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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
8/59

ドングリ美味しいです。貝塚はゴミ捨て場です。(4)


 王都に飛んで戻り、今回使ったアヴェンジャーの薬莢と、ミルメコレオの現物を換金……出来なかった。

「冒険者ギルドは常にカツカツなんですよー!! その辺りをちゃんと理解してくださいねー。あと、ティータはムシムシした生き物は嫌いなのでー。買取は出来ませーん」

「はーい。……じゃないだろおい!! ギルドマスターの好みで買取拒否とかないだろこら!!」

「……ティータは十二歳の少女なのですよ? そんなティータにムシムシさんの解体をさせるのですかー? おにーさんは、そんなに酷い男の人なのですかー?」

 瞳が潤みだして……。そんな、いや、これは嘘泣きだ!!

 でもさ、嘘泣きで……頬が本当に濡れるなんてことは無いよな。

 ごめん、ティータちゃんの年齢を忘れていたよ。十二歳の可愛い女の子だったね。

「ティータって嘘泣きが上手よね~。大人になったら絶対に男泣かせになるわ、この子」

「おねぇぇぇぇぇぇぇぇちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「嘘じゃねぇかこの野郎!! ミレッタさん天使!! サキュバスだけど女神さま!!」

 ギルドマスター権限がどうこうのと言う話になり。そして、お父さんに叱られた。好き嫌いは許しません。そのレベルはピーマンとは段違いだが、異世界にも同じ言葉があったらしい。

 だが結局、ミルメコレオは大して需要のある生き物ではなかったらしい。解体したところで可食部は無く、蟻酸だけが取り得の生き物。むしろ無駄に大きいので残骸の処理賃でトントンだった。

 タテガミは御立派な獅子顔だったが、百獣の王は幻獣業界では下っ端でしかないそうです。

 アレだけ理不尽に強くて、酸だけが取り得で、お金にならないって……。

 強いこととお金になることは、等号で結ばれるわけじゃないんですねー。

「ところで、おにーさん? まだ依頼して一日も経ってないのに、どうやってシャドーウッドの情報を?」


 ギクリ。ひ、飛行魔法なんて知らないよ?

 だって、ボクのはそもそも魔法じゃないし?


「通りすがりの行商人さんに聞きました」

「じゃあ、このミルメコレオの遺体はー?」

「通りすがりの行商人さんからいただきました」

「むぅ、おにーさんはギルドマスターであるこのティータを信用していないんですかっ!?」

「それは御自身の胸に手を当てて、よーくお考えくださいませっ!!」

 ティータちゃんは胸に手を当てて、ふかーく考え込み、さっぱり解りませーんとポーズを……この野郎!!


『ミルメコレオ。単体での危険度は中。全体としての危険度は重大です。際限なく増え続け増殖を続けるその性質は極めて危険なのですねー。アルミラージュも危険度は重大ですが、あれはヘルムート草原から出てこないという意味を含めての重大ですよー。蟻のように肉を食い、ライオンのように肉を食う。つまりお肉が大好きなムシムシさんなのですねー。主な攻撃方法は噛み付きと尻尾からの酸のシャワー。ただ、敵や餌に対してひたすら集ってくる習性があるので危険なのですよー。数はいつでも暴力ですよー。そして、その増殖力がとっても危険なのですよー。増える前に叩く、これが基本の魔物ですねー。それからー、ネコネコなので夜目が利きます。そして、ムシムシなので壁も登ってくるんです。あとはー、蟻なので穴を上手く掘れないくせに巣穴に棲みたがるんですねー。ネコネコの顔で、どうやって穴を掘ってるんでしょう? 世の中は不思議で一杯ですねー。とにかく軍隊さんの出番ですよー。おにーさんのお仕事は終わりましたー。おつかれさまでーす!!』


 ティータ先生の魔物講座を纏め上げるとこうなる。

 ライオンで蟻。終わり。なので、対処法もライオンで蟻。終わり。

 ウィルキンゲトリクスさんの教えは心に染みた。戦いはいつも命懸け。自分か敵か、どちらかは命を落とす命懸け。殺すなら、殺される覚悟をしてからにしろ。その通りだ。

 なので、ボクは殺し合いなんてしません!!

 実に平和的に解決します。言葉が通じないなら暴力で解決するしかない?

 そんな考えは古い時代の考え方なのです!! 現代人に流行の考え方は、棲み分けです!!

