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いずれはしたいニャンニャンを(4)

 さて、この白虎王。名前で呼ぶと怒るそうです。

 可愛くない名前ですし、可愛くないニャンニャンです。あんまりニャンニャンしたいと思わない巨大なホワイトタイガーでした。

「気紛れな猫科でも魔王は魔王。やはり、約束事には厳しいんだな?」

『二十年。あの二人よりも強き者は現われたか? 勇者が召喚されたと聞いたが?』

「残念なことに、勇者様なら入れ違いで東の国に入ってしまったよ。この国の守護者ではなく、世界の守護者だからな? ちょいとばかりタイミングが悪かったかな? それとも良かったのかな?」

『我は強者、闘うに足る強者を求める身の上なり。勇者不在の国とは残念だが、約定は約定。我が牙に懸けて滅ぼさせて貰おうぞ』

 俺より強い奴に会いに行く、ねぇ?

「疑問に思うのはそこなんだよね? 強者というなら世界には魔王が幾らでも居る。なのに何故、お前は挑まないんだ? 俺に挑んだ天竜王は気高く、弱き者は襲わず、本当の強者しか牙にはかけなかった。だが、お前は違う!! 弱者と理解しながら甚振り殺す。ユグドラシル大鹿をなぜ殺した? なぜその遺体を無残な形にして晒した? 俺はこんなに強いんだぞ、そう自己顕示したいだけなんだろう!? お前の心の浅ましさなどお見通し済みだ!! どうせ勇者様不在の一報を聞いてからノコノコと現われたんだろう? この、臆病な白猫がっ!!」

 ただ生きて居たかっただけのユグドラシル大鹿さん……その仇は、絶対にとるからね!!

『調子に乗るなよ人間風情が!! 我は白虎王ヴェスポール!! 人間風情に我が深慮を計られる覚えなど無い!! 我が牙に掛かって死ねること、光栄に思い死ぬが良い!!』

「深慮? 短慮で浅慮だろうに!!」

 勇者様が不在でも、この国には天竜王ヴェスパールを打ち倒した偉大な……る、魔法使い、さまが……居る、らしいんだぞ!? うおおおおおおおお!! 恥ずかしいわっ!!

「俺の名前はサクマレイジ。天竜王を落としたことで、少々有名な冒険者だ。キサマと戦うに資格は十分か? むしろ、お前の方に資格は足りているのか? 天竜王のモノマネ虎よ?」

『舐めるな人間!! ヴェスパールなぞ、魔王の中で最弱のトビトカゲぞ!! あのような雑魚に比べられるは不愉快なり!! その血を持って、この不快を拭い去ってくれるわ!!』

 国境線。緩衝地帯での接近遭遇。隣国側、東の関所の兵士は無残にも皆殺しにされていた。

 まぁ、それが趣味だと言うのなら仕方が無いことなんだろう。猫科は残酷な生き物だ。魔王から趣味を奪えば果て無き退屈が残るだけなんだから。そりゃ悪趣味だとは思うけどね?

 鳥達が飛び立ち、逃げ後れ、そしてポトポトと落ちてきた。遠くの鳥はやっとの思いで逃げ延びたらしい。魔力の発動が感じられないという現象にも慣れてきた。俺が変わらなくても周囲が変化する。

 炭鉱夫がカナリヤを連れて地下に入った理由が解るというものだ。

「あぁ、そうだった。戦いの前に伝えておきたい伝言があるのを忘れていた……」

『なんだ? 申して、』

「≪柑橘酢酸砲ネコイラズ≫!!」

 初手は不意打ち。虎もやっぱり猫科だな。柑橘類の果汁と酢の混合ジェット噴流で顔をクシャっと歪めている。もう少し可愛い猫科。実は巨大なアメリカンショートヘアーだったなら不味かったかもしれない!!

 でも、この虎はまったく可愛げが無いので大丈夫だ!!


 そのまま飛翔に入るが、向こうの加速も早い。地面と言う確かな物体を蹴る分、加速が違う。が、襲い掛かるために跳躍してしまえば一直線!! そんな空中機動、避けるのは簡単だ!!

