牡丹に桜に紅葉の赤(4)
「アンタがサクマレイジか?」
「いえ、レイジ=サクマです。よく勘違いされるんですよね、困ったものです」
あのトビトカゲ。毎日毎日、人の名前を天空から連呼しやがって……。なので、俺の持つ最強の現代兵器を使用してやった。それはシ、カ、ト。お前のことなんか、しーらない。
人間がドラゴンの心を傷つけた!! 人間の勝利だ!! もっと怒れ!!
ウィルキンゲトリクスさん、アナタの教えを忠実に守らせていただいております。
「で、アンタがサクマレイジか?」
「いえ、レイジ=サクマです。よく勘違いされるんですよね、困ったものです」
しつこい男だモテないぞ? アッサリした男もモテないって、巫女巫女さんは言ってたね。
――――しつこくも無くアッサリとしたトロミある食感。ぬめぬめさんが大人気なのー?
「で、アンタがレイジ=サクマか?」
「いえ、サクマ=レイジです。よく勘違いされるんですよね、困ったものです」
はっ!? この男、出来る!? 関西人かっ!?
まぁ、確信を持って近づいてきた以上、無限ループにも飽き飽きなのですよー。
『私を抱いてくださいませ』
『いいえ』
『そんなことを言わず、私を抱いてくださいませ』
『いいえ』
『そんなことを言わず、私を抱いてくださいませ』
美少女が口にする、こんな素敵な無限ループはどこかに落ちていないんでしょうか?
「俺の名はカシウス。猟兵王ボルケディアスの傭兵団へ入団を認めてもらうため、日々、魔物の相手をしている。レイジ=サクマ、アンタはボルケディアスさんから直接スカウトされたそうだな?」
「…………へ? なにそれ? 初耳ですが?」
うん、本当に初耳。
「とぼけるな!! ボルケディアスさんと酒を飲み交わす姿を俺達はちゃんと目にしたんだぞ!! 肩を組み合って、一緒に泣いてる姿もな!! あれで親交が無いって言い張るつもりか!?」
あぁ、ミレッタさんに失恋した男の会ね。アレは泣けたよ。相手がアレだもん……。
俺達と言って親指で指差したテーブルには真っ白な美少女と、四つの物体。この異世界、やけに美人が多いなぁと思っていたが、常に魔力で解毒されるため天然デトックス効果が激しいらしい。
肌の白いは七難隠すという言葉があったけど、この世界の魔力は更に色々隠すらしいね。
五人、いや、白雪姫と六個の小人達。それがカシウスくん? の、自慢のパーティのようだ。
この世界、人間の年齢が分かりづらい。デトックス効果のせいで老けが見えないのだ。
あと、外人顔でファンタ人顔。巫女巫女の皆さんの年齢も、かなりの具合で不詳です。
「――――俺達と勝負しろ!!」
「なぜ? どうして人は争うのでしょうか?」
ウィルキンゲトリクスさん……人は愚かです。ゴブリンローマ帝国に移住しても構いませんでしょうか? この生き物達、すぐに偉大なる魔法使いの歌を吟遊詩人に奏でさせるんですよ。
ボクはもう、人の世で生きていくのが辛いのです。
「俺達が勝てばボルケディアスさんに認めてもらえる。そして入団させてもらえるだろう?」
「俺が勝ったら? 何か貰えるの? そこの少女との一夜か? そいつは実に素敵な提案だ」
「――――ッッ!!」
あら、顔を真っ赤にして。初心な子だね。しかしなぜボクのホッペも暖かいのでしょう?
自分で言ってて恥ずかしい。もうやだ、この異世界の空気。没個性の世界に帰りたいです。
メイメイさまと巫女巫女さんとティータちゃんを連れて帰りたいのですよー!!
