表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/59

世界知らずの勇者様(3)

 民主主義の王様は、民衆自身だ。

 封建社会や専制君主国家の王様は、王様だ。

 王様が居て、貴族が居て、民衆が居て、奴隷が居る。そしてその全てへの命令権を王様が持つ。命令権は所有権と言い換えても構わない。ただし相手は人間だ。あんまり無茶を言うと拗ねるので、ちょっとは加減しなくてはならない。

 民衆は奴隷を使役する。貴族は民衆を使役する。王様は貴族を使役する。王様は王様を使役する。貴族が奴隷を使役する事もあるが、その三角形自身には何の揺らぎも生じない。

 つまるところ、自分自身の所有権を主張できるのは王様だけの社会なんですよね。

 他は王様の所有物なんですね、これがまた。


 宗教家なら自分は神の所有物ですと胸を張って言うんだろうけど、生憎、俺は無宗教。

 俺は俺自身のものですよー?

 勇者さまはイケメンですけど、所有物扱いされた時はキレましたよー?

 世界の奴め、今度あったら収納してやる。時間軸の無い世界に世界を永久封印だ。

 勇者さまは召喚され、下にも置かれぬ扱いを受けてきたから、この世界の土台を未だに理解していなかった。ただ、求められるままに戦ってきたのだ。ウィルキンゲトリクスさんやトカゲマンなどの人間外の知性の持ち主すら知らなかった。

 魔王が攻めてきた、だから魔王は悪だ。自分達が魔物の領域を攻める分には聖戦だ!!

 ずっと隠されていたのだろう。汚い部分を見て気持ちの良い人間は、あんまり居ない。

 それが国の汚い部分なら、その国自身を嫌いになってしまうことだろう。

 勇者様にこれからのお勧めを聞かれた。

 なので、「東か西の国にでも逃げたらどうですかー? この国、北の国から侵略されて、ぼちぼち人間同士の戦争が始まりますからー。矢面に立って人殺しになりたいですかー?」

 そう、答えておいた。


 召還されて以来、ずっとおかしいと思っていた事がある。

 世界の為に召喚されたという名目なのに、ずっと勇者様がこの国に留められていた事だ。

「とりあえず東の国にでも行って、冒険者として活動して、世界の実情を知って、世界を助けるかどうかはそれから決めたらどうですか?」

 などとも勧めてみた。

 そうして祝勝会の席には剣聖様と聖魔さまと三つの空席。

 日本人にしてはフットワークが速いですね。……ざまぁみろ戦戯王。まずはこれが一手目。

 勇者と二人の姫君、その存在を想定して策謀を練ったんだろ? ならば、これで御破算だ。


 ……。

 ……。

 ……。

 祝勝祝賀会。そのパーティ会場は思いのほか狭かった。

 漫画やアニメをベースにして大ホールを予想していたのだが、現実のパーティ会場とはアメリカンだった。アメリカの若者のホームパーティ。あの人口密度。

 ジャパニーズ的な大広間での大宴会を予想していたら、大豪邸の様々な部屋をパーティ仕様にするスタイルが一般的らしい。秘め事用の部屋に、姫ごと用の部屋もある。なので、人口密度の一番低いダンスホールで壁の染みを演じていた。あぁ、落ち着く……。

 アルエットが壁の華を飾っていた。マリエルさんは壁の壁になっていた。器用だ。

 やっぱりどの世の中でも、男より強い女性と言うのは男子の沽券に関わるものらしいね。

 ちなみにモテモテなのは、メルビル子爵にランダル男爵。こっそりウィンクをすると、この異世界では馴染みのない不慣れなウィンクで返してくれた。

 演劇が流行れば名が売れる。ついでにお金も入る。とっくの昔に元は取り返したようだ。

 もっと踏み込んでおけば良かった気がする。黄金の獣どのは困ったことに大喰らいなのだ。

 正確には、身の程知らずと言えるほどの機材群が馬鹿みたいな価格なのだ。

 なにせ、需要が冒険者ギルドにしかない一品物。つまり大半が特注品。そりゃ高いわけだ。

 ただそこにある。それだけでも冒険者ギルドとは金を食う存在なのであった。

 かつて全ての冒険者を支えたサポート体制の名残。それが今のギルドを苦しめていた。

「レイジ=サクマ。噂は聞き及んでいる。天竜王ヴェスパールを討ち倒した人型の聖具。この場合は英雄……に、なるんだろうか? 英道具? 剣以外には疎い私には分からないな」

「あ、それはボクも激しく悩んでいたことです。世の中では英雄譚とか言ってますけど、そもそも鞄ですから英具譚だろうと」

「なるほど! 英具か! ありがとう。長きに渡る悩みが解決したよ!」

 剣聖様……。そんなアホみたいな事で、ずっと悩んでいたんですか?

