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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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幻影の兎(4)

「おにーさん、落ち着きましたかー?」

「はい、ボクさまは正常でございますよ?」

「それは良かったですー。では、説明を続けますねー。プレートの左の数値はギルドでお金に換えられます。どんどん、つよーい魔物を倒してきてくださいねー。ゴーレムさんが自動で計算してくれますからー。それから、魔物の買取も冒険者ギルドでは受け付けてますからー、どんどん持ち込んでくださいねー?」

「はい……」

「では、良い冒険をー」

「はい? それだけ? 冒険者たるもの~とか、訓示や説明は?」

「これだけですよー? 何か他にも聞きたい事がー? 冒険者のお仕事は単純明快、美味しい魔物を狩ってきて冒険者ギルドに持ち込む事ですよー?」

 ええっ!? 冒険者ギルドにつきもののアレとかコレとか聞きたいんですが……。


「えーっと、冒険者として頑張ると、このプレートがABCDとか銅とか銀とか金とかに変わったりはしないのでしょうか?」

「あー、それはー、五百年ほど前に流行したシステムですねー。クラス分けをして人の名声欲を煽って無茶な冒険に走らせるギルドの罠ですよー。上の人が居るとー、自分も目指したくなるものですからねー」

「え? 罠? 罠ってどういうこと?」

「そのまま罠ですよー? プレートの色がどうとか、受けられるサービスがどうとか、ギルド側からすれば笑い話ですよー? でも、このシステムにも限界があったんですよねー。最高ランク、一番の人が働かなくなっちゃうんですよー。お金もあるし、名声もあるし、そんな状況では命を懸ける意味が無いじゃないですかー。最高ランクのサービスだけを受けて事実上の引退ですよー。もっと上のランクを作っても良かったんでしょうけど、そうするとランク自身の有り難味がなくなりますからねー。なので、今ではただ累積功績値を記録するだけになったのですよー」


 なんだろう、急に俺の冒険者熱がドンドンと冷めていくような?

 現実に、幻想が、侵食されていくような? あ、駄目、その扉は開いちゃ駄目ぇ!!


「えっと、魔物の大群と戦ったり、ダンジョンに入ったり、そんな冒険野郎なお仕事は無いのですかっ!?」

「あーっ!! もしかしてー、おにーさんは昔話の冒険物語に憧れてた口の人ですかー?」

「はい、その大口野郎の人です」

「そーですねー。魔物退治は基本的に兵士さんのお仕事です。税金は何のためにあるんですかー? 手が足りない時は傭兵さんのお仕事になりますねー。冒険者なんて、五人や十人が関の山じゃないですかー。そんな数で魔物の大群と戦うなんて自殺行為ですよー? 大軍を持って寡兵を叩く。戦場の基本の基本を知りませんかー?」

「……知っています。大変に存じ上げております」

 十対百で蹂躙されるより、百対十で蹂躙した方が安全だものね。

 至極、まっとうな御意見のほど有難う御座います。ティータ先生。


「だからと言って、冒険者のパーティを集めて数を揃えても駄目だったんですよねー」

「え? 何故ですか?」

「冒険者は、大人数に命令する訓練も、命令に従い動く訓練もしてませんからねー。同じ数の冒険者と傭兵さんが戦えば、傭兵さんの圧勝です。つまり、多くの魔物を相手にする時は傭兵さんの出番なんですねー。冒険者は、そのフットワークの軽さを活かして、傭兵さんが討ち漏らした少数の魔物を掃除する係なのですよー。解りましたかー?」

 わかりもうした!! 仔細、解り申上げもうしましたゆえ!!


「あの……ダ、ダンジョンの方は?」

「あ、それは趣味です。ダンジョンの探索は冒険者じゃなくてもできるじゃないですかー? それに、誰かに依頼されたわけではないので、もう完全に趣味ですよねー?」

「はい、ダンジョン探索は、ただの趣味です。もう、完全な趣味です」

 ティータ先生が可哀想な子を見詰める目で、優しく優しく諭してくれました。

「冒険者のお仕事はー、農家の人やー、漁師の人を困らせる、でも兵隊さや傭兵さんを動かすのはちょっと大事だなー。なーんて時に、ちょっとした魔物退治をすることが専門なんですよー。あとはー、他のギルドの手が足りない時の日雇い人足の斡旋などもしてますよー。夢から覚めましたかー?」

「はい、とっても夢が冷めました。とっても冒険者って現実なんですねー」

「はい、現実へようこそー!!」

 くすん。ファンタジー道の第二の試練。幻想を侵食する現実の冷たさに、ボクは打ちのめされそうです。でも……まだ負けないんだもん!!


 ……。

 ……。

 ……。

「おい、オッサン!! アンタのせいで死にかけたじゃねぇか!! それから装備の着付けを頼む!!」

 武器屋のオッサンを問い詰める。その返答によっては≪幻獣王ノ死角突撃砲ミラージュキャノン≫の出番も有り得たことだろう。

「なんでい坊主! 藪から棒に人に喧嘩売ってきやがって!! 何があったってんだ!? あぁ、紐の結び方が出鱈目だな、こりゃ」

 皮の鎧の要所要所が締め付けられる度に、なんだか鎧が軽くなっていく。

 メガネのフィッティングみたいなものなのだろうか? 自分でこれをするのは難しいなぁ。

「オッサンは言ったよな!! ツノ付きウサギで有名な場所は何処かって質問したらヘルムート草原だって!!」

「おう、言ったぞ!! アルミラージュで有名な場所と言えばヘルムート草原に決まってるだろ?」

「俺が知りたかったのは、ホーンドラビットの生息地なんだよ!!」

 ピタリと、おっさんさまの手が止まった。

 はて、わたくしは何か道理のとおらないことでも申し上げましたのでしょうか?

「……坊主? ホーンドラビットは何処にでも居るし、有名な場所なんてねぇぞ? ただのウサギだしな? なに訳のわからねぇことを言ってるんだ?」

 何処にでも生きていらっしゃる。だからこそ、有名な場所がないホーンドラビットさん。

 ヘルムート草原にしかいらっしゃない。だから、有名な場所があるアルミラージュさん。

 ツノ付きのウサギで有名な場所は何処でしょう? その答えは、ヘルムート草原ですよ。

「なんとっ!? そんな言葉のすれ違い一つで俺は死にかけたのか……」

「お~い坊主? まさかとは思うが……ヘルムート草原に行ったわけじゃねぇよな? あんな危険な草原、国の精鋭部隊でさえ近づかねぇ場所だぞ?」

「ははは、まさかぁ。このボクが、そんな初見殺しに引っ掛かるわけないじゃないですかー。嫌だなぁ、あはははははははは……」

 無言のまま、おっさんの手により着付けは完了。防御力が上がった上がった。さぁ、帰ろう。

 もうやだ! 恥ずかしくって、あのお店に行けないよ!! びええええええええええん!!


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