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第二話 世界知らずの勇者様(1)

「キャーーーーーーーー!! 勇者様ーーーーーーーー!! ハンジロウ様ーーーーー!!」

「キャーーーーーーーー!! 勇者様ーーーーーーーー!! ハンジロウ様ーーーーー!!」

 勇者様の戦勝パレード。聖戦軍の帰還のパレード。

 上の声は、俺に肩車されたティータちゃん。ミーハーです。

 下の声は俺。ミーハーです。胸キュン王子様なので、仕方が無いのですよー!!

 魔砲の姫君リュウコさまと舞剣の姫君ハヤコさまに別れて男共は喧嘩をしていますが、ハンジロウ様こそ真の勇者なるぞ!! そして俺は勇者の鞄。アレ? ボクってもう、身も心もハンジロウ様の物なの? うそっ!? やだっ!! 嬉しい!!


 国内で修行すること二ヶ月。国の外周を回ること半年。合わせて八ヶ月の反攻作戦だった。

 正確には五ヶ月。国を一つの円とすると南方百二十度ほどは海洋に面している。そこでいがみ合う二人の魔王。水竜王シヴィライア。海洋王ディスマイア。そこに居るだけでお魚さんが死んじゃうの。砂浜には打ち揚げられた小魚たち。

 異世界の海はこんなにも広いというのに、どうしてこの地でいがみ合うのか。

 漁師さんと、海洋貿易商が非常に困惑しておりました。とりあえずこの二人を退ければ百二十度は解放できます。お得な魔王セット。

 そこで勇者様に姫様二人、この国にて最強の剣聖と聖魔の五人パーティ。あと、お供を連れて討伐に向かった訳ですが。負けました。完膚なきまでに敗北しました。

 理由は足手まといの聖戦軍。次に、海は相手のホームグラウンドであったこと。乗っていた船が最初の一合目で全て転覆したこと。他多数。そもそも、戦いと呼べたのか疑問です。

 勇者様は右足が沈む前に左足を進める奇跡の走法で海を走ったそうですが、さすがに海上から海中の敵と戦うのは分が悪かったようです。結果は痛み分け。相手のフィールドで痛み分けられただけでも凄まじい戦果です。

 それから、戦いの余波で発生した津波の被害のほど著しく。なので、まず初戦の敗北を無かった事に。この隠蔽工作に一ヶ月かかりました。聖戦軍に敗北は許されないのです!!


 人は海を生きるものではなく、地上を歩く生き物だと思い出してから四ヶ月間。残る二百四十度の陸地の包囲を東から順に反時計回りに解放していきました。十二時の方角に至って、魔王軍が突然の全軍撤退。しかし、領内の糧食類は全て燃やされた後。

 このままでは、領民たちが全て飢え死にしてしまいます。

 解放を謳う聖戦軍。飢えて死ねとも言えなかった訳ですね。

 その後始末に一月掛かったわけですが、勝利は勝利なのですよ!!


 国土が全て解放されたという慶事。凱旋門が造られて戦勝パレードが王都で開かれました。

 そしてミーハーな俺はキャーキャー。ミーハーなティータ先生は俺の肩車でキャーキャー。

 暗い話の多い時代ですから。こんな時くらい騒いでも良いじゃないですか?

 でも、ティータ先生? 「ハンジロウ様、愛してるー!!」は、許しませんよ? ボクの心の復讐ノートに書いておきますね。ぬるぬるさんを百ほどで良いですか?

「キャーーーーーーーー!! ハンジロウさまーーーーーー!! 愛してるーーーーー!!」

 ボクが口にする分には構わぬのです。だって、ボクは勇者様の鞄ですしー?


 ……。

 ……。

 ……。

 魔王の一角、戦戯王エグザクト。

 何ら前触れも無く突如、陸路による全方位からの飽和攻撃を仕掛け、国を襲った魔王の軍勢。

 国境線沿いの領主の全てから一度に応援要請を受け、身動きの取れなくなった王国の軍。その中でいち早く動いたのはベルガドット将軍だった。その作戦は最も敵の数の多い戦場へ部隊を一極集中する一撃必殺の戦略。相手の王しか狙わぬ、その突貫攻撃。

 他の全ての都市を見捨て、旧知を頼り、自らの私財を投げ打って、あらゆる傭兵団への支援を頼み、集めに集めた大軍を持って寡兵を叩く。王道中の王道にして奇策中の奇策に出た。