 ティータちゃんをちょっぴり締め上げて吐き出させたお金で用意したものは、果物、酢、樽。

 樽に果物を入れて、押し潰します。酢を入れて、更に押し潰します。物凄く目に染みて安全メガネを探しましたが、そんなものは異世界に存在しませんでした。

 中途半端なテクノロジー社会めっ!! メガネはあるくせにっ!!

 そうして完成してから気がつきました。潰したいなら高所から落とせば良かったこと。

 さて、帰ってまいりましたシャドーウッドの森。ライオン蟻改め、洞穴ライオン蟻の巣穴。

 古代のヨーロッパに生息したといわれる洞穴ライオン。そして穴が大好きな蟻。その二人がカップルになって生まれた子がミルメコレオなのでしょう。愛は種族を超えるんですねー。

 では、巣穴に樽の中身をワンダバダバと、ワンダバダバと注ぎ込みます。

「お前に相応しいフレグランスは決まった!! 蟻の忌避剤、柑橘系果汁と酢! そして猫の忌避剤、柑橘系果汁と酢! ……お前等、ほんとに愛し合ってるんだね?」

 あとは、空気を大きく取り込んでー。

「≪烈風拳≫!! ≪疾風拳かんき≫!! ≪W烈風拳そうふう≫!!」

 巣穴の中に忌避剤を撒かれる洞穴ライオン蟻さん、可哀想だねー。

 夜目が利くと言っても、それは目が開いてこそなんだろう?

 今頃は巣穴の中で、ライオンの顔をクシャってしてるんじゃないかなぁ?

 しかし、そもそも巣穴の中は完全な闇だから猫目でも関係なく見えないと思うんだけどね?

 まぁ、ファンタジー的にはどうにかなるんだろう。魔力場が見えるとかそういうので。眼が開きさえすればでしょうけどー?


 ボクは化学薬品なんて危険なものは撒きません。自然に優しい完全に天然由来の忌避剤です。

 これで、この世界の環境保護団体が来ても大丈夫!! むしろお前等がこの危険な生態系を破壊する生き物を積極的に退治しろ!!

 過激な環境保護を訴える団体が、環境を破壊する生き物の駆除に過激に乗り出したところを見たことは無い。やつらの唱える環境保護など、いつでもその程度のものなんだろうさっ!!

「≪ブラックバス≫!! ≪ブルーギル≫!! ≪アメリカザリガニ≫!! ≪カミツキガメ≫!! ≪ウシガエル≫!! ≪オオヒキガエル≫!!」

 蟻の巣穴なんだ、どうせ幾つも出入り口ならあるんだろう?

 だからこそ、ここから入った忌避剤が巣の全体に浸透するわけだが皮肉だな!! 柑橘類の皮と果肉の皮肉だよっ!!


「ふははははははは!! 滅べ!! 滅べ!! 一方的に滅ぶが良い!! 貴様等の弱点、それは触角が無い事だ!! 目が見えぬ状況で頭をぶつければ敵だと思って殺しあうんだろう? くっくっく、余のゴーレムさんプレートが貴様等の命が磨り減っていることを教えてくれておるわ!! そのまま、自らの牙で滅ぶが良い!!」

 ゴーレムさんのプレートは、魔物の死に際に発生する断末魔の魔力を感知して数値化するシステムらしい。世の人々にとってそれは成長の波とも呼ばれるものなのだが、成長の余地の無い俺にとってはあってなきものよ!!


「…………そこの冒険者。先ほどからずっと見ているのだが、何をしているんだ?」

「先ほどからずっと気付かないフリしてたのにっ! 空気を読んでください!!」

 先ほどからずっと俺を眺めている、黒尽くめの鎧のオッサンが気になっていた。

 でも、黒騎士とかカースドナイトとか呼ばれてて、剣が呪われてたりするんでしょう?

