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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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ドングリ美味しいです。貝塚はゴミ捨て場です。(3)

 丸太を軸に泥で固められた街壁から、まず最初に顔を出したのは黄金のたてがみを備えた獅子の顔。ついで姿を見せたのは、それに見合った体躯の蟻の身体。それがミルメコレオ。

 ……なにこの生理的嫌悪感!! すっごく気持ち悪い!! ゾワゾワする!!

 あ、人面犬とかと同じなのか? なにかの狂気の産物にしか見えないぞこれは!!

 なるほど、壁を盾として使わなかった理由は無意味だったからかなのか。

 蟻の身体のために獅子のしなやかさを失った。代わりに蟻の登坂能力を得た。壁とは蟻にとって地面でしかないんだ。

 戦うならば平原。そのために、わざわざ街を壊してまで戦場を作った。

 弓兵による連続掃射。壁を降りる際に無防備となる背と頭頂部を狙っての弓矢の乱射。

 だが、悲しいかな。この異世界の生物は体に魔力を纏っている。さらに相手は蟻の外殻。

 ……その全てといえるほどが弾かれて落ちていく様は、もの悲しいな……。


 思い出す。あれはアルエットとの訓練の日々。

 剣に魔力を込めろ込めろウガーっと怒られて、泣きべそをかきながら作った現代兵器。

 正確には中世後期の兵器。種子島だ。

 黒色火薬の作り方くらい俺は知っていた。硫黄、火薬、硝石をゴリゴリして混ぜ混ぜすれば黄色っぽい死をもたらすブラックパウダーの出来上がりだ。……なにか材料を間違えた気が?

 次に、ちょうど良い鉄っぽいパイプがあったので、それに穴を開けて細工をして、ちょいなちょいな。さすが俺、一日とかからずに現代兵器……いや、戦国兵器の完成だ!!

 俺の前世はドワーフだったのかもしれない。

 さぁ、まずは発射試験!! 剣など過去の遺物だとファンタ人どもに教えてやる!!

「……何ですかそれは? そんな玩具を作っている暇があるのなら、真剣に稽古に取り組みなさい!!」

「はんっ!! この種子島の威力を知らないからそんな顔をしていられるんだよ!!」

「種子島? わかりました。そのよく解らない玩具を私に向けて使ってみなさい!! 剣こそが最強なのだとレイジには教えてあげましょう!!」

 ……は? えーっと、普通に死んじゃうよ?

 火縄銃って、その辺のライフル銃よりも実は威力があるんだよ?

 射程距離が短いだけで火薬の量はかなり多いから、こいつは現代のショットガン並だよ?

「さぁ!! はやく!! レイジが来ないなら私が斬りましょうか? その玩具ごと身体を!!」

 なんで、なんでこんな生き死にの展開にっ!?

「……ええい、ままよっ!!」

 当たっても、肩なら命に別状は無いだろう。轟音。次いで金属音。終わり。

 終わったよ……俺の平和な人生が。ははっ、これで俺も人殺しの仲間入り、か……。

「レイジ? 真面目にやっているのですか? 魔力の通わない矢などいくら当たっても、痛くも痒くもありませんよ?」

「ホワイ?」

「その筒が、火薬を使った武器だということは解りました。ですが、筒の中に矢を閉じ込めてしまっては魔力を込められないでしょう? 弓矢なら矢に触れられますが、その筒の作りでどうやって矢に魔力を込めるのですか? ……そんな玩具で遊んでないで、真面目に剣を振りなさい!!」

 うん、とりあえず対物ライフル。いや、ラインメタルの百二十ミリな戦車砲が必要だってことは解った。そしてそれを振り回せる腕力があるなら銃は要らない。

 現代人が戦闘民族ファンタ人に負けた……。だが俺は、一矢を報いてやったぞ!!

「マーリエールさーん!! またアルエットが剣こそ最強だって言うんだよー!!」

 飛行魔法は無い。でも跳躍魔法はある。

 一足飛びで建物を飛び越え、訓練場に聖魔の愛し子マリエルさんが降り立った。

「何を愚かな事を……。斬ることしか出来ない剣風情が最強? 斬る、叩く、貫く、燃やす、凍らせる……魔法こそ最強に決まっているでしょう?」

「……一つの事を極められない弱者の言い分。そろそろ聞き飽きたぞ?」

 あとは必死で逃げました。剣聖の愛弟子アルエット、聖魔の愛し子マリエルさん。

 剣と魔法の世界で、たぶん四番目同士の世紀の一大決戦から生きて逃げ延びました。そんなに戦いたいのなら、戦闘民族ファンタ人同士で戦っていれば良いんだよ!!


 ……などと感慨に耽っているうちに、ライオン蟻とローマゴブリン軍の正面衝突がっ!!

 おぉ、第一波を防いだっ!? なるほど!! 顔がライオンだから前足の爪がない。だから突進力には欠けるのか。

 だが、トルクは蟻の膂力。大盾ごとゴブリンの軍列を押し込んで、耐えろ!! 耐えるんだ!! その長槍で目を、目を狙うんだ!! あとは気合の勝負だっ!!


 …………え? あぁっ? それは~、反則でしょうっ!?

 蟻の上に、蟻。そして更に蟻。……あぁ、盾の上、長槍の更に上から雪崩れ込むように一列目の横陣がっ!? ウェルキンゲトリクスの表情は? ――――驚愕! 作戦は失敗かっ!!


「ええいっ! ままよっ!! ≪幻獣王ノ報復砲アヴェンジャー≫!!」

 居座った屋根の上からの幻想機関砲の一掃射。

 高速鉄道の窓ガラスの試験に鳥肉を大砲で撃ち込むなんて馬鹿な話もあったが、新幹線並の中型犬ウサギの一撃はどうだ!? 込められた魔力も十分だ。そのツノが掠めるだけでも十分だ。

 飛翔!! からの、着地! に、失敗!! ゴロゴロと擦過傷を作り転がりながら……。

「見た目の悪い蟻さんはしまっちゃうよ? まったく悪意は無いんだろうけどねっ!!」

 一辺十メートルに収まる相手なら、一撃必殺のこの鞄!! 死なない必殺技だけれどね!!

 第一列の更に前に陣取り、≪幻獣王ノ報復砲≫の水平射撃!! たまに外れてそのまま丸太に突き刺さるお前の姿が微笑ましいよ!! アルミラージュ!! キミに決めた!!

 蟻に出来て、俺にも出来て、お前等には出来ない芸当を見せてやろう!!

「≪地裂消土あなほり≫!! 一辺十メートルの立方穴だ。落ちろ!! 落ちろ!! 落ちろ!! あ、土は返してやるよ。埋まれぇぇぇぇぇぇ!!」

 穴の中に落ちたミルメコレオと共に、しまっちゃったライオン蟻もついでに落として土で蓋を閉めた。生理的に体内ストレージ内部に保存しておきたくなかったからだ。

 ……あ、こういう死って冒険者プレートのゴーレムさんは理解してくれてるんだろうか?

 あ、ちゃんとカウントしてる。ゴーレムさん、偉い子。


 うん? ライオン蟻が、器用にこちらに尻を向けて?

 ……あぁ、それなら知ってるよ。それじゃあ第三惑星から防衛軍を呼んでこないとな?

「酸だぁぁぁ! ならば、こちらは≪烈風拳はいき≫!!」

 青空ロミオ中に為に溜め込んだ空気を、突き出した拳とともに開放する。拳の意味? 気分だ!!

 ちなみに、解放される時の速度は、どういうわけか収納時の俺との相対速度になる。

 地球の赤道は時速千七百キロ。太陽を周る公転速度。太陽系自身が銀河系を回る速度を計算に入れれば、惑星の破壊程度は簡単に出来る鞄力なのだが、そうは問屋が卸さないものらしい。

 エネルギー保存則や、角運動保存則に大きく違反しているのだが、魔法なんてものがある世界だ。そんなものに捕らわれるほうがどうかしているわ!!

 さて、すでにそこにある大気に加えて十重二十重に空気が加わればどうなるか?

 それは超高気圧の塊。ガスボンベからボンベを無くした爆風だ!! 一番近くに居るのが俺ってところが自爆技だよねー!!


「だがまぁ良いさ……出したんだろう? お前等なりの警戒フェロモンを。ソイツが大きく森中に撒き散らされれば、お前等の後列は大混乱だよな? この街への道標、散らせてもらったぞ?」

 ロミオ式バックステップ、背中吸引を使った大ジャンプで第一横陣の下に帰る。そしてゴロゴロと着地に成功したことにして生き残りを、しまっちゃう!! あぁっ! 早く出したい!!

 なので、ロミオからの~、高空蟻団子爆撃。

「どうせ、お前等って、死骸なら仲間でも食っちゃう生き物なんでしょー!!」

 蟻さんは高度千メートルからでも生還するというのに、ライオン蟻は情けないな。

 位置エネルギーの力で肉塊だ。フェロモンもプンプンだ。仲間の肉でも持って帰れっ!!


 …………と、いうわけでしてぇ。さて、どうしたものだろう?

 ゴブリンローマ帝国では、ミルメコレオを追い返した英雄扱いされてしまった。……が、だからどうした?

 次の波も、その次の波も俺に対応しろとでも?

 ……あぁっ、くそっ、ティータ先生の言った通りだよ。冒険者に出来る事の限界だ。

 まさか、単身で巣に忍び込み、全滅させてこいとでも?

 ……洞窟の暗闇の中、背後からの酸の一撃で死ねる。死なない方がむしろ残酷だろうね。


「偉大なる魔法使いどの、御助力に感謝をいたします」

「いえ、すみません。貴方の作戦を掻き乱したことは重々理解しています。……本来の作戦では、どのように対応するおつもりだったんですか? どう贔屓目に見ても抗うには力不足。勝利の目など欠片も見えませんでしたが?」

 ウィルキンゲトリクスさんは苦みばしった微笑みを見せた。

 ……部外者にはあまり聞かれたくない、聞かせたくない策略なのだろう。


「簡単です。轢き付け、殺され、この村を燃やす。それだけの戦術でした。万が一の名目で、クジによって生き残る者を選び、既に森の遠くに逃がしてあります。ミルメコレオがいかに強靭な魔物といえど、この村一つを焼き尽くす炎には耐えられないことでしょう。丸太の壁も炎の壁に変わることでしょう。それをもって一矢報いる気でありました」

 ……非道にして外道。邪道であり、そして王者の道だ。

 確かに腕力で全く敵わなくとも、火災でなら多くのライオン蟻を殺す事も出来たはずだ。


「でも、それがアナタにとって何の特になるんですか?」

「時を稼げます。多くのミルメコレオを道連れとすれば、人間の軍隊が訪れるまでの時間稼ぎになることでしょう。彼等の一番の驚異はその数です。数を大きく減らしたミルメコレオならば、人間の軍隊も優位に戦えます。それに、我々自身がミルメコレオの血肉となって同胞を襲うことなど考えたくもありません。なればこそ、いっそ灰に!! ……偉大なる魔法使いどのには我等の生き様と散り様を見届けて頂きたかったのですが、私の浅慮です。無惨な死にざまを見届けるという辛い役目を押し付けてしまい、まことに申し訳ありませんでした」

 ……自爆技どころか、本気の自爆決戦だったのか。

 一億総火の玉でも足りない。日本全土を焼き尽くす作戦だ。

 数が減れば人間側も戦いやすくなる。逆に言えば、数が減らねば人間の軍隊も……。

 その邪魔を俺は…………ああっ、畜生!!


「御安心ください、大丈夫ですよ。人の軍隊が訪れるまでには、もう一度や二度は機会があることでしょう。人も命を懸けてミルメコレオと戦うのです。ならば、我等も命を懸けるまでのことです。人の軍隊が辿り着くまでには、我らが多くの数を削ってみせましょう」

「そうですか、安心しました……。なんて言えるかっ!! 何で俺に助けを求めないっ!? 馬鹿じゃないのかアンタはっ!! 目の前で、この俺の力を見ただろう!?」

「……偉大なる。いえ、若き冒険者。貴方の命とは、そんなにも安いものなのですか?」

「――――え?」

 俺の命の、値段?

「戦いとは命と命を懸けるもの。相手が何者であれ、自分がどれだけ強かろうと、不覚というものがあります。私、ウィルキンゲトリクスと、貴方、レイジ=サクマの間には、命を懸けさせるだけの何かがあるのでしょうか?」

「それは…………」

 ――――無い。

 ただ、言葉を交わした、それだけの間柄だ。


「助けていただいたことには深く感謝いたします。けれど、その理由。ただ、夢見が悪くなるだけという理由でしたら、貴方の命とは相当に安いものになってしまいます。どうか、御自愛ください。若き冒険者よ」

 中世と近世のアヒルファンタジー。ローマとギリシャも加わって古代オリエントとも合いの子だ。でも、ゲームじゃない。俺のレベルは零。魔力は無く、攻撃力は無双だが、防御に関しちゃ逃げの一辺倒。

 ゴム毬のドッジボールじゃないんだ。玉に当たれば外野じゃなくて、死ぬ。まさしくデッドボール。酸だって気付かなければ死んでいた。……ありがとう、サンダーの人。


 死ぬような思いなら、ついこの間したばかりだって言うのにな…………俺は馬鹿かっ!!

「ありがとう、ウェルキンゲトリクス。――――俺は、お前等なんかのために命なんて懸けない。俺の命はな、たかだかゴブリンの国一つのために使うには勿体無さ過ぎるんだよ!!」

「はい、その通りです。若き冒険者に幸いのあらんことを……」

 ウィルキンゲトリクスさんは、俺の解答にニッコリと微笑んでくれたんだ。


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