 その場のみ数において十倍を超えた人間の軍勢が勝利し、魔王エグザクトを退かせたのだ。

 十倍という物量にベルガドット将軍を加えて、ようやく勝ち取れた初戦の一勝だった。

 十分の一の戦力、数が同数ではベルガドット将軍でも勝てはしないだろう。

 戦略において飽和攻撃された時点で実は大敗していたのだ。だが、とある戦略において勝っていた。十倍の数の一極集中がまさしくそれである。

 魔王は恐ろしい。ゆえに魔物達は従う。だが、人の波もまた恐ろしいものだ。

 巧緻に組み立てられた戦術は、恐怖の板ばさみという巨大な戦略によって動作しなかった。

 魔物も恐怖を知る生き物。恐怖を飽和させた。これが勝因で敗因。恐怖による飽和攻撃によって、もぎ取った初戦の勝利であった。本人がそう語るのだからそうなのだろう。

 さすがはウェルキンゲトリクスさん、魔王の頭脳戦を相手に心理戦で勝るとは流石です。

 十倍の数の兵を淀みなく動かせた、真っ黒オジサンの指揮統率能力もあってですけどねー。

 命令違反には首をザシュったり、色々とかなり強引なやり口で突き進んだそうです。


 魔王を討つまでには至らなかったが、一度は魔王軍を退けたベルガドット将軍は、常勝と呼ばれる救国の英雄になった。

 そしてそれが、いけなかった。この合鴨ファンタジアでは出る杭は縛られるものらしい。

 ベルガドット将軍は王の守りという最高に名誉である職に任じられ、王都近隣にその所在を封じられた。


 将軍に無能は居ない。凡庸も居ない。有能なる者だけが将軍の席に座っている。

 それぞれの将軍達が軍を率いて、他の街の開放を目指した。次の戦功は己が手にこそ。

 だがしかし、その戦いは全戦全敗に終わった。数が同数程度ではどうにもならなかった。

 優秀の遥か上、チェスのグランドマスターに挑むようなものだ。続く連敗に大敗。

 海運の滞りにより疲弊する国。空には爬虫類飛び、海では二人の魔王がいがみ合い。

 戦戯王の軍勢に包囲され、ようやくになって勇者様が召喚されたのだ。ついでに俺も。

 あるいは、エグザクトの策謀により召喚させられたのかもしれない。

 それから、ようやく戦局は動き出した。勇者に二人の姫、剣聖に聖魔。駒として、それだけのハンディキャップを与えて、ようやく戦いらしい戦いになったのだ。

 纏まらなかった将軍達も、勇者の下では纏まりを見せた。己が勲功を焦ることなく、為すべき事をなし、為さぬべきことは為さない。他の将軍が崩壊の兆しを見せれば支え、そして助け合った。多頭の軍がようやく一つの軍として纏まりを迎えた。

『中途リアルという奴じゃな。エグザクトらしいやり方じゃ。実践を通して、聖戦軍に一つの纏まりを与えたのじゃよ。……己が相手にするに相応しいだけの敵へと育てるためにの?』

 メイメイさまは何処まで何を知っているのか。だけど、その言葉は本当のように感じた。遊び相手が居ない、ならば遊び相手を造ろう。魔王らしい考え方だ。実に魔王らしい考え方だ。


 チュートリアルの模擬訓練ではない。

 中途リアル。実践混じりの人死に混じりの鍛錬だ。次に来るのはリアル戦争なんだろう。

 戦場においての勇者様達は、精々が無敵のクィーン程度の存在だ。戦場を縦横無尽に駆け巡り、戦う。だが、戦いの場に出てしまうが故、常に戦局を見失う。戦場の地平に立ってしまっては戦局が見えないのだ。それが見えるのは俯瞰位置。空高く。グランドマスターの視点だ。

 将棋の駒の王になったとしても、見えるのは歩の尻だけだろう?

 孤軍奮闘。文字通り、ただそれだけの存在でしか無かったようだ。

 勇者様は命令できても、勇者様に命令できる者が不在だったのだ。

 それが戦場での非効率に働いた。魔砲の姫も、何処を撃てば良いのやら。民間人が入り混じる市街戦では敵と味方の判断がつかない。舞剣の姫も、避難民の波に閉じ込められては動けない。

 指揮官不在という状況。数の暴力しか持たない聖戦軍。

 はてさて、次から始まる実際の戦争に勝てるんだろうか?

 でも、とりあえず今日のところはキャーキャーしておこう。

 あと、ティータ先生を虐めるんだ。ぬるぬるさん、いらっしゃーい。


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