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ダンジョンや、あぁダンジョンや、ダンジョンや(2)

 かつて、神を讃えるための聖域や大神殿と呼べる場所が世界各地には存在していた。

 現存しているものも多々ある。ただし建物だけがそのままに、という具合になるのだが。

 宗教というのは面白いもので、世界中、そこらの神官たちが口を揃えてこう述べたのだ。

「魔王の襲来は神が与えたもうた試練です!! 我々はこの試練に打ち勝つことで、更なる高みへと昇る事が出来ることでしょう!! さぁ、勇気を奮い、立ち上がるのです!!」

 随分と無責任なポジティブシンキング。兵士を鼓舞するには良いお言葉だが、聞く相手が異なれば感想も変わってくるものだ。

 これを耳にした魔王様達が、連盟でお返事を為されました。

 以下、魔王様達からの返答はこのような意訳になります。

「神から与えられた試練? いつ、我がお前達の口にする神の手先になったのだ?」

 それは、彼等の誇りに真っ向から泥を塗るという自殺行為そのものでしたとさ。


 神が与えた試練。つまり魔王は神の手先なのだと口を滑らせてしまったのだ。

 一番簡単な例はただの穴。≪終焉の劫炎≫、その一吹きで大地にポッカリと穴が空いた。

 複雑な例は西の国。不死王が神官達だけを残し、他の全てを生ける屍に変えてしまった。

 増える亡者と減る生者、今でも終わりある戦いが続いている死都であるらしい……。


 それはさておき奥の院。

 メイメイさまを膝の上に抱っこしての質問タイム。今日もメイメイさまは可愛いですなぁ。

「メイメイさま? 神って居るんですか? 神器があるのに神が不在ってのも何だかなぁと」

「うむ? お主が言っておるのは神を自称する者のことかの? 真なる神のことかの?」

「え? 自称神って、かなり頭の危険な人のことじゃないんですか?」

 俺の返答に、メイメイさまは「くふふ、違いない」と子狐顔をして笑った。

「魂のみとなりて、人々の信仰を糧に己の力を蓄えんとしておる者。神を自称僭称する者ならばおるぞ? 祈りも一種の魔法じゃからな? まぁ、巨大な亡霊のようなものじゃな。今頃は、信仰不足で腹を空かせてのた打ち回っておるやもしれんがの? 神器とは使用者の魂を吸い上げ力に変えるだけの物騒な玩具のことじゃ。さらに力の半分ほどは亡霊に盗まれるがの?」

 神聖魔法。神に祈り、その奇跡を地上に顕現する魔法が弱まってる原因はこれだったのか。

 祈りで吸い上げた魔力を、ささやかな形にして返す。でも、無い袖は振れない。道理だな。

 第三惑星で一番似た存在は……保険屋か? 積み立てて、万が一の時は支払います。でも、大半は保険屋の懐に入れますね? そうでなければ企業が成り立たないんだもの。

 つまり、自称する神様って、保険屋さんのことだったのか。

 還元率と勧誘方法を考えると、かなりブラックな保険屋さんだけどね?

 死後に天国で返します。ただし、天国の存在は不明です!! 地獄の存在も不明です!!


「真なる神様の方も存在するんですか?」

「おるし、おらぬ。人に寄らず、魔に寄らず、他の何ものにも寄らず……在って無きものじゃ。祈れども応えず、憎めども応えず。その辺の石の方がまだしっかりとしておるくらいじゃな」

 不干渉。完全なる不干渉。ならそれは在って無きが如しになるのか……。

 真なるニュートリノな神さま。これはもう観測するだけでも一苦労。信仰にも意味が無い。


「ふむ、急に神のことなど持ち出して、お主らしくなく何か考えることでもあったのかの?」

「ボクらしくないって……。魔王が居て、神が居て、神に選ばれた勇者が居るのなら、勇者を挟まないで神が直接手を下せば良いのに、と思いまして。その方が手っ取り早いでしょう?」

 勇者に魔王を倒させる力があるのなら、自分でハエ叩きを持ってきて叩けよ。

 鈍らをするんじゃない。そう思ってたのだけど、どうやら微妙に違うらしい。

「勇者などおらぬぞ? ワシ等が呼び出してしもうたのは、人間の形をした魔王じゃ。ただの強者じゃ。せっかく力を眠らせ、安寧のなか心癒やされておったであろうに……外道どもが」

 それはメイメイさまらしくない吐き捨てるような口振りだった。止めきれ無かった自分に対し、相当に悔やんでいるのだろう。メイメイさまはそういう御方なんだ。俺なんかにも土下座するほどに、気高く清い。

 それでも俺の前で初めて見せた暗い感情。これは……一歩前進になるのかな?

