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ダンジョンや、あぁダンジョンや、ダンジョンや(6)

 メトセラのアリアドネさん。本名内緒。年齢不詳。バストサイズは雷撃。酷い!!

 長命種とも呼ばれるが、寿命で死んだ者が存在しないため、事実上不老の存在。

 百億年ほどあとに天寿がくるのかもしれない、そんな種族の最後の世代であった。

 だが、滅んだ。この世界に異物が混入を始めて新しいメトセラが誕生しなくなった。仲間はまだまだ多く残っては居るものの、擦り減りはすれど増えはしない。だから、滅びが定められている。

 滅んだも同じ事として、歴史の表舞台から消えた種族であった。

 ゴブリンは昔、森の子と呼ばれる種族であった。代を重ねるごとに肌は緑に、背は小さく、顔は醜いものに変化していった。メトセラは子供が生まれなくなった。他の太古の種族も似たり寄ったり、さまざまな変化を受けてしまった。

 世界が異物を受け入れた。ゆえに世界が濁り、純粋だった者達が変化を求められたのだ。

 その末こそが、ゴブリン。エルフ。ドワーフ。タイタン。諸々の種族たちなのである。

 世界が受け入れた異物、その名は≪死≫。

 永遠に生きて永遠に増えるものがあれば、行きつく先は破滅。それは破滅よりも性質が悪いものかもしれない。こうして停滞に満ちていた世界が前進を始めた。

 このようにして、残酷でありながらも新たな調和が世界にもたらされたのだ。

 今の世界で子供が出来ないのは、今の世界に受け入れられていないからなのだと白雪姫が悲しく語った。老いて死なぬ生き物は要らないと、世界が定めた。

 だから、もう新しいメトセラは生まれてこないのだと……。


「残酷な話ですね。なら、最初から何も生まなければ良かったのに」

「レイジさま。私は生まれてこなければ良かったとは思っておりませんよ? 残酷な話ですけれど、それでも小さな幸せはとても沢山残りました。カシウスもその一人なのです」

「――――すみません。大口が過ぎました」

 ずいぶんと失礼なことを口にしてしまった。反省。

「アリアドネさんとカシウスくん。二人は具体的にどういう関係なのか、聞いてもよろしいでしょうか? メトセラと人を何が繋いでいるのか、それを教えていただけますか?」

 俺の問いかけにアリアドネさんはコクリと頷き、朗々と語り始めた。

「彼の祖母と私は友でありました。ですが、国を一つ挟んだ西の国。そこに訪れた不死の魔王。人間の大神官が口を滑らせてしまったのです。魔王は神が与えし試練だと。その言葉を聴いた瞬間に私は蒼ざめました。この国が終わってしまうことを想像して。それはすぐさま現実に」

「魔王は、神に使役される存在ではない。そして、皆、気位が高いですから」

「はい、魔王は神の眷属ではありません。神の下僕扱いされた魔王達は、その不遜に対し抗議を示しました。ありとあらゆる神殿と呼ばれる場所を破壊、蹂躙して周り、その余波だけでも幾つもの国が滅びました。……本来はそれほど害意ある存在ではない魔王達なのですが、こと、気位においては王として、その種の長として、やはり譲れぬものがあるのです」

 天竜王ヴェスパール。その上があるなら天竜神だ。……あ、俺って天竜神なの? 天人神?

 自らの上を勝手に決められては、自らの下にある者に示しがつかない。己の下にあるものにまで、その神の支配権とやらは及ぶのだから。それは是正しなければならないんだ。

 竜は神の下僕に成り下がったつもりなどない。下僕に成り下がったのは人間だけだろう。

「心の優しき魔王は、ただ神殿を滅ぼすだけに留めました。無関心な魔王は国ごと滅ぼしました。遊び心のある魔王は不死者の軍勢を作り、国民同士を戦わせ合いました。神官達にはその有り様を見届けさせ、自分達の言葉一つが何を呼んだのかを知らしめ、ただ神に祈る事だけを許したのです。あなたの下僕であるこの魔王をどうか退けくださいと……。もちろん、その願いは叶いませんでした。今でも祈る事しか許されぬ生活を送っている筈です」

