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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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勇者のバックストーリー(7)

 蟲の森。名前のままの森だ。

 正式な名は別にあった。ただ、あまりにも蟲の魔物が強すぎて、誰もが名前を忘れてしまったそうだ。シャドーウッドの森は、シャドーウッドが生えていたからの名付けらしい。


『ペンデュラムスパイダー。この魔物は恐ろしい魔物なんですよー。木の上で得物が通りかかるのを待ちます。そして得物がその下を通ろうとするとー、木の上からジャンプ! 糸を使い振り子の要領で相手の首筋目掛け刃物そのものの前足でズバッ!! 前を歩いていた仲間の首が一瞬で無くなったそうですねー。怖いですねー。恐ろしいですねー。こんな魔物の生息する森に入る冒険者はお馬鹿さんしか居ませんねー。頭と身体が仲良しさんじゃなくなったことに気付けると良いですねー』

 なるほど、確かに俺の持つショートソードなんかより、ずっと切れ味のよさそうな前足をしている。樹上のさらに上から襲われないように枝葉の下に隠れていたが……体長二メートル越えは隠れん坊に適して無いよ? かなり丸見えだよ?

 空から近づいて収納。そしてスパイダーの川流れ。この世界の虫って、水に浮かない連中が多いよなぁ。ため池の中、逆さ落としで仰向けにされたペンデュラムドザエモン。……恐ろしい生き物だった。

 体長二メートルの蜘蛛って、気持ち悪いのなんの。タランチュラの何倍だと思うんだ?

 思えばミルメコレオ、ライオン蟻も、単純にでっかい虫として気持ち悪かっただけの気もする。大きい事は良いことだ。ただし、おっぱいとチョコに限る。


『ジャイアントハニービー。この魔物に狙われ生きて帰れた冒険者は居ません』

 ……あ、それはアルミラージュさんで散々経験済みですよ、ティータ先生。

『およそ百メートルの巣を作り、そのなかで数万の巨大な蜂達が暮らしているのです。巣を守ろうとする警戒心がとても強く、うっかり巣の近くに寄れば、数万の蜂達が襲ってきます。その毒針でグサグサですよー。やっぱり暴力は数ですねー。百メートルもの大きな巣だから見過ごさないだろうと思っていても、それは草原の感覚ですよー。くらーい森の中では見過ごしてしまうこともあるんですよねー。そして、一度見つけた敵は絶対に逃がさないのですよー。たった一人で数万の巨大な蜂と戦おうなんて考えるのはお馬鹿さんくらいですねー。蜂さんに見つかったら死んじゃいますねー』

 直径百メートル。その立派なドーム球場には度肝を抜かれた。

 普通の蜂の巣を想像していたところに丸いハニカム構造体がドーンと!!

 自己主張激しすぎだよ異世界蜜蜂!! 目立つこと、それだけで近づこうとはしないのだろうけど、ならば森に巣を作るんじゃない!! 隠れたいのか目立ちたいのか、どっちだ!?

 体長はおよそ人間大。ハニカム構造の上に寝そべることで、死角は無い。さぁこい!!

 近づいて刺す。それしか芸の無い蜂さんはしまっちゃうよー。毒液を発射するくらいの芸は欲しいところだよー。本当に数万なんだねー。確かにアルミラージュよりも数が多いけど、目に見える程度の速度なら収納するのは簡単だよー。

 収納を続けること小一時間。ハニカム構造のダンジョンへと俺は足を踏み入れた。

 え? もしかして初ダンジョンがこれ? いや、これはダンジョンではない。地上の構造物、ビルディングである。

 その地上の構造物の中には、人間大の大きな幼虫さんが……。

「嫌ぁぁぁ!! でっかいのは嫌ぁぁぁ!! レイジはムシムシさんが嫌いなのですー!!」

 未だに出会わぬ人喰いクロウラー。……生涯出会わなくて結構です!!

 ちなみに、働かない蜂の雄が巣の中でニートをしていたので、ついでに収納。生涯にすること言えば女王との交尾だけ。そして交尾に成功すると、巣を追い出される悲しい宿命。

 日々頑張って、性欲に耐え続ける俺の仲間なのかもしれない!!