「まぁ、これはですねぇ洞穴ライオン蟻を虐めているんですよ。戦ってはいません。一方的に虐めているんです。蟻は、柑橘類の絞り汁や酢の匂いを嫌うんですよ。ライオンも柑橘類の絞り汁や酢の匂いを嫌うんですよ。つまり、この巣はこれでお終いです。目も開けられない状態で、共食いが始まってるみたいですね。ゴーレムのプレートを見る限り、巣の内部は狂乱状態です。風の通りがよければ、女王も狂乱の宴に巻き込まれているのかもしれませんねー」

 実際はそれだけじゃない。蟻にはフェロモンがある。けれど見えないものの説明は面倒だ。

 いま、巣の中では様々なフェロモンが充満して、それはもう完全にパニック状態だろう。

「なるほどな。先ほどからずっと酸っぱい香りが鼻に付くのは、それが原因なのか。しかし何故、そんなことをする? その作業は誰かからの依頼なのか?」

 痛いところを突いてくれる。慈善事業……は、商売の邪魔だ。

 この真っ黒オジサンが傭兵だとすると、少々以上に不味い事になる。

「そうですねー。一種の意趣返しでしょうか? とあるゴブリンに、ゴブリンのために懸けられるほどお前の命は安いものなのか、なんて皮肉を言われましてね? でも、そのゴブリンは街を燃やしてまでして、多くのライオン蟻と刺し違えるつもりだったそうなんですよ。それも、人間なんかのために。ですから、そのゴブリンにお前の命はそんなに安いものなのか、なんてことを思い知らせてやろうかなと思いましてね?」

 その答えには不敵な笑みで応えられた。

 まぁ、そういうことにしておいてやろうという意味合いなんだろう。

「それは良い心がけだ。命は一つしかない大事なものだからな。人であれ、ゴブリンであれ。……では、後のことは軍が引き受けよう。巣穴から這い出てきたミルメコレオは軍の兵が面倒をみる。暗闇のなかでの戦闘ほど恐ろしいものはないからな。勝手に数が減ってくれるのなら実に助かる。火攻めも水攻めも、女王の遺体や全滅を確認するには後の始末が一苦労だからな。兵には少々酸っぱい思いをしてもらうことになるが……まぁ、死にはしないだろう」

 いや、死にたくなるほど内部は酸っぱいと思いますよ?

「全身真っ黒おじさんは軍のお偉いさんなのですか?」

「黒の鎧。それなりに世の中には名が知れ渡っていると自負していたのだがね……。ベルガドット、この国の将軍だ。常勝将軍と呼ばれたりもするがね。噂話からミルメコレオの存在を予感して、急ぎ兵馬を飛ばして来たところだ」

 ……なるほど、増える前に叩く。それが基本。

 しかし、噂話の段階で動きだすとは……馬鹿か天才か。天才の方なんだろう。

 だけど、常勝……魔王軍に負け続けの現状でそれは無いはずなんだが?

「……えーっと、つまり常勝将軍さまは魔王と戦ったことは無いと?」

「痛いところをついてくれるな……。魔王の遊戯に付き合ったことはある。人と魔の軍勢同士の争いだ。それには勝利した。だが、魔王の前に立つ資格は無かった。……あと十歩のところまでは近寄れた。だがそこで魔王の魔力の前に膝を屈した。その程度の常勝だ。遊戯の勝利の褒美として逃がして貰った常勝将軍様だ」

 確かに、一応は常勝なのか。

 この異世界で魔王に挑むには、まず資格が必要だ。

 魔王がそこに存在するだけで放射される魔力圧。それに耐えられるだけの対抗魔力圧。

 相応のレベルが必要だった。だからこそ、国も勇者を召喚しなければならなかったのだ。

 百万の雑兵が百億の雑兵でも、魔王の前では同じ事。ただ近寄るだけで潰れていく、もはや一種の災害だ。怪獣ですらない。近寄らせる事自身を阻むのだから。

 それだけの異常な魔力の持ち主だけが魔王を、そして勇者を名乗れる。個が群れを蹂躙する特異点。……聖戦軍という勇者のお引き達。魔王軍という魔王のお引き達。そして戦争。

 なんだかなぁ……。もう、勇者と魔王だけで良いんじゃないの?

「……ところで一つ聞きたい事があるんですが?」

「何だね?」

「自分から常勝将軍を名乗るのって、けっこう恥ずかしくないですか?」

「――――まぁ、かなりな。だが、それで兵の士気が上がるというなら仕方が無かろう?」

「常勝将軍さま、ばんざーい!! 常勝将軍さま、ばんざーい!!」

 確かに仕方が無いな。あと、こんな軽い冗談で剣を抜かないでください!!

 逃亡ミラージュホップ!! 逃亡ミラージュステップ!! 逃亡ミラージュジャーンプ!!

 イタタタタタタ!! ミラージュ着地の完成はまだ遠いなぁ――――。


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