エピローグ 十二歳のギルドマスター(1)
冒険者の夢未定。
まぁ、こんなところだろう。
「いらっしゃいませー。おにーさん! 今日は、どのような御用件でしょうかー!」
また、硬い作り笑いだ。鉄壁だな。流石は十二歳の女の子でギルドマスターだ。
俺が十二歳のとき、こんなにしっかりした子だっただろうか? うん、考えるまでも無い。
「受け取った報酬を約束通り支払いにきた」
「…………本当に、キマイラを退治してきたのですか? 銀貨二百枚で?」
「まぁ、辿り着いた時には五十枚まで減っていたけどね。生活に困窮して手をつけてしまったらしい」
「へーそうですかー。それじゃあ、ください。全額。そういう約束でしたからね」
全額。…………あ、人足の村人に渡した分は必要経費で良いんだよね?
カウンターの上に置いたのは金貨三百枚。作り笑いが憎悪の顔に歪んだ。
ティータちゃんにそんな表情は似合わないよ?
「またですか……。またティータ達を馬鹿にして!! そんなに笑いものにしたいのですか!! 私は冒険者ギルドの仕事に誇りを持っています!! 私達は物乞いではないのです!!」
そっか。誇り高きギルドマスターティータちゃんなのか。
「笑いもの、まぁ、笑い話かな? 始めは銀貨五十枚。だけど領主様が追加してくれて千枚。ただ、アレコレあって金貨三百枚になったんだよ。これがホントに笑い話でね? 本当に俺の懐から出たお金じゃないんだよ?」
「……どうすれば、銀貨五十枚が金貨になって、それも三百枚になるんですか!! どうせ、おにいさんが自腹を切ったんでしょう!? そんなことも分からない小娘に見えますか!! きっと見えているんでしょうね!!」
なんだ、守銭奴としてのレベルは俺の方が高いらしい。
まったく、こんな簡単なトリックすら見抜けないなんて、恋は盲目と言う奴ですかー?
「まずはね、村の村長さんに走って貰ったんだ。領主の男爵さまに成功報酬で銀貨千枚の約束を取り付けて貰った。でもね、銀貨千枚なんて額では男爵様が納得しなかったんだよ。たった一人であのキマイラに挑んだ英雄への報酬としては安すぎる!! そう思って、男爵さまはこっそりと銀貨を金貨に摩り替えたんだよ」
「――――嘘ですね。ならどうして、ティータの目の前にある金貨は三百枚なんですか?」
いぶかしむような翡翠の瞳。とても綺麗だよ?
「と、いう創作劇をキマイラと抱き合わせで売ってきたんだ。金貨三百二十枚でね? 今頃、男爵様はキマイラの剥製作りとお芝居の創作に忙しいんじゃないかなぁ? だから、報酬は全部で金貨三百二十枚。ただ、キマイラを運ぶのに村の人達を人足に使っちゃってね。金貨二十枚分、報酬が目減りしちゃった♪」
ティータちゃんが俯いて……。身体を震わせて……。
「なんなんですかー!! そのインチキはー!! 男爵の人は金貨千枚を支払うべきですよー!! そうすればティータは、ティータは……大損です!! おにーさんは男爵に齧り付いてでも金貨を千枚奪ってくるべきなのですよー!!」
おぉ、守銭奴だ! 守銭奴のティータちゃんが復活したぞ!! ボロボロと涙を零しながらの復活!! 熱血物語だ。
そしてティータちゃんが小さな手を差し出した。……これはなんでしょう、仲直りの握手?
「金貨が二十枚足りません。おにーさん、横領は許しませんよー?」
「こ、この銭ゲバ娘がっ!! 村の人達は大変だったんだぞ!! 家を焼かれて、畑も焼かれて、もうボロボロだったんだぞ!! お金が無くちゃ滅びるところだったんだぞ!!」
「その慈善事業はー、おにーさんのー、自腹? ですよねー? ティータにはあと二十枚を受け取る権利があるのですよー!!」
この野郎!! 調子に乗りやがって!!
キマイラを退治した日光仮面さまを舐めるんじゃねぇぞ!!
……。
……。
……。
「おにーさん、おにーさん。元気出してー? ほらー、今日は調子が悪かったんですよー」
「ええいっ! その慰めが男心を傷つけると何故わからぬかっ!! 放って置いてくれ!!」
「分かりましたー。放って置きますねー?」
「そこはー、ちゃんと慰めるところでしょー?」
「あっ! 慰めのご依頼ですかー? ティータはお高いですよー?」
「幾ら? 幾ら出せば慰めてくれるの? ティータちゃんの慰め料は幾ら?」
「金貨で二十枚になりますねー」
「このボッタクリ板娘!! あ、ミレッタさーん!! 金貨二十枚分の癒やしのサービスをくださーい」
「おにーさん!! 駄目ですよー!! お姉ちゃんに頼むと、お肉やお酒の材料費や調理費用が掛かるんですからー!!」
「知るか!! この守銭奴がっ!!」
そんなわけで、ミレッタさんのサキュバスボディの前で、鼻の下をこれでもかと伸ばしておきました。ティータ先生はなんだかプンスカしていましたが、何故なんでしょー?