 そして子沢山の女王様や、卵……中身の見える卵を回収してからが本題だ。

 蜂蜜だー! 蜂蜜の池だー!! 黄金の池だー!! そしてハニカム構造の巣は蜜蝋とプロポリスで出来た高級食材だー!! 美容成分タップリだー!! そして花粉団子。これも健康食品なのですよー!!

 蜜蜂の巣とは、余すことなく利用できる第三惑星では結構注目の食材なのですよー!!

 この合鴨ファンタジアでは蜜蝋は蝋燭に使うそうだが勿体無い話だ。魔法の光で良いじゃないか。そう思ったが、駄目らしい。剣一筋のアルエット、初歩の初歩と言われる光さえ出せませんでした。……輝く刃の光剣は繰り出せるのに、何故?

 さて、大方を回収し終えたところで気が付いた。……人間大の蜜蜂。どうやって花の蜜を集めてきたんだ? ジャイアントハニービー用のジャイアント花畑が存在しているのだろうか?

 そこに迷い込めばコロボックルの気分を味わえるのかもしれないなぁ……。


『グレーターブロードサッカー……。これは、語る事すら恐ろしい魔物です。まず、ぬめぬめしています。本当にぬめぬめなのです。そして大きいのです。大きくてぬめぬめなのです。木の上で待ち構え、得物が通りかかると……真上からガバーッと! そしてその吸盤で相手の背に張り付き、血を吸い取るのですよー!! 蛭? はい、その仲間ですよー? ぬめぬめして、大きくて、本当に恐ろしい魔物なのですよー!!』

 この辺になると、素のティータ先生が戻ってきたような気がした。

 あるいは、目の前にいるこのグレーターブロードサッカー。名前だけは格好良い、巨大な吸血蛭があまりにも恐ろしかったのかもしれない。俺も、恐ろしい。触れたいとは思わない。

 ゲームのなかでは巨大ナメクシや巨大カタツムリが現われた。リアルの巨大ナメクジは、幻想的な生き物ではなかった。レベルとは関係の無い強さを秘めていた。

 生理的嫌悪感。ただそれだけを感じる。でも、蛭の仲間なので、動き方は尺取虫のように、ヨイショヨイショと動いて可愛い……と思うわけがあるかぁっ!!

 収納したくない!! でも収納!! なんだか知らないけど、高級食材らしいから!!

 貴族って、どうしてゲテモノが好きなんだろうねっ!? ドングリは喰わないくせに!!

 グレーターブロードサッカー、人間以上の背丈と幅。触れたくないので大地の力、位置エネルギーさまによって始末して貰おうと思い高所から落としてみた。

 そして奴は広がったよ。チェンジ!! ウィングモード!! まるでモモンガのように滑空し、蟲の森へと帰っていった。……大自然、驚異すぎ。


 ちなみに、地の利。樹上や空を支配する勢力が強すぎて、蟲の森の名前のわりに地上に生息する魔物の数は少ない。虫も、その他も。

 それから男の浪漫、ジャイアントカブト虫やジャイアントクワガタの夢は夢のままでした。


 それから本題。

『キマイラ。それは小さなドラゴンとも呼ばれる魔物です。危険度は大から重大。獅子の頭、ヤギの身体、毒蛇の尻尾、そして竜の翼を持った恐ろしい魔物です。街の近くに住みつかれれば、その街は終わりなのです。口からはドラゴンのように炎を吐きだし、噛み付き、生き物なら何でも喰らいます。そして賢い、これが厄介なんですねー。不利を悟ると逃げるんですよー。そしてネコネコなので、夜目が利きます。夜空から突然現われて炎を吐き、そして獲物を喰らうんですよー。え? 猫舌なのに火を吹いても大丈夫なのか? ……それこそが恐ろしい魔物なのですよー!! 世界は不思議なのですよー!! こーんな強い魔物に挑むのはお馬鹿さんだけなのですよー!! 絶対に、絶対に、近寄っちゃ駄目な魔物