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エピローグ 異世界ファンタジーの遊戯盤(1)

 舐めていたのは俺だった。

 大義が有ろうと無かろうと、名分が有ろうと無かろうと、動き出した軍隊は止まらないものだった。専制君主と封建政治。似て非なる性質がそれを分けた。

 兵馬を集めた。褒美も無く解散させることは出来ないのだ。その先にあるのは王国の瓦解。

 こちらの都合がどうであろうと、戦戯王の都合がどうであろうと、侵略の準備が整ってしまえば攻めざるをえない。もしくは、自分の首を王自らが差し出すかの二択になる。北の国の王は、大義も名分もないただの侵略戦争を宣言した。

 理由はくだらない、取るに足らない揚げ足取り。

 だが、勇者不在。魔王軍との連戦に疲弊した国であれば勝機は十分にある。周辺諸国への根回しは、外交努力でなんとか抑える予定なのだろう。国が動いた。故に、こちらの国も動いた。

 東は荒れ果て、西は人の物ではなく、南は海。故に、総力を挙げた一大戦争の始まりだった。


 北の国境線、緩衝地帯となる不毛地帯での前哨戦。

 牽制に継ぐ牽制。相手の防御線を突破し、裏へ回らんとすると、自然に防御線は長くなる。

 魔物退治もそうだが、治安も悪化し、荷運び一つも上手く行かない。北側では糧食が用意周到にされていたが、この国はそうも行かない。糧食の逐次投入。兵力の逐次投入は下策だが、糧食の逐次投入もまた下策。

 それに食べ物自身、無限にあるわけではない。

 金があっても商品棚に並んでいないものは買えない。

 遠方から運ばなければならない状況。お陰様で冒険者ギルドは大繁盛。この場合は野盗になるのか川賊になるのか解らないが、それらが増えて商人達の護衛の仕事が増えた。

 妙な話だが、数さえ入れば良いという状況だ。鎧兜を着ていれば、誰でも強くは見える。

 舐めてかかれば、中に混じった本物の強者に斬り殺される始末。川賊も大変だ。

 川を上がれば山賊の出番。もう、お前等、行商人の人足をした方が儲かるんじゃないの?

 とはいえ、仕事は仕事。北の国からやってきた傭兵さんが山賊の顔をして襲い掛かる。

 傭兵団を分割し、冒険者として商隊の護衛につける。ティータ先生が大わらわしてました。

 俺も俺で、ポロポロこぼれた魔物退治の仕事で大忙し。冒険者ギルドが、ここ百年で一番に輝いた時でしたとさ。過去形で。


 とてつもなく簡単に例えるならば、遊戯盤の種類を俺は勘違いしていた。

 チェスではなく、将棋。考えてみれば、将棋とは常軌を逸した遊戯盤だ。

 獲った駒が自分の手先になる。さらには敵陣の奥深くに唐突に現われる自軍の駒。あれの何処が戦場を模したものなのか?

 捕らえては洗脳使役。そしてワープ。ファンタジーなルールにも程がある。おそらくアレは、異世界からもたらされた遊戯なのだろう。たとえば、この合鴨ファンタジアからとか……。


「我が名は戦戯王エグザクト。我が後方に控えしは我が軍勢。魔王軍……などとも呼ばれているがな? ……さて、王都の諸君、御機嫌よう。キミ達が頼りにする剣聖は遥か北に、聖魔もまた遥か北。勇者とその姫君は東へ西へ。さらに、君達の王自身も人間同士の争いのために遥か北。かつて我を破りしベルガドットも遥か北。さぁ、王都の諸君に尋ねよう? ……我が軍勢の前にその寡兵を持って立ち塞がり蹂躙されるか、それとも大人しく門を開けるか。なに、奪いはせぬし犯しもせぬ。むろん、殺しもせぬ。ただ欲するのはその城と玉座のみだ。だがしかし、我は馬鹿は嫌う。勇ましき者は好むが、身の程を弁えぬ者は嫌う。魔王が一礼を尽くして頼みこもう。お願いだ、その門をこころよく開いてはくれないかな?」

 魔王の魔力による巨大な召喚魔法。北の争いに目が行っている間に、単身で王都の前に立ち、自らの配下を呼び寄せた。結果は、無血開城。一手差しの詰め将棋。

 王都の中の人々が、徹底抗戦か無条件降伏かで別れ、意見を戦わせようとしたところに飛び込んできた魔物たちのウォークライ。戦場の叫び声。轟く怒りの声。それに想起された恐怖によって、人々の心はポキリと折れた。

 門を閉めれば殺される。

 門を開ければ殺されない。

 そもそも街門は最初から開かれていた。唐突なる出現。閉じる暇が無かったからだ。

 そして城下町の門から始まり、王城へと続くのは魔物とは思えぬ騎士装束の魔王の行軍。

 時間にすれば一時間掛かったかどうか。あまりにも唐突なる王都陥落であった。本当に無血開城。王都に残った皇子や貴族達は、都から放逐された。北へ向かい合流しろと、無言のうちに勧められたのだ。彼等もまた遊戯の駒だ、敵方にこそ多ければ、より楽しめるのだろう。

 こうして戦戯王エグザクトが王都の玉座を手にした。王冠ならば自前のものがある。

 断たれた糧食源。踏み躙られた王権。引き返そうにも、目の前には侵略中の北よりの軍勢。

 こうして完全に、この国の息の根は止められたのであった――――。


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