋! 今日も読書ー? たまには話しよーぜー♪」

「………………」


透よ。お前はいい加減諦めろ。

水橋はお前の主人公補正が通用しない、例外なんだよ。


「透、おはようっ!」

「おはよう。鞠はいつも元気だな」

「元気で明るいことが、私の取り柄だから!」

「可愛い顔して何言ってんだよ」

「えへへ♪」


(……ここか?)


とっかかりが要る。

水橋自身、他人と関わることが怖いっていう気持ちあるっぽいし、

この間みたいに俺が出しゃばってやらかすことは論外。


考えてみたら、小さなことから始めると同時に、近くから始めるべきじゃ?

そういうことで考えると、適任がいるじゃねーか。


「雫ちゃん、おはようっ!」


人類皆友達系少女、穂積鞠。

ここがベストだろう。水橋のイメージ改革の踏み出し先は。


「雫ちゃんっていつも本読んでるよね。私に合いそうな本ってある?」

「たぶん、無い」

「そっかー。残念」

「じゃ、俺に合いそうなのは?」

「無いと思う」

「そこを何とか! 何でもいいから!」


表情からは読み取れないが、雰囲気的にイラついてるだろ。

何で分からないかな、この主人公様は。


透だけ引き剥がしたい。こいつが絡むとただ面倒。

穂積と1-1で会話できるようになれば、まず一歩となりそうだけど。


(その為には、水橋からアプローチした方がいいな)


穂積はだいたい透の近くにいるが、一時的になら離せなくもない。

水橋の背中押して、チャレンジさせてみるか。




『これでいい?』

『おう。合ってる』

『初めて使ったけど、既読って出るんだね』


意図せず水橋のメルアドと、SNSのIDを入手した。

学校でも隠密に連絡取れる手段として、水橋からの提案で。

その内こっちから持ちかけようと思ったけど、これは僥倖。


『穂積のこと、どう思ってる?』


ここで聞いてみよう。

あの性格だから、悪い印象は持ってないと願いたい。


『距離、近い子だなって』

『というと?』

『どう接したらいいか、分からない』


……そっちかー。

まぁ、分からなくはない。


穂積には、パーソナルスペースという概念が無い。

けど、それが『土足で上がりこむ』と例えられない何かを、穂積は持ってる。

いつもの笑顔だとか、明るさとか、その辺が絡んでるんだろうか。

不思議と、あいつはどんな相手にも近づけるし、誰にとっても近づきやすい。


『適当に会話するだけで大丈夫。あいつは誰に対してもあんな感じ』

『何、話せばいいかな』


少女マンガの話とか、と打ちかけてから思い出す。


今の水橋が、俺以外に素性を出せるだろうか。

出しても問題はないと思うが、この前の件もある。

穂積に対しては問題ないと思うが、あいつは交友関係が広い。

下手に広まった場合、今貼られてるレッテルとごっちゃになって、

事態がややこしくなる可能性も。


(無いとは思うけど……)


俺が失う物は、ほとんどない。

だが、水橋はそうじゃない。

既に一度失敗してるんだ。これ以上のミスは許されねぇ。


なら、まずは。


『会話がキツいなら、とりあえず挨拶からどうだ? 水橋から先に』

『ボクから、穂積さんに?』

『水橋の方が登校早いだろ? まずはそこから初めてみようぜ。

 小さなことから、一つずつさ』

『うん、分かった。やってみる』


必要以上に小さくしすぎた気もするが、それぐらいで丁度いい。

脇役はぐいぐい引っ張るんじゃなくて、ささやかな手助けをするのが役目。

TPではなく、『水橋の脇役』としての働きは、こういう形がベストのはず。


(こちとら10年近く、主人公様の脇役やってきてんだよ)


裏方仕事なら任せとけ。

これだけは、他の誰にも負けない。




早めに登校して、不自然にならない程度に水橋の近くへ。

おあつらえ向きに、透は門倉の方に意識が向いている。


戸が開いて……穂積が来た。

挨拶するだけだ、流石にこれ以上にレベルは落とせん。

頼んだぞ、水橋!


「……あっ」


ちゃんと気づいた。

読書しながらも、入り口に意識を向けろと言っておいたのは正解だった。

よし、そのまま!


「……さん……ょぅ」

「おはよっ、雫ちゃん!」


口は動いてたけど、ちゃんとした発声の確認はできない。

穂積はいつも通り。少なくとも前みたいなことにはなってないが。

確認取ってみるか、と思ったら。


『出来たよ!』


SNSより連絡。

本人としては、できたらしい。

うん、確かにギリギリ分かるくらいには、表情緩んでる。


『色々言いたいことあるけど、とりあえず今晩、電話する』


文にするのは結構疲れる。

口頭で伝えさせてもらうか。




「『出来たよ!』じゃねーよ! この低いハードルを何でくぐりに行った!」

「ひどい!?」


アレは成功というカテゴリに入らない。

下手しなくても穂積に聞こえてないだろあんなん!


「これなら行けると思ってたんだが」

「ボクとしては10年分くらいの勇気、振り絞ったんだけど……」

「嘘だと言ってくれ。いや、嘘ってことにする」

「ボクの意思は!?」


穂積が相手で、難易度激低のミッション。

それすらも満足に出来ないとは、思ってなかった。

こいつ、結構こじらせてるぞ……


「とりあえず、これの繰り返しからだ。きちんとできるまでは続けろ」

「うーん……でも……」

「ちゃんと出来たらスイーツバイキングおごってや」

「頑張る!」


食い気味に。意外と単純な子だった。

なんだろう、水橋が普通じゃないっていうのは本当かもしれん。

今まで思っていたのとは別方向で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >(こちとら16年、主人公様の脇役やってきてんだよ) どーでもいい事ですが、生まれてからずっと主人公の脇役は変じゃないですか?10年くらいが妥当かと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