…………だが、養えぬ。第三惑星では養えぬのだ。くそう、これがジレンマよ。
「そもそも、俺達と言っている時点で不合格なんだ。……そうだな、俺と勝負したければ、まずはユグドラシル大鹿を退治してこい。話はそれからだ。そのために来たんだろう?」
「あんな巨大鹿を倒せるわけが無いだろう!? まず、追いつけないんだから!!」
「そうか。わかった、じゃあ諦めろ。真面目に訓練に励んで、真面目に入団を認めて貰う事だな。ボルケディアスは悪い奴じゃない。真面目に務めてりゃ、そのうち認めてもらえるだろ」
言い返す言葉が無くなったのか、ただ睨みつけてくるだけだ。
怖いのです。この距離は避けられないのです。レイジの売りはステルス戦闘機、地上では離陸前に撃墜されてしまうのですよー!!
「分かりました。貴方が勝てば一晩でも二晩でも生涯でも、幾らでもお相手いたします」
「アリアドネ!?」
真っ白めの銀? 白い金? そんな感じの髪色の美少女さまが会話に割り込んできた。服装もそれを基調にした白なので、真っ白さんだ。ブカブカのローブが身体のラインを隠しているが……それなりと見たっ!!
しかし困りましたのです。レイジは今、冷静と欲情の狭間でうろたえているのですよ?
「どうか、カシウスの願い。貴方さまとの勝負、聞き遂げては頂けませんでしょうか?」
「……ふっ! 女に恥はかかせられんな。無償で構わん、勝負の方法はなんだ? 例え俺に勝利したとしてもボルケディアスが認めるとは限らんが……それでも構わんだろうな?」
そ、そうです!! レイジの初体験には愛! 愛がなければ駄目なのですよー!!
愛のない一夜なんて!! ……すっごく欲しい!! でも、我慢なのですよー!!
ティータちゃんは小さい。メイメイさまはもっと小さい。レイジはいつまで我慢すれば良いんでしょうか? くすん。
「もちろんそれは解ってる。……数を頼りにして勝っても、ボルケディアスさんは認めない。でも……少しでも眼を向けては貰える。それだけでも、俺たちには十分な機会なんだよ!!」
「ふん、解ってるじゃないか……。それで、勝負の内容はどうするんだ? 直接戦うのは御免だぞ? 俺は冒険者だ。冒険者の仕事は魔物狩りであって人殺しじゃない。傭兵の領分では違うのかもしれんがな?」
人殺し、嫌です。亜人殺しも、嫌です。生き物を殺す事も、あんまり好きではありません。
殺して良いのは虫とドラゴンと茨猪のみなのです!! あとは、ツノの付いたウサギ!!
「――――わかっている。お互いに公平、公正に勝負をつけられる場所。……ダンジョンだ」
「ダンジョン!? ダンジョンがあるのー? 何処にあるのー!? ねぇねぇ、何処に!? 早く行こうよ!! ダンジョンだ!! 素敵なダンジョン!! 早く行こう、ねぇねぇ!!」
合鴨ファンタジーにきて幾星霜、具体的には半年ほど。初めてファンタジー成分に出会った気がする!! 初ダンジョンだ!! なお、地上建築物はダンジョンに含めないものとする。あれは巨大な蜂の巣だ!! ライオン蟻の巣穴も巣とする!!
「あ、あぁ、ダンジョンがちょうど二つに別れたところだ。二つに別れたダンジョンの一方を先に退治したほうが勝ち、これなら条件は十分だ、これなら良いだろう?」
「ダンジョンが分裂? なんですのそれ? この世界ではダンジョンは単細胞生物なの?」
ダンジョン、それは男の夢。ダンジョン、それは最後のフロンティア。ダンジョン、それは地中の多細胞生物。ダンジョンって生き物だったんだー。それもワームの一種だったんだー。
……あぁ、ファンタジー成分よ、いずこに……。
「な、なんで急にガッカリしてるんだよ!! とにかく、勝負なんだからな!!」
「はい、解りました。勝負しましょう。ボクも頑張ります。頑張れるだけ頑張ります」
「頑張れるだけじゃなくて全力を出せ!! そうじゃないと勝負にならないだろ!?」
「はい、頑張れるだけ全力を出します。ボク、もう疲れたので、寝ても良いですか?」
「駄目だ!! ちゃんと勝負の内容を最後まで聞けよ!!」
わし、何だか疲れた。寝る――――。