 背丈ならボルケディアスさん並。だけど、引き締まった、痩せマッチョ。あと毛がある!!

 それが剣聖さまだった。通訳を介して話していたときは、通訳さんが気を利かせてくれていたらしい。こうして目の前にするとかなりの天然さんだ。ナチュラルにボケている。

「一つ聞いても良いかな?」

「駄目です」

 泣きそうな顔で縋りつかないでくださいよ。ボクよりとっても大きいんですから。あと、愛弟子のアルエットが睨んでる。怖い。後が怖いのです!!

「そういう時はですね、良いかどうか聞かずに尋ね、答えたくなければ構わないと後につけるべきなのです。聞いても良いと答えてしまったら、その後が大変でしょう?」

「なるほど! 確かにその通りだ! まず聞いてしまえば良かったんだね! それじゃあ」

「おっと礼拝の時間だ、今からボクは沈黙の行に入らなければなりません。それは一年にも及ぶ長く苦しい苦行。誰かの質問に答えてはいけない、宗教儀式です」

「そんなー」

 ですから、アルエットが怖いのですよー。抱きつかないでくださいー。

「なぜ、天竜王ヴェスパールに止めを刺さなかったんだい? 答えないなら、斬る」

 あら、アルエットさんの師匠です。暴力に任せるやり方しか出来ないのですか?

 まぁ、一番手っ取り早いですよねー。報復の恐れさえなければですが。

「止めを刺す気が無かったからですが? ボクはこの国に無理やりつれて来られただけで、国民でもなければ人ですらない。なぜ、この国のためにこの手を汚す必要が? あのトビトカゲ、賞金が掛かってないじゃないですか」

「――――相手は魔王だよ? 討てる時に討つべきだろう?」

「なら、勇者さま御一行も斬らなきゃ不公平でしょう? 剣聖様」

 勇者、それは人の形をした魔王。

 聖魔さまと合わせてようやく魔王一人前弱な剣聖様には解っていたことなんだろう。

 さっさと闘気もしまわれて……しまってください! アルエットさん!! お願いします。

「もう一つ」

「駄目です」

 だ~か~ら~、そうやって泣きそうな顔で縋りつかないでください。

 アナタ有名人、わたし無名人。妙な噂が立ったらどうするんですか!?

「勇者様達を何処へ? 答えなければ、斬る」

「答えませんから戦争ですね。ちょうど王様も居る、お歴々も居る。残念な事にこの国はお終いです。さぁ、どうぞ斬ってください。どうぞ、魔王を倒した力を見せてあげますよ?」

 ハッタリではない。今まで溜め込んだ全ての質量が俺という世界の崩壊とともに現界するはずだ。奥の院は大丈夫だろうけど……ティータ先生は無事かな? 四桁のアルミラージュが街を飛び回るけど……まぁ、魔物の生態に詳しい元ギルドマスターと現ギルドマスター、何としてでも生き残ってくれる事だろう。

「勇者様達を何処へ? 答えなければ、斬られたくないところを斬る」

「ひ、卑怯な!! 後でアルエットにおしえよーっと。勇者様ですか? この世界の何処かに行きましたよ? この世界を守りに呼ばれたのであって、この国を守りに来たわけじゃないんですから。もしかして、勇者はこの国専用だとか思ってました? 随分と不遜ですねー!!」

 東の国を勧めた。西の国も勧めた。あるいはその先が良いかもしれないとも勧めた。

 だって、何処ででも勇者は出来るんですから。

 本当に世界の何処かなんだよね。俺自身が知らない。もしかしたらこの国かもね?

「そうか……。キミは本当にこの国がどうなっても構わないんだね?」

「じゃあボクが一刀両断してあげます。剣聖様に聖魔様。アナタ達が弱いせいですよ。全部」

 ハンジロウが呼ばれたのも、リュウコが呼ばれたのも、ハヤコが呼ばれたのも、ついでに俺が呼ばれたのも、全部。剣聖と聖魔、お前等二人が弱かったからでしょ? ふざけるなよ?

 泣きそうな、じゃなくてホントに泣くなっ!! 俺の服をハンカチ代わりにするな!! 鼻水は止めて!! アルエット? アルエットは!? なぜ、こう言う時だけ素知らぬ顔をするんだ!! 剣聖の愛弟子、ちょっとこっちに来い!! 面倒を見ろ、お前の師匠だぞ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