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冒険者ギルド、昔々(3)


「そこの貴方、お塩を買いませんか?」

「……そこの坊主。俺が今、何を作っているのか解って言ってるんだろうな?」

「はい、解って言ってます。塩ですよね? だから塩を買いませんか? 卸値の五分の一で良いですよ? 塩の専売特許は職人さんのもの。じゃあ、塩の職人さんには誰が塩を売る権利を持つんでしょうね? だーれも権利を主張してませんから自由ですねー?」

「それは俺だけか? 俺だけに売るつもりなのか?」

「出来れば皆、皆さんに。津波で駄目になった塩田被害者全員に配って廻りたい所です」

「――――解った、元締めの所に案内する」

 アメリカナイズド大塩田の閉店セール。塩漬け物件の売却処分。あんな製法が世に出れば、荒縄が馬鹿売れすることだろう。時代の進歩が早すぎれば、必ず誰かが首を吊る。だから閉鎖しなければならなかった。ただ、塩だけは異常な量が余った。

 ついでに言うと隣国から密輸入もした。商人に売る専売特許は職人のものだが、商人にしか売ってはいけないという規則は無かったからだ。交易路はボロボロで運べない。塩は腐らないが人間は腐る。塩が売れないとフテ腐る。なので、底値で買い叩いた。

 それを奇跡の聖者のような手法でサラサラと塩を溜めるツボの中に。塩を口にすれば、魔法で作られたものかどうかはすぐ解る。市場価格の五分の一ならと、元締めの人は気前良く支払ってくれた。正確にはすぐ隣の商人達が。そしてスタートダッシュ。高騰した塩の価格が下落傾向一直線だと理解していたのだろう。

 だが、こちらも早いぞ? 音速に近い。沿岸部、塩田を回るのに二日。交渉事は先に済ましておいたのだが、引き止めも多かった。嫁をやるとかやらないとか。ええいっ! 離せっ!! 俺のレベルは零。成人男性、それも力仕事の人に握られると骨が軋むんだよ!!

 はてさて、南部の海岸地帯から始まった塩売り行商レース。誰がどれだけ勝つのやら?

「アンタ、名前は?」

「アリアドネと申します。あ、神の使いでは決してありませんので御注意を、この塩を食べる時にはどうぞアリアドネに感謝してください」

 ブラック保険屋へのちょっとした嫌がらせだったのだが、塩を使わない料理といえば祈りもしない貧困層の料理くらいだ。アリアドネの塩という謎のプレミアを付けるあたり、この異世界商人達の商魂逞しさには舌を巻く。

 いつか何処かの食堂で、「私達に塩をもたらしてくれたアリアドネさまに感謝いたします」と聞いて、噴出すアリアドネさんの姿を見てみたかった。直接見れないのが惜しいな。

 さて、ブラック保険屋よ、どう出る? ――――話には尾鰭が付きものなんだ、そのうちに塩の神様アリアドネが生まれるぞ?

 魔王をもたらしたお前。塩をもたらしたアリアドネ様。どちらを人は信仰するのだろうな?

 特に、食事の前の祈りにな? 面白くなってきたじゃないか、くっくっく。


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