表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/59

第三話 いずれはしたいニャンニャンを(1)

 お膝の上のメイメイさまが、アルエットのつれない態度の理由を説明してくれました。

「うむ、それはのぅ。ワシの耳にはな? 奥の院の何処の音でも拾える秘術があるのじゃ。その気配に気付いたのじゃろうなぁ? 流石は聖剣に選ばれし乙女、アルエットじゃのう……」

「ほほう、それは一体どのような秘術で?」

「こう、耳をペタリと壁に押し付けてじゃなぁ」

「完全に聞き耳立ててるだけじゃねーですか!! こんな耳、こうしてやる!! こうしてやる!! がるるるるるるるるる!! はむはむはむはむはむはむはむはむたるぉぉぉ!!」

「ふぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 メイメイさまの耳は狐の耳と言わんばかりにハムハムしてやると、口が毛だらけになった。

 抜け毛の季節が到来ですか? そろそろ秋ですものね。お守りにしておきますねー。


「しかし、お主も罪な男じゃのぅ。ワシに始まりティータ、アリアドネ、アルエット。もう四股か、残る席は五つしか無いぞ? お主等も急ぐのじゃぞー?」

『はーーーーーーい!!』

 壁越しに多重の返事がっ!?

 おのれ巫女巫女ども!! 貴様らも邪魔をしていたかっ!!

「あ、でもアリアドネさんは含まれませんよ、その線は消えました」

「メトセラは一途な種族じゃぞ? その場の勢いに流された? くふふっ! そう思いたければ思っておれば良い。だが、席は残しておいてやるのじゃな? でなければ哀れじゃからな」

「あの、それなら十席目を増やす訳には?」

「ふむ。増やすことも可能じゃぞ? なれど……お主が持つのかの?」

「はい?」

 俺の何が持たないと?

「お主がその気になった時には本能に委ねるが良かろう。じゃがな? 女にもその気になる時があるのじゃぞ? その時はどうするのじゃ? まさか放って置くわけにもいくまい?」

 男性一人分の性欲と女性九人分の性欲。な、生々しいが敗北必至……。

 男には賢者となる時間が必要なのです!! そう、男はときおり哲学者になるのです!!


「うむ? もしかして女とは、お主がその気になったときだけ欲望に応じる。そんな器用な生き物だとでも思っておったのかの? 何事にも波があるのじゃぞ? 特に女はな? 機嫌の波に月の波。甘えたき時には甘え、拗ねたき時には拗ねる。それを九人分、お主は背負える気でおったのかの? もしや、釣った魚には餌をやらずに飢えさせながら、他の男にそれを求めたならば浮気だ不誠実だと口にする気じゃったのか? さすれば九股どころか一股も許さぬぞ? 具体的には斬るぞ? それで良いかの? 女の敵は女が斬る――――それが道理じゃな?」

「い、嫌です!! レ、レイジは男の子です。女の子にはなりたくありません!! ボクは、この一股を守り抜いて見せます!! 具体的に、どうすればよろしいのでしょうか!?」

 商いのことは商人に、森のことは森の人に、女のことは女性に聞けば良かったのですよ。

 助けて、ウィルキンゲトリクスさーーーーーーーん!!

「ふむ、例えば九日で一周。女にとっては九日ぶりじゃが、男にとっては毎日のことじゃな? 求められるだけ、一晩に渡り熱心に愛し続けられるものかのぅ? 時間を分けたとて気分にむらが出るのは男女が同じ、波の調子が合わねば双方共に楽しくもなれまい? では、一緒くたに愛せといった所で己が身は一つ。女は話を聞かせたがりじゃからな? 出来ることは、九人分の話を同時に熱心に聞くことくらいじゃ。もしも、それが出来ることならの? わしは過去の偉人のなかでは一人しか知らぬのじゃ。まぁ、頑張るのじゃぞ。鍛錬あるのみじゃ」

 愛のあるハーレムを作りたければ、馬宿ノ皇子さま、聖徳太子さまになれと!?

 九人の乙女の話を聞き、九人の乙女の願いを叶え、九人の乙女と交われ。それも、女の機嫌と月の波に合わせた、ウネリあるメイルシュトローム大津波をサーフボードで乗りこなせと?

 ――――無理です。不可能です。レイジはハーレムの夢を諦めました!!


「なんじゃ、ションボリしおって。英雄は色を好む。お主はこれから先、さらなる美姫を求めて冒険の旅を続けねばならんのじゃぞ?」

「ど、どうしてでしょう?」

「根っこがワシじゃからじゃ。ワシは無謀に挑む馬鹿が好きなのじゃ。釣られた狐に餌を与えぬと、斬ってしまうぞ? ほれ、お主の新しき冒険の旅が始まるのじゃ!!」

 このハーレム命懸け。に、逃げたい。でも逃げられない。メイメイさまの意地悪ぅ!!


 ……。

 ……。

 ……。

 真っ黒オジサンのお屋敷に御呼ばれしました。決戦のために私財を投げ打った割には大豪邸。

 後々になって取り返したのか、王の守り、キングスガードという重職がそれだけ儲かるのか。

「聖具にして冒険者。偉大なる魔法使いレイジ=サクマ殿に御足労いただき感謝しよう」

「……先に言っておきますけど、俺のハーレムに男を入れる気はありませんからね?」

「自分の女を他人に抱かせる。他人の女を自分が抱く。そんな趣味もあるそうだが、そういったことには縁のない性質でね。安心してくれ」

「なるほど、真っ黒オジサンは清い身体であると!?」

「妻は居る。子も三人居る。一緒にするな、童貞少年」

 レイジは無限のダメージを負った。精神が死んでしまった。真っ白な灰はロストした。

 真っ黒おじさんめ、これが妻帯者の風格と言う奴か!! どうせ妾も居るんだろ!?


「さて、勇者様をこの国から逃げるように勧めたのは、キミだね?」

 くっ!! 男としての格付けが!! 向かい風が吹いてくる!! これが加齢臭!?

「いいえ、この国の現状をお伝えしたところ、勇者様が勝手に出ていったみたいですよ? 勇者様、この国の何が気に入らなかったんでしょう? やっぱり王様の手下になるのは御免だったんじゃ無いでしょうかね? 神に使わされし勇者様なのに王様の家来とか、もうこれは一族の将来に関わる大恥ですからねー? やっぱり勇者様なら自分の王国を作らなきゃね!!」

「なるほど理屈は通っている。だが、おかげで聖戦軍はボロボロだ。樽からタガが外れ、剣聖様や聖魔様が頑張っておられるが……。もともとが剣一筋に魔法一筋のお方。上手くはいっていないようだね。この状態で戦戯王エグザクトに攻められたなら、どう受けるつもりかな?」

 受けいれません。勝ちません。不戦敗など如何でしょう?

「戦戯王エグザクトの足は二本です。戦争と遊戯。だから生かして帰して貰えたんでしょう? 遊戯にならぬのであれば攻めて来ません。他に遊び相手でも見つけることでしょうねー」

「――――その証拠はどこにある? 遊戯にならぬと怒り狂ったエグザクトが襲い掛かってこない証明は? レイジ殿、私は王国を預かる将として尋ねている。答えをお聞かせ願いたい」

 なんだろう? 気配が変わった。おそらくは魔力を解放したのだろうが、生憎と感じられぬ身。威嚇されておきながら動じないというのは格好良いけど、まったく気付けないっていうのはどうなんだろう?

 飄々と相対する、大物っぽい見た目は一緒なんだけどね?

 さて、返事返事――――。

「知るかボケ。このクソ野郎。他人を平和な世界から呼び出しておいて、命を懸けさせる? そんな腐った国はさっさと滅べ。それとも俺が滅ぼしてやろうか? 手は打った、確証は無い。だからどうした? 俺達はお前等の保護者じゃないんだ、勝手に争い勝手に滅べよ。そうだ、王様自身が陣頭に立てば良いんだ!! そうすれば、聖戦軍も引き締まらざるを得ないだろ? 自分の国だ、自分で守れ、なに他人様をアゴで使ってんだよクソ野郎どもが!!」

 はっはっは、これはこれで戦戯王エグザクト好みの展開かもな?

 王将が戦場に出てくる。実に本格的な大戦争だ。玉座に座って果報は寝て待て?

 いずれ玉座に画鋲を仕込んでおいてやるよ。アスホールにグサリといくようにな!!

「キミは、この国がどうなっても構わんと言うのかっ!?」

「はい、そうですがー? 無理やり連れてこられただけの国。なんで守って貰える気で居るんでしょうか? 王様の脳はロバの脳~! 猿より少ない脳容量~!」

「それは不敬に当たる言動だぞ!! 少しは慎め!!」

 ごめんなさい、猿に対してもロバに対しても不敬な発言でした。

「あ、すみません。ボク達、自分の王様は自分だという不思議な国から来たものですから、冠を被って高いところに座ってりゃ偉い人間だって感覚、いまいち理解できないんですよ。アイツ、ただの人間でしょ? それも他人のケツを眺めてるだけの。どの辺が不敬なんですか? 自分が弱いからって余所の国から他人を攫っておいて、踏ん反り返ってるゲス野郎にしか見えないんですけど?」

「陛下への侮辱は、」

「ボクへの暴力は勇者様への宣戦布告ですが、よろしいですか? よろしいですね? ボクは勇者の鞄。勇者様の所持品。それに手を掛けるのは盗人も同然。では、戦争を始めましょうか!! 聖戦軍とやらは国王様と勇者様。どちらに付くのでしょうね!? 実に興味深い!!」

 国王の名前、実は知りません。覚える気が無かったからです。無理に忘れました。

 この国の名前、実は知りません。覚える気が無かったからです。無理に忘れました。

 行きなり連れ去られて、今日から俺がお前の主な。そんなことを言われて黙っていられるほど日本人の魂は腐っちゃいないんですよ! 俺はサムライの魂を捨てちゃいないんですよ!!

 あ、実家は農家です。由緒ただしき農家の血筋。源氏の血が混じってるらしいですけどね?

 それから勝手に付いてきたって点は、都合よく見逃してください。お願いします。

「さぁ、どうぞ真っ黒オジサン。国王への侮辱は、何ですか? 続けてください。続けられるなら幾らでもどうぞ? 王の守りが王の滅びを召喚する。実に皮肉な伝説が生まれそうです」

 真っ黒オジサンの返事は降参のポーズだった。だから、俺はこの大きな館を占領させてもらった。あとは、戦争に勝利した者に与えられる当然の権利を執行させて貰うだけだよね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