 あ~、力を無くしたブラック保険屋さんじゃなぁ。

 しかも五割とは中間搾取が激しすぎます。冒険者ギルドですら……あ、ホワイト神様だわ。

 冒険者って八割も儲けをピンハネされてるんでした。そりゃ、問題児ばっかり集るよ。


「カシウスの祖母に赤子の彼を託されました。わたしは長く生きていますから、それだけ子守りも上手なんですよ?」

 ちょっとしたジョークに笑顔も素敵だ。

 ここで、年の功ですねと返してはいけない。自分で認める分には良いけれど、他人に指差されるのは許せないものらしい。巫女巫女たちがそう言ってた。

「カシウスくんは結局、何を夢見ているんですか?」

「まずは冒険者として経験を重ね、傭兵として戦略を学び、不死王の打倒を目指しています」

 ふ、不死王さんの、打倒ですか?

「――――えーっと、それは絶対に無理です」

「解っています。カシウスにその器はありません。私の庇護の下で戦うことを当たり前と思っている。本当の死地すら知らない。レベルはあっても冒険者としては下の下です。私と言う力を背景にしてダンジョン討伐の依頼を受けている、その時点で大間違いなのです。そんな彼に、どうしてあの不死王を倒せるものでしょうか?」

 セーブポイントを当てにした攻略法。そんなチートに頼っている時点で冒険者ではない。挑戦を、冒険をしていない。冒険してない冒険者。こいつは演劇の題目にもならないな。

 メイメイさま辺りなら……寝るな。そして生涯、そのフスマを開けてくれそうに無い。

 ただまぁ、ちょっと言いづらいけど、言わなきゃ駄目なんだろうなぁ……。

「あのですね。その不死王さんをですね。今後百年ほどは復活できないように、ちょっと世界中に灰をばら撒いてしまったので、カシウスくんの寿命の中では不死王打倒の夢は叶わないと思います。揉め事の原因は、ちょっとした男同士の沽券に関わる悲しい問題でした」

 清き体の少年。清き体の少女は許されるのに……なぜ許されぬ!?

「それは本当なのですか!?」

「それが本当なのですよ。困った事にこれがまた。英雄譚にされると困るので内緒ですよ? ちなみに西の国の現状ですが……酷いものでした。これ以上は無い、暴力の渦巻く世界です」

「――――どのように? やはり、死者の国に成り果ててしまったのでしょうか?」

 流石に気になったようだ。

 アリアドネさんは生唾をコクリと、緊張した面持ちで俺の言葉に耳を傾けている。


「野生の王国です」

「――――はい?」

「ですから、野生の王国です。知性の無いアンデットが縄張りに入ってくれば魔物達がペシペシと叩き潰します。そして知性も無く、統制も連携もないアンデットは数が頼りの弱卒です。もう、魔物の餌にもならないのに臭いだけは酷いので、鼻が良い魔物達への嫌われっぷりが激しいですね。人、魔物、不死者。三つ巴の戦いの勝利者は魔物さん達でした。人間は魔物さんの壁に守られて、隠れながらもそれなりに平和に暮らしてるみたいですよ?」

 人がズッコケル瞬間を始めてみた。正確にはメトセラさんだけども。

 身体に力が入らないのだろう。ナチュラルにしだれかかられて、ドキドキします。長旅の後なのに良い匂い。カチカチします。抑えろ、俺。我慢だ、俺。悟られるな、俺。


「不死王が封印され、国内には魔物達がのさばり、城はどうなりましたか?」

「不死王の家臣が棲んでいるみたいですね。とりあえず、城さえ取り戻せば良いんじゃないですかー? 百年後か千年後に不死王が戻ってくるかも知れませんけど。――――あ、今なら城を取り戻して俺が王様になれる大チャンス!? 痛い、痛いです!! 抓らないでください」

「あ、すみません。つい、カシウスを相手にした気になって。頬、痛みましたか?」

 あぁ、優しく頬を撫でてくれる。

 ホッペのツネツネが癒やされます。これは魔法? 医療魔法?

「貴女の温もりで、私の心の痛みが癒やされました。アリアドネは優しい女性なのですね」

「……十八点。まず自分の頬を赤くすることから止めましょうね?」

 レイジ頑張ったのに、酷いっ!!

「だって、恥ずかしいんですよこれ! なんでこんなキザな言葉じゃなきゃ駄目なの!?」

「キザであれば良い。そう思っている時点で駄目なのです。求めている言葉は女性によって違うのですから、変幻自在に融通無碍な対応を、男性は迫られるものなのですよ」

 それは禅だ。禅の新たな境地だ。

 考えろ、考えろ――――コペルニクス的回転思考だ!!


「アリアドネさんが褒められて嬉しい所ってどこですか?」

「褒められて嬉しい? 私は自分の髪の色が好きです。この白銀の髪が好きですから、褒められたなら悪い気はしませんね」

「アリアドネ、キミの髪が美しく輝いてるよ。……それで、次は何ですか? 何処ですか?」

「え? えっと……ひ、瞳。白に近い髪に銀の瞳ですから、目立たない色なのですが、でも私はその組み合わせが気に入って……」

「アリアドネの瞳は綺麗だ。髪の色にも良く似合ってる。白銀の髪に銀の瞳。まるで月の女神にしか見えないよ。……それでー? つぎは? 次は何処ですかー?」

「あ、あの、えっと。手をそっと優しく包まれると……今見たいに心がホッとして……。それから、キュッと抱きしめられて……でも、もう少しだけ強く……。あっ……。うんっ……そんな風に……。あとは……その……。初めてなので、優しくしてください……」

 力なく、野に身体を預けたアリアドネ。そして彼女に覆いかぶさる俺の姿。

 薄いフードではあったが、彼女の乳房を隠していたそれが、地面にひかれて形を作る。手にちょうど収まりながらも、僅かにこぼれる大きさ。柔らかな乳房がツンと生意気を示していた。その彼女の意外な表情に、俺は喜びに満ちた驚きを隠せなかった。

 見詰め合う瞳と瞳。だが、未だ獣は動かない。清らかな乙女という獲物を前にしながら、野に押し倒しながら、それでも俺は動かなかった。彼女がそのことに気付いたのはしばらくしてから。まず、始まりは唇を重ね合わせることからだ。瞳を開けたままでは少しおかしい。

 コクリと喉が鳴った。これから始まることへの期待と不安。ないまぜになった感情を飲み干す。瞳を閉じる。たったそれだけの事が、とても大きなことに感じられたのだろう。閉じてしまえばすべてのことが始まってしまうのだ。終わるまで、止まらない……。

 男の情欲のままに流されるのか、それとも優しく花を開かされるのか、まず想像が先を走り、肌にジンワリとした汗がにじんだ。ほのかに甘い香気が立ち上る。それは雄をますます昂ぶらせるだけの、女の匂いだ。確かな女の匂いだ。

 その場では、瞳を閉じる事と、男を受け入れる事が同じ意味を示していた。

 清らかなる身体に、異質なるものを受け入れる。その合図を目の前の獣は紳士の仮面を被ったままに待っているのだ。彼女はそれに気付き、理解して、やがて銀の瞳を瞼が覆い隠した。

 貴方を受け入れます。そう彼女の閉じた瞳は告げていた。

 そして、紳士の仮面を脱ぎ捨てた、獣による暴虐の宴が始まる――――。

「わかりましたー!! これが、アリアドネさんの乙女の夢なのですねー!!」

 ガバッと起き上がって勝利のポーズ!! 勝った!! 勝ちましたよっ!! 先生!!


 ……。

 ……。

 ……。

「0点!! 0点です!! レイジさまは乙女の夢を何だと思っているのですかっ!!」

 飛び交う雷撃を、ミラージュステップで避ける。

 ははは、精神的な乱れが魔法にも出ておるわ!! 未熟未熟っ!! 俺がっ!!

 痛いっ!! カミナリは速すぎます!! 避けきれません!! かなり痛いのですっ!!


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