 自分の弱さを少しは見せても良い。それくらいには認めて貰えたのだろうか? 撫で撫で。


「……それじゃっ!!」

「なにがですかっ!?」

「今の手がモフモフじゃ!!」

「はっ!? ……無我のうちに伸びたこの手、この手こそが……モフモフ!?」

 では、再開を……撫で撫で。あぁ、メイメイさまは可愛いなぁ。可愛いなぁ。

 このスベスベの金の髪。ちょっとだけ先の白い狐耳。御餅のような柔らかなホッペ。もう、これは喉に詰まらせたい!! 喉の奥に詰まらせてもレイジは構わないよ!!

 レイジ、メイメイさまをハムハムしたい!!

「駄目じゃの……。すでに雑念が入りおったわ。お主には、まだまだ遠いようじゃな?」

「メイメイさまが可愛すぎるからいけないんですよー。レイジのせいではありませんー」

 このピョコンとした狐耳、そして金色の瞳のあどけない幼女姿。

 これを撫で回しながら幸せになるなというのは、すでに一種の拷問ですよ!?

「うむ、わしの愛らしさは、もはや罪の領域じゃ。ゆえに罰を与えねばな? ほれ、モフモフではないお主の手で、散々にワシを苦しめるのじゃ。それがワシに与えられる罰なのじゃ~」

「はーい。メイメイさまは可愛いなぁ。本当に可愛いなぁ。えへへ~、な~でな~で」

「はううう、苦しい……苦しいのじゃぁぁぁ……。撫でるのを止めよ~、止めてたもれ~」

 こんな小芝居にも付き合ってくれるメイメイさまは、とっても優しい御方でした。


 ……。

 ……。

 ……。

 気になりついで、西方の国の現状を確認にきた。生ける屍っぽい人達が、生きている人達に襲い掛かる!! が、それとは関係なく野生の魔物たちにペシペシされていました。

 あぁ、人間から知性や連携を奪えば、もう他の魔物さんの敵では無いのですね。

 縄張りに入ってきた喰えない腐った屍を大地に還す、魔物さん達はお強い方々ばかりです。

 あ、腐った肉を好む魔物さんは、それなりに喜んでるんですね。この腐肉な現状。

 なんだろう。もっとこう、人間と屍達の大戦争状態を予想していたのに、感じるものは大自然の摂理。弱肉強食。やっぱり自然さんは偉大なのだなぁ……。

 魔物さん達が、「臭い!! 死ね!! 潰れろ!!」と、気持ちは解りますけどね?


「空に生きる人があると思えば、未だ清き少年か……昼日中から手に掛けるも躊躇われるな」

 視界左右三百六十度に機影無し。仰角、俯角にも機影無し。

 ――――向こうもステルス機だと!? もしかして幽霊!? 初の幽霊さんなのっ!?

 ゴースト、ファントム、それは空に生きるものにとっての尊称だ!!

「そう驚くな。恐れるな。今は昼日中ゆえに灰となっているだけである。不死王たるものが太陽の下、吸血鬼の姿をとるわけにも行くまい? それは礼節を弁えぬ醜き振る舞いというものだ。夜の闇にあらば鬼として、昼の光にあらば灰として、それが美学というものであろう?」

「いや、灰に成りながら滅ばないというのも美学的にどうかと思いますが?」

 日光を克服した吸血鬼ならぬ、灰のまま活動する吸血鬼さんでしたか……。

 無茶が過ぎるぞ、それは!! 灰なら灰らしくしてなさい!!

 初ヴァンパイアがこれって……かなり残念。ヴァンパイアの王様なのに、かなり残念。

「まさしく醜い。そうではあるが……日の光ですら、もはや滅びれぬ身であるからな。不死王も過ぎれば不滅となる。ただ、不滅王と名乗るのも大言壮語にして我が大願の妨げ。今では滅びる術を探して彷徨う旅人よ。名はセディロード。清き少年よ、そなたの名を問うても?」

 ほとんど見えない。至極薄い、黒霞のようなものが周囲を漂っている。

 まさか、すでに肺の中にも侵入されたか? これは不味いな……。

「レイジ=サクマ。ただの根無し草の冒険者ですよ。今のところは、冒険をする理由を探して冒険をしているというところでしょうか? 複雑な心境です」

 肺の中を水で満たし、真空で排出して除去。

 おそらくは肺胞にかなりのダメージを受けるが、気を失わずにいけるか?

 相手は魔王、規格外の存在。灰の一粒でどうなることか……。見える敵よりも恐ろしい。

「ほう? お主があの天竜王ヴェスパールをコケにし尽くした清き少年か……。アレには昔、酷い眼にあわされてな。炎の息で散らされ、復活に千年の時を要したものだ。不死であれ不滅であれ、退屈と言うのはこれでなかなかに厄介でな? 千年の漂流の時間は新鮮でもあり……残る九百九十九年は、やはり退屈であったかな? ふふふふふ……」

「……やはり、魔王様でいらっしゃいますか?」

「我は不死王セディロード、だが恐れるな。昼日中から人を襲う吸血鬼をどう思う? まことに醜きものであろう? 昼間の我は、何も襲わぬよ。夜の我に出会ったならば……ふふふっ」

 ドラゴンの美学に続き、こんどは吸血鬼の美学と来ましたか。

 急速に気が抜けた。魔王が襲わないと口にしたなら襲わないのだろう。

 彼等には彼等の矜持があるんだ。守るべき一線に道徳。人とは違えど何かは持っている。

 ……もしかして、この魔王様もわりとお喋りが好きだったりしますか?


「昼は灰、夜は鬼。じゃあ黄昏時はどうなるんでしょうか?」

「それは永遠の命題であるな。我自身、灰であれば良いのか鬼であれば良いのか悩めるところなのだ。今は、灰から鬼へ、ゆるりと再生していくようにして務めているが……稀に時を忘れるな。我が居城は日の当たらぬところが極めて多いゆえ、日の出、日の入りがよく解らぬのだよ。我と違い、家臣達は灰より蘇らぬゆえ締め切りで湿気が篭もり、カビが生える。これで、なかなかに難儀しておるのだよ……」

 時計を導入しても、日の出と日の入りの時間は正確に午前六時と午後六時な訳ではない。

 光度計を使っても曇りの日などを考えると怪しい。気象庁を召喚しないと、日の出日の入りの時刻も解らないとは……。ちなみに、鶏は真夜中でも鳴くので当てにはならない。

「普通に人間を雇っちゃ駄目なんですか? 人間が駄目ならゴブリンあたりでも」

「ふむ、人間を我の居城にて生かしておくのは美学に反するが……それがゴブリンであれば。いやいや、不死者の居城に生きたものが居るということ自身が美しくないであろう?」

 この吸血鬼さん、ちょっと美意識過剰です。

「虫もですか? ちっちゃい羽虫なんかも? 虫だって生き物ですよー」

「それには家臣達が苦心しておるな。叩けども、叩けども、侵入してくると。最大の敵よ」

 吸血鬼のお城には吸血鬼なりの苦労があるもんだなぁ。

 バンパイアハンターよりも、小さな羽虫たちの方に腐心するとは大変だ。

「では、そろそろお暇させていただいても? ……是非とも夜が来る前に」

「うむ、次こそ夜に訪れるが良い。さすれば我は真なる姿を持って出迎えようぞ、清き少年」

「あの、先ほどから言われている清き少年とは?」

「俗な言葉で表すなら、童貞のことだが?」

 そうでした。なんか、そういうセンサー持ってる生き物でしたね!! 死んでるけど!!

「――――あはははは。せっかく魔王さまに自らの美学を持ってお出迎えていただけたのですから、ボクも冒険者としての美学を持って、魔王様をお送りしたいと思いますです!!」

「ふふっ、互いに異なる礼節を尽くしあうか……。これもまた、美しき事であるな……」

 それでは、お言葉に甘えまして……。

「お前に相応しい気流は決まった!! 其は星の巡りなり!! 回転する惑星の定め!! コリオリより生じる太陽に反するが如き風なりて!! ≪西ヨリ来タル清浄ナジェットストリームル惑星ノアターック≫!!」

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 トカゲマンのブレスには遠く及ばないだろうが、それなりの嫌がらせにはなったことだろう。

「とりあえず、無力な灰の姿で来てくれたのです。であればそれを撒き散らす事こそ礼節的に正しいことだと思います!! 冒険者のボク的にはそう思います!! 清らかさは関係ありません!!」

 頑張って頑張って。天高く、偏西風に届くまで魔王様の灰を送ってさしあげました!!

「さて、トカゲマンの炎の一撃と恒久的に吹くコリオリの風、どちらが偉大なのであろうな? 大自然は偉大なり!! ふはははははははははははははははははは!!」

 これで復活まで百年はかかるだろう。そして俺の寿命は百年無いだろう。勝ち逃げだ!!


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