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112.美女の系譜

(広っ……)


初めて入ることになるが、かなりのゆとりある空間、というのが第一印象。

畳スペースもあるLDKは、ざっと見ただけでも20帖はありそう。


「はい、怜君はここね」

「では、失礼して……怜、君?」


指し示された座布団に座ろうとしたが、その前に気になることが。

俺を呼ぶの2回目にして、早くもあだ名……?


「怜君って呼んだ方が語感よくてさ。そう呼ぶことにしました。嫌だったら言ってね」

「いや……構いませんけど」

「悪い怜二、その呼び名は変わんねぇ。『嫌だったら言って』とは言ったが、

 『言われたら変える』とは言ってねぇから」

「もう、ネタバレ早いんだから」

(そういうノリか)


水橋母は穂積以上に明るく、八乙女以上にボケに走る。

まだ入って1分も経ってないのに、既にそこそこ疲れてきたんだが。


「飲み物は何がいい? ブレンドか、茶色か、苦酸っぱいか」

「全部コーヒーな。母さん、頼むからまともな応対してくれ」

「私がまともになったら、ただの超絶美人なセクシーママになっちゃうじゃない!

 世界のバランスが崩れちゃってもいいの?」

「母さん!」

「……ブレンドで」


クセの強い人だし、話半分にしとこう。

全部真正面から受け止めたら疲れるし、胃もたれ起こす。


「お砂糖とミルク、いくついる?」

「砂糖を一つ、ミルクはなしで」

「砂糖を2億?」

「一個で」


韻しか合ってねぇよ。二億の砂糖が入ったコーヒーとか、最早若干湿った砂糖だ。

コーヒー一杯頂くのすら疲れないとできんのか。


「ごめんなさいね、雫の基準で考えちゃった」

「雫が甘党なのは確かだが、2億もあったら家が砂糖漬けになるわ」

「そもそもあの子、コーヒー飲まないしね。はい、どうぞ」

「頂きます」


コーヒーの爽やかな香りで気持ちを落ち着かせて、頭をクールダウンさせる。

それで思い出したけど、ここ、水橋の家なんだよな……水橋母のインパクトが強過ぎて、

すっかり忘れていた。


「そういや母さん、雫は?」

「お茶菓子切らしてたから、買いに行ってもらったわ。

 雫に行かせるつもりだったんだけど、私が押し付けちゃって」

「……つまり、予定通り雫に買いに行かせたと」

「当たらずとも遠からず」

「ド真ん中当てとるわ」


水橋本人の姿が見当たらなかったのはそういう訳か。

それなら、ぼちぼち戻ってくるだろ。


「怜君ってどんな子なのか、先に私が見ておきたかったのよね。

 雫の話だけじゃ気になって夜しか眠れない日々が続いたわ」

「……快眠では?」

「1日の1/3しか寝れなかったのよ?」

「理想的な8時間睡眠」


すまん水橋、今すぐ戻ってきてくれ。

全部捌いたら過労で死にかねん。




「ただいまー」


数秒に一回のペースでブッ込まれるボケを処理し続けること数分。

俺が力尽きる前に水橋が帰ってきてくれた。

海さんがある程度緩和してくれなかったら、骨壷でのご対面になったかもしれん。


「あ、藤田君。ごめんね、待たせちゃって」

「いや、俺もさっき来たとこ。それじゃテスト勉強始めるか」

「うん。ちょっとだけ待ってね。部屋片付けるから。

 お母さん、コップとお菓子入れお願いしていい?」

「時給は?」

「……ボクが持ってく」

「冗談よ。飲み物だけお願いね」


誰に対してもこのノリか。透以外だと中々難しいぞ、素の水橋をげんなりさせるの。

勿論、透と違ってガチのげんなりではないけどさ。


(それにしても)


こうして並ぶと、何をどうしたって姉妹にしか見えない。

自由奔放な姉と、それに振り回される妹。そういう構図。

容姿は母親譲りなんだろうな。くっきりとした目鼻立ちとかは特に。

あと……でかい。何がとは言わんが。


「藤田君、ボクのお母さんは……」

「雫、もう説明した。つーか実感もしてる」

「そういう訳だから、話1/10ぐらいで。半分でも多いから」

「楽しませてもらってるよ」

「ごめんね。……お母さん、社交辞令だとは分かってるよね?」

「渚わかんなーい♪」

「……藤田君、行こ」

「ん」


水橋に連れられ、2階へ。

それなりの年齢のはずなのに、見た目的には痛さを感じないのは何故だ。




片付けを待つこと数分。部屋の中から声が聞こえた。


「入っていいよ」

「失礼します。……うぉっ」


足を踏み入れた瞬間に甘い香りが鼻腔をくすぐる、THE・女の子の部屋。

そこそこカラフルだが、全体的としては中間色でまとまっているので割と自然。

かなり大きいのに、少女漫画中心に様々な本で埋まっている本棚、

棚には猫をモチーフにしたファンシーグッズ各種、壁には何かのキャラのタペストリー、

そして何より、ぬいぐるみに囲まれたベッド。

水橋のイメージを学校の女神様としか知らない男子が見たら卒倒するような部屋である。


「いい部屋だな」

「片付けたからね。普段はもっとごちゃごちゃしてる」


唯一、学校のイメージと同じなのは勉強机。

教科書とノートと参考書、後は卓上カレンダーと小さなメモ帳があるだけ。

綺麗に整頓されているし、典型的な優等生の机という感じ。……あ、そういえば。


「着替えたのか」

「家の中だから、いつもの格好。変装グッズ含めて、服はこのクローゼットの中」

「あー、それが例の」


水橋のルームウェアは、薄手のTシャツにフリースを羽織った形。

机の横に何かデカいのあるなと思っていたが、この中に各種変装グッズがあるのか。

下段の引き出しにはウィッグや伊達メガネとかのアクセサリーがあるんだろうな。


「それじゃやろっか。何から始める?」

「英語やりたい。まだ分かりきってないとこ多いんだ」

「分かった。まずはどこまでが分からないか、問題解きながら調べよっか」

「おう」


思いがけなく始まった、二人きりの勉強会。

緊張はしてるが、落ち着いて頑張ろう。

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