 地対空なのだから、一方的に攻撃出来そうなものなのだが、残念なことにステルス機の武装は貧弱だ。鱗では弾かれたアヴェンジャー、毛皮なら通るかと放って見た。だが、叩き落とされた。流石の猫パンチだ。だがしかし、それで足を止めてしまってどうする白虎王?

 十歩目には音速を超えてくる。そして飛びかかってくるが、こちらは空中、交差する未来位置を予測して避けることはさほど難しくはない。

 あと、アヴェンジャーにジャレつくのは何故? 空中で猫パンチを繰り出し、挙句として着地に失敗する姿は無様だな白虎王!! 白虎王も大地に落としたぞ、人間の勝利だ!!

 しかし、よっぽど遊び相手が居なかったのか?

 魔王は皆、寂しがり屋が多いよなぁ……。

「ははははは、その程度の跳躍で天竜王に挑めるとでも? 一方的に焼かれ続けていたばかりなのではないか? 白猫王マルコポーロ!!」

『ぬぐぐぐぐぐぐ!! 空を飛ぶとは卑怯千万!! 我が地平に降りて戦え!!』

「ふん! なぜ、お前の得意な地形に合わせねばならんのだ? さぁ、そろそろだ、お前の最も苦手な場にて決着を付けてやろう!! 天の利、地の利、人の利を得られぬ貴様が屈辱の屍を晒すに相応しい場!! 見よ!! この偉大なる大自然に勝てるつもりかっ!?」

 前方に広がるのは海。虎も猫だ。水には弱かろう?

 水に脚を捕られながらの戦闘なら俺に分がある。音速以上も出せまい?


『ぐふっ! ぐふふふふふふ!! ぐはははははははははは!! 愚か!! やはり人間は愚かだな!? 海上に出れば勝機が在るとでも!? 無い。無いぞ!! 我が力を侮りすぎだ!! 海など我が前には溜池に過ぎぬ!! 魔王の力の片鱗、貴様にも見せてやろう!!』

 白虎王は大きく息を吸い込み、魔王たる本懐を大海に向けて撃ち放った!!

 其は≪氷ノ世界≫。ありえぬ筈の温度。絶対零度よりも更に下。大海を氷河に。白虎王の本懐は、世界を一面の銀世界へと変えてしまった。海が、陸に、変わったのだ。

「そ、そんな馬鹿な!! ……海が、海が凍りつくだなんてっ!?」

『ぐふっ!! ぐはははははは!! 見たか!! 我にとって海などと言うものは溜め池に過ぎぬと言ったであろう? ほう? まだ逃げるか? 逃げるしかないか? 地の果てまででも逃げるが良い!! いや、この場合は溜池の果てであるかな? ぐははははははは!!』

 高速飛翔で逃げ回る俺を、氷河の陸地を拡大しながら奴は追いかけてきた。

 十キロメートル、五十キロメートル、百キロメートル……。

 そして俺は飛翔による逃亡を諦め、白虎王と対峙することを選んだ。これだけの距離があれば十分だろう。これだけの距離でも十分だろう。――――これでようやく本気が出せる!!

「白虎王よ。……名を呼んでも構わぬか?」

『良かろう、許す。ここまで我から逃げ延びたのは初めての人間だ。褒美として許そう。ユグドラシル大鹿さえ十秒と持たずに捕らえられた。ここまで我より逃げ回ったのは、お主が初めてである。逃げ足だけだが、誇りに思うが良い……』

 ……そりゃ、魔力で抑えつけただけだろうによ。

「発音がおかしいのは許してくれ。俺の母国の音と大きく違うゆえな。それから、逃げ回った訳では無いということを、お前に伝えておきたくてな!! ――――白虎王ベスポーリュ、お前に相応しい死地は決まった!! ここだ。お前はここで滅ぶ。我が策謀の前になっ!!」

『面白い、その策とやら見せてみよ!! 人間風情が我に対して何が出来ると思ったか!!』

 この鞄、色々出来ますよ?

「ならばっ! お前に相応しい熱源は決まった!! 其は母なる光!! 世界を照らす命の光!! 天空に在りて我等を包み慈しむ太なる陽!! ≪凝集太陽光熱並行波砲サンシャインレーザー≫!!」

 太陽光は光源よりあまりにも遠いため、ほぼ平行の光波として扱われる。

 つまり擬似的になるが近距離ならばその性質はレーザー光線とほぼ変わりが無いのだ。不死王の噂、吸血鬼であることを知ったその日から溜めに溜め続けたその日光。十重二十重の百倍千倍の熱線として放つ先は、お前が自慢する氷の大地よ!!

 氷と言うのは水より軽い。ならば、そこに亀裂を加えれば自らの浮力において割れるが道理。

 サンシャインレーザーによる切り取り線と、自らの浮力によって、氷の大地が浮き島に変わる!! あの白虎王が爪を立て、島にしがみ付く始末だ!! ちっ!! しぶとい!!

『氷を割りて、我を海に落とすか!! なるほど考えたものだな!? だが、愚策。この程度で我がどうにかなるとでも思ったか!? 海に落ちたとて、また氷の大地を作るまでよ!!』

「いや? 魔王が海に落ちた、それだけで滅ぶなどとは思っていない。そんな魔王は一匹だけで十分だ。なぁ? 天竜王ヴェ……ヴェ……トカゲマンよ!?」

 天高くに影が見えた。天空とは、基本的に暇なところですからねー。地上でこれだけ大きなゴタゴタがあれば観戦しに来るのは道理でしょうねー。寂しがり屋のトビトカゲめ。

『トカゲマン……ベスパーリュよりはマシかも知れんな? お主の舌足らずの恥を晒さずに済む分にはな? 我が名は天竜王ヴェスパール!! そこの白猫と一緒にはしてくれるなよ?』

『おのれ人間!! 謀ったか!! 天竜王の走狗として、我をこの場に誘き出したかっ!?』

「いえ? そこの天竜王さんはたいそう暇をしていたので、勝手に観戦に来ただけですよ?」

『うむ、それは否定せぬ。地上で争いあらば、これを見るのも楽しきことゆえな。我は竜王、強者と強者の争いごとに首を突っ込む野暮などせぬわ。貴様と一緒にするな!! 白猫!!』

 ほんとうに天空って暇だもんねー。太陽と青空と雲しかないもの。

 それから本当に仲が悪いんだねー。似てるのは名前? 性格? 同属嫌悪?

『ふん!! トビトカゲが!! 人間!! では何故、いまコイツを呼び寄せたのだ!? 卑怯にも魔王の手を借りて、我に挑もうと策を練ったのではないのか? あるいは当てが外れたかな? 人の猿智恵の限界と言う奴か? ぐははははははははははははは!!』

 ふんっ、猫風情が舐めやがって!! 猫の舌には肉をこそげ取るトゲトゲがあるから、舐められるとザリザリして割と痛いんだぞ? 親猫が子猫をペロペロしてるけど、あれって痛くないのかな? 毛があるから大丈夫なのかな?

 さてと、それではこの白虎王マルコポーロさんにはそろそろ滅んでいただきましょうか。

「お前に相応しい罵詈雑言は決まった!! 己が善行は己に還る。己が悪行は己に還る。その割には悪が栄えるこの世の不思議、是正するのが正しき道理!! ≪口ハ災イノ元ダおまえのコトバ≫!!」

 では、記録音声をポチッとな。

『ヴェスパールなぞ、魔王の中で最弱のトビトカゲぞ!! あのような雑魚に比べられるは不愉快なり!!』……空気って不思議ですね。音を記録してるんですよ。

『ほう? 我が魔王の中で最弱のトビトカゲ……なるほどな。なるほどなぁ!?』

『むっ!? わ、我の声では無いぞ!! いまのこれは我が声ではない!!』

『いや? 何処から聞いても汝の声であったぞ、白猫王よ!!』

 あぁ、録音した自分の声を聞くと別人の声に聞こえるんだよねー。

「天竜王さん、天竜王さん。この無礼な白猫、海に落としちゃいませんかー? 空を飛ぶのは卑怯とか、弱者の証拠とか、天空など大地より逃げた臆病者の溜まり場よ!! とか言ってたんですよー?」

『言っておらぬわ!! 嘘を吐くな!! そこな人間!!』

『どちらでも構わん!! 強者の争いに首を挟むなど竜王の矜持に関われど、最弱と罵られては魔王の矜持に関わるわ!! 我が炎にて海に沈め!! この白猫がっ!!』

 流石は天竜王の豪華業火。楽で良いね。

 氷が凄い勢いで融ける融ける。氷山が泡立つ熱湯に変わるくらい簡単に融けるわ。

『人間!! この場は貴様の策謀の勝ちかも知れぬ。だがな!! 陸地に戻ればどうなるか覚えておくが良いぞ!? 貴様の王国、ありとあらゆる全てを滅ぼし尽くしてくれるわっ!!』

「嫌ですよー。覚えてませんよー。どうせ、マルコポーロさんは陸には帰れませんからー」

 出来るものならやってみろー!!

 帰れるものなら帰ってみろー!!

『天竜王!! まさか貴様、このまま我を滅ぼさんとするか!! それは竜王の矜持として許されぬことであろう!? 違うかっ!!』

『うむ、確かにそうである。我はこの氷を融かし、汝の無様を見届ける程度はすれど、溺れる猫を殺すような真似はせぬぞ? この先、我は手出しはせぬゆえ安心せよ』

 トカゲマンが俺のほうに目をくれた。竜の矜持として、弱者を甚振る事は出来ぬらしい。

 ――――結構、わたくしは甚振られてるのですが?

「だーいじょうぶですよ、天竜王さん。ここは海の上。いえ、海の中。その領土を氷漬けにされて怒ってらっしゃる魔王様が二人も居るんですから。わざわざボク達が手を出さなくても」

 丁度、津波かと思うような波の盛り上がりが生じた。そこから姿を現したのは二体の海獣。

 おそらく、海蛇のような鋭く長い姿をした方が水竜王シヴィライアさん。海の青に鮮やかな蒼が素敵なドラゴンさんです。竜というよりも龍。空は飛べるのかな?

 イカとタコと巻き貝が混じったような、己の正気を疑わざるを得ない造形をした方が海洋王ディスマイアさん。イアイア!! もう賞賛するほか無い海洋生物の女王様です。

 お魚成分は何処に?


『あら、猫が一匹。私達の領域で大暴れしてくれちゃったみたいね?』

『そうね、この猫。食べて欲しいのかしら? 半分こで良いわよね?』

『縦に半分? 横に半分?』

『虎の下半身って、珍味だって話だけどチャレンジしてみる?』

『じゃあ、とりあえず殺しちゃってから決めましょう?』

『そうね、そうしましょう? 海の領域に挑んできた愚かな猫の魔王。私達を舐めていたんでしょうね? お魚が好きですものね? でも、海中で私達に勝てるつもりだったのかしら?』

『男って……馬鹿よねー?』

 あぁ、無情。魔王は気高い。その下にあるものの為にも。

 ゆえに、海に挑んできたならば、その矜持に懸けて滅ぼさねばならない。相手が何ものであろうともだ。白猫さんが海中で海の魔王に勝てるか? ははは、ありえないありえない。

 ライオン。獅子という生き物は百獣の王としてプライドの高い生き物扱いされている。それに比べると虎はそれほどでもない。一匹で生きるボッチ傾向が強いためだ。

 そして中国などでは虎は卑怯な生き物ともされている。虎に喰い殺された人の霊は成仏出来ず、虎が人間を誘い出すための奴隷として使役されるという話だ。堂々と平原に寝そべる獅子と、密林から突如襲い掛かる虎の性質の違いが評価にも現われたのだろう。

 どちらにせよ、獲物を甚振る傾向はある。猫科ですから。

 それはさておき、獲物を甚振る傾向はある。女性ですから。

 先程から息継ぎをしようともがく白虎王の後ろ脚に絡みつき、顔が出るか出ないかの合間で嬲り殺しの刑にあっている。無残也。天空の王者さんも流石に見るに堪えないらしい……。

 氷の大地を器用にブレスで融かして回るだけだ。万が一にも生かして帰す気はないようだ。

 やがてゴーレムさんのプレートが超高速で数値を変えて、息の根が止まった。

 ユグドラシル大鹿さん――――貴方の仇はとりましたよ!!


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