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第一話 ダンジョンや、あぁダンジョンや、ダンジョンや(1)

「通称ダンジョン。正式名称はダンジョンワーム。危険度は大ですよー。まるで地下迷宮のような内部構造を持ち、本物の手作りダンジョンと間違えて入ってきた人間を捕食する危険なミミズさんです。その出入り口からは魔物を模したワームの分離体が出てきて、周囲の魔物や人間を襲って体の中に引き摺り込むのですよー。そして成長するごとにながーくなって、やがてUの字になります。それから真ん中で二つに切れて増殖する、とても不思議なミミズさんなのですよー。その弱点はですねー、一番下になる、えーっと名前は……」

 ティータ先生が首を傾げてカウンターの奥、カーテンの向こうの部屋に消えた。

 激しく気になる、あのカーテンの奥の解体作業部屋。俺が勇者なら入れたのにっ!!

 でも勇者って、目の前で泥棒できる勇気はあってもカウンターを乗り越える勇気はないんだよなぁ。……もしや、カウンターさんが冒険に出れば最強なのか!? 四台パーティで魔王を囲めば世界は平和だ!!

「解りましたー。中枢神経を破壊すると死ぬみたいですねー。人間でいう頭になりますねー。頭が下の魔物さんだなんて珍しいですねー。頭に血がのぼらないのでしょうか?」

 あぁ、ダンジョンコアですらない。魔力核ですらない。生々しいマザー中枢神経……。

 生き物の、それも巨大ミミズの口から体内に侵入して、一番奥にある脳を破壊してこいと……。マクロの決死圏ですかー。ねぇ、そのミミズの入り口って、入り口? 出口? それによって激しくボクのやる気が上下するんですけどー。

 やる気が出るもの、なにか……。

「そうだ!! お、お宝。宝箱とかマジックなアイテムとかは用意されてないんですか!?」

「ありませんねー。そもそも道具を作るのは頭の良い生き物だけですよー? あ、でも、お宝はあります。ダンジョンワームは土を食べて生きていますので、消化できなかった鉱石類が内臓のなかで塊になってるんですねー。ときおり、地面のふかーくじゃないと見つからない鉱物もありますから、是非ともとってきてくださいねー? さすがにダンジョンワームをギルドに持ち込まれても困りますからねー? もちろん、持ち込むのはうちのギルドで構いませんよー? 鍛冶職のギルドに持ち込まなくても大丈夫なんですよー?」

 マジックアイテムじゃなくて原材料。それも鉱物、金属類ですかー。それも胆石扱いかー。

 合鴨ファンタジーよ……。ファンタジー成分はいずこに?


「ところで、お兄さんはどうして戻ってきたのですかー?」

「もちろん、ティータちゃんの顔を見るために決まってるだろ?」

「……おにーさん。お顔、真っ赤ですよ?」

 それは、お互い様ですよーだ!! えへへへへへへ。


 ……。

 ……。

 ……。

 未だに逃げ惑う可哀想なユグドラシル大鹿さん……。頑張れ!! 心の目で避けるんだ!!

 それとは別に、冒険者ギルドから改めてダンジョンワーム討伐の依頼を引き受けた。本来ならば軍や傭兵団規模で受注する仕事なのだそうだが、それを個人でこなす。一パーティでこなす。実に無茶な受注だった。

 だが、冒険者ギルドは冒険者ギルドで手一杯らしく、そのまま回してくれた。

 この冒険者ギルド、問題児が多すぎです。支援なのか飽和攻撃なのか解らない有り様です。

 一応、殺人や強盗などの行為はゴーレムさんが見張っているので起こさないようだが、セクハラ発言は存分に許されるらしい。これ、更に性能を高めると更にお高くなるんですって。高性能になるほど普及して安くなる物でも無いからなぁ……。


 そして現地。

 ダンジョンがあった。入り口が二つ横並びに存在している。

 なかなかにシュールな光景だが、正体は二匹のミミズさんなんだよね?

 どう見ても石造りの階段に見えるけど、ミミズさんなんだよね?

 そして肝心要の挑戦者が居なかった。遅い。空を飛んで来い。あるいは転移して来いよ。


 転移魔法。その原理は解らなかったが、二通り存在するという事だけは理解できた。

 一つは召喚魔法。対象を捉えて、カツヲの一本釣りをするような漁法だ。勇者様と縁の深い遺物を利用し、魂を捕捉し、勇者様たちのついでに俺が召喚されてしまったわけである。

 比較的安全なのだが取り寄せる事しか出来ない。お取り寄せバッグ。俺のライバルだ。

 もう一方は跳躍魔法。相対的な距離、方位を定めての瞬間移動になる。

 ただし、跳躍時に魔力干渉を受け易い。例えば直線に十キロメートル跳躍したとして、十度も角度がズレてしまってならもうお終いだ。最終的には約千七百メートルも到着地点のズレが生じることになる。

 左右のズレならば、まだ救いがあるかもしれない。でも上下ならほぼお終い。空中ならば、レベル次第で重傷で済むかもしれない。けれど、地中なら完全にお終いだ。地下千七百メートルから無呼吸でなんとか登ってこいと?

 どちらも運ぶものの質量や強度、距離により消費魔力が大きく異なってくるそうだが、魔力が無いので解りません。魔王を召喚してフルボッコ、というわけにもいかないそうだ。使えるようで使えない魔法、それが空間系の魔法だった。ただし、俺は除く。魔法ですらないから。


 勇者様一行。聖戦軍の行軍が遅々として進まないのも、これらが原因であった。

 跳躍時、魔王が魔力を解放したなら全員揃って何処にスッ飛んで行くかも解らない。

 結局、一つ一つの城や街を練り歩いて、一つ一つ解放していく他無いのだ。さらに勇者さまは聖戦軍を旗印として何処に居るのか丸見えなのに、肝心要の魔王の所在は現状さっぱりらしい。ラスボスさん、何処ですかー?


 ちなみに、勇者様が全力を出して城や街の開放に向かえば一瞬で制圧は完了する。

 ただし代償として、街の住民や聖戦軍の軍勢をヒキガエルにする形になる。核爆弾だ。使うに使えない核兵器。魔力を自ら封印しながら、チマチマと戦っているそうだ。

 そして大本たる魔王様は姿を見せない。メイメイさまの仰られた通り……この国の軍隊は完全にもて遊ばれているんだ。

 一度は常勝将軍ベルガドットが勝利した魔王。戦戯王エグザクト。

 国一つを盤面として、自らに傅く者を駒として使い、遊んでいるのだ。

 これでも天竜王に比べて無害な魔王らしい。トビトカゲが逆鱗モードに入ると、国家ではなく国土そのものが消滅する。物騒なトビトカゲよ。緑の自然環境をなんだと思っているんだ?

 勇者三人に剣聖と聖魔。五つの駒を持たせたハンディキャップ戦。わざわざ人間を残し、そして敗北の際には糧食類を燃やしていく遅滞戦術。国土の解放。勇者さまのレコンキスタは遅々として進んでいないのが現状であった。

 簡単に言えば適材適所になっていないのだ。

 弱い人間を盾にされている限り、勇者さま達は本気を出せない。

 なら、他の魔王に当てるべきなんだよ。

 聖戦軍こと王国軍は自らの力で解放を目指せば良い。魔王が出てきてから勇者様を呼べば良いんだ。……でも、それをしない。世界平和のために呼ばれた勇者様が、まるでこの国の駒扱いだ。まぁ、そんなものなんだろうけどさ。国連結成はまだまだ先らしい。


 それから、俺の対戦相手も遅々として進んでいなかった。

 冒険者ギルドから馬で一週間。転移ならば一瞬オア死。空を飛べば一時間しない距離です。

 音速の壁は越えられないが、かなりの高速にまで対応できるようになりましたー!!

 でさぁ? このダンジョン風のミミズ、もう殺しちゃ駄目なの?

 一時間に十センチほど二つの入り口が離れていく様はちょっとシュールで面白いんだけどさ――――レイジは今日も退屈なのですよ。


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