表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/236

116.一泊二日三人から

それなりに遅い時間にはなったが、泊まりを考えるほどの時間ではない。

というか、十分に遅い時間になったとしても、泊まるつもりなんてない。


「明日、何か予定あったりする?」

「特に無いですけど……」

「それならいいじゃない! 私、泊まってもらいたいなー♪」


何故か、歓迎の姿勢であるらしい。

といっても、迷惑をかける訳には……


「むしろ迷惑してるのは怜君でしょ? 私は気にしないで。

 というか、もう許可取っちゃった♪」

「なっ!? ……え、許可?」


当たり前のように心を読んで来るなこの人は!

で、許可って……まさか。


「さっき海にお願いして、親御さんからお泊りの許可頂いてきたの。

 これ、下着と洗面用具ね」

「海!?」

「……すまん、怜二。実は今日、お前を泊めることは最初から決めていた。

 だから、雫もお前を引き止めたんだ」


(父親は関わってないけど)一家総出で俺を泊めにかかってたのかよ。

一体、何故……?


「理由、教えてもらえるか」

「車の中で話したのとほぼ同じ。ただ、俺も雫も泊まってもらいたいと思ってる。

 雫は友達を家に誘うっていうのが夢だったし、俺もお前と色々話をしてみたい。

 ……悪いけど、頼まれてくれねぇか?」


こんなことになるなんて、全く想定していなかった。

渚さん、突拍子も無さ過ぎるだろ……時間帯考えると、許可出したのは母さんか。


「分かりました。今日はお世話になります」

「はい、お泊りけってーい♪」


後で連絡取ろう。何で許可を出したのか。

ただ、俺にとっては迷惑どころか、むしろ嬉しい。

休日に水橋と一緒にいる時間が長くなって、嬉しくならない訳がねぇよ。




泊まることが決まり、夕食までは水橋の部屋で過ごすことになった。


「ごめんね、このこと黙ってて……」

「いや、俺は別にいいんだけど、本当に泊まっていいのか?」

「うん。お母さんが言い出したのは事実だけど、お泊り会みたいなことしたかったんだ。

 穂積さんや八乙女さん、古川先輩も誘ってみたいけど、まずは藤田君かなって」

「何で?」

「いつものボクが出せるのは藤田君だけだし、一番安心できるから」


俺を頼ってくれたのはありがたいけど、性別の違いを意識してくれ。

お前はどこまで危なっかしいんだよ。


「分かった。ところで、親父さんはこのこと知ってるのか?」

「伝わってる……と思う。でも、確証はないかな。お母さん、サプライズ好きだから」

「うん、それは凄くよく分かる」


口にはしないけど、水橋自身にもそこそこ遺伝してるし。

親父さんはどんな人なんだろ。見た目と性格は殆ど母親譲りみたいだけど、

何かしら遺伝はしてるはずだし。


「水橋の親父さんって、どんな人?」

「顔は怖いけど、優しくて、あったかいお父さん。

 藤田君のことも話してるけど、印象はいいはずだよ」


顔が怖い、か。それに物怖じしないでいられるかが勝負だな。

初対面の相手に対しては、真摯にあることが大切だ。


「それじゃ、ご飯までどうしよっか。漫画読む?」

「そう……だな。色々読ませてくれ」

「分かった。ボクのおすすめは……」


会うまでは想像を膨らませつつも、この時間を楽しもう。

女子の、それも水橋の部屋に入れるなんて、滅多なことじゃねぇしな。




水橋に勧められた漫画を、ゆっくりと読む。

これは夏祭りで水橋が憑依したキャラが出てくる漫画。

確かに、ほぼ完全にコピーしてる。


「こういう甘々なお話が大好きなんだ」

「成る程ねぇ……」


相変わらず、水橋は隣。そして近い。

こういった距離感のおかしさが、水橋の危なっかしい部分であり、

俺が思いがけなく水橋と仲良くなれた理由。

俺にとっては嬉しいが、水橋の今後を考えるとどうにも気がかり。

誰も彼もが、この距離感を同じように感じるとは限らないんだ。


『だからくっついて歩くなと言ってんだろ!』

『何か問題でも?』

『勘違いされるだろ?』

『私とあなたの関係を考えれば、勘違いというものは成立しない』

『……もういいよ、お前はそのままで』


水橋と被るな、この漫画のキャラ。口調だけ変えたら行動はほぼ一緒。

確かに、これだけ似てるなら憑依もしやすい。

俺はここまでぶっきらぼうにはなれないな。確実に顔が緩む。


「いいよね、この二人……お互いに通じ合ってるみたいで」

「そうだな」

「……ウソついた?」

「……すまん」


一方通行な愛情だと思っていたことを見透かされた。

渚さんのエスパー能力も、部分的に受け継いでるのかもな……




「ねこまるとの出会いは、ボクが小学生の頃。誕生日プレゼントで貰ったんだ。

 で、その時のねこまるがこれ。海の家にも持っていきたかったけど、

 このサイズだから詰められなくて」

「もう数年経ってるのか。にしては綺麗だな」

「寝る時抱いてるから汚れやすいんだけど、その分洗濯回数も多いから、

 色落ちはしてるけど綺麗なんだよ」


水橋の部屋の各所に点在する謎キャラ、『ねこまる』。

気になったから、こいつについての話を聞いてみた。

羨ましいな、水橋と毎晩同じベッドで寝れるとか。


「ちなみに、干すとこんな感……あははっ!」

「ふふっ……!」


ぐにょーんと、妙にムカつくジト目をこっちに向けながら伸びるねこまる。

つままれるだけでこんなことになるのか。


「これだけはいつ見ても笑っちゃうんだよね」

「完全に不意打ち。これは卑怯だって」

「『フジタクン、ボクッテオモシロイ?』」

「うっはっはっは!」


アテレコすんじゃねぇよ! 顔隠すようにしてるから水橋自身が言ってるようにも見えるし!

ちょ、ヤバい、これ完全にツボに入って……


「『ボクハミズハシネコマル。シズクチャンノダイニケイタイナノダー』」

「っ、ひっ、っ、っ!」


呼吸が、呼吸ができん! 破壊力高過ぎる!

ダメだこれ、面白可愛いすぎて死ぬ! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