異世界ファンタジーの遊戯盤(4)
そして地獄があった。
魔王軍に王都を陥落され、己の領地までもが脅かされ、気もそぞろな元聖戦軍。
たとえ元聖戦軍を討ち破ったとしても、その背後には魔王軍が待ち構えている北の国。
既に血は流れた。戦端は開かれた。失われるものが失われた。ならば、得られるものを得なければならない。そうでなくては諸侯が納得しないのだ。双方共に欲深きわけではない。戦争は何時の時代でも最大の消費活動だからだ。
消費するだけと解っていながら、なぜ人は戦争を行なうのか?
それは、戦争の勝利の向こうには宝の山が見えているからだ。
略奪のためだ。財宝、領土、奴隷。欲するものは幾らでもある。
ただし、全ては勝利しさえすればの話である。
敗北と亡国は紙一重。一方などは既に王都が陥落し、亡国とも呼べる状態にある。
北の国の視点。
南には肥沃な大地と、それを守る亡国の軍勢と、魔王の軍勢が存在していた。
南への侵攻はそのまま魔王への宣戦布告となる。勝ったところで得るものが何一つ無い。
だが、北へ引き返すことは敵に背を向けること。そのまま雪崩れ込まれ、奪われるのみ。
南の国の視点。
北には国土を侵略する軍勢と、南には着々と支配圏を広げる魔王軍。送られなくなった糧食。
南へ引き返す事は敵に背を向けること。北を破るのは、浮き足立った諸侯の軍では至難の業。
だが、戦わなければ、死に至るのみ。雪崩れ込むにも引き返すにも、勝たねばならなかった。
得るものは無い。失うものは有る。落とし所が見つからない。神に祈れど神は応えず。
ただ時間と共に磨り減っていく糧食と命の数々。神に祈れど神は応えず。
その消費活動に意味は無い。だが戦わなければ死ぬ。ただそこには地獄があった――――。
付け加えるならば、北の国が雇った傭兵達は、南の国の傭兵よりもお行儀がよくなかった。
傭兵の顔を蛮族の仮面に付け替えて、守りの手薄になった北の国の街から街へ、これで互角だ。北の国も、後方支援は期待できない。南の国も、後方支援は期待できない。手持ちの糧食でなんとか賄うほか無い。それに――――北の国の王都さえ、蛮族達は落とすことだろう。
開門の手筈は整っている。
神を呪いながら死ね。神を憎みしながら死ね。神を否定しながら死んでしまえ。
そして、神を僭称するもののハラワタの中で暴れまわれ。そこが、お前達の本当の戦場だ。
神を否定するものが神の一部となる。それはつまりは自己嫌悪の素だろう?
己で己を呪うものに成り下がれ。あやかし狐の孫三郎が、狐らしい笑みを浮かべていた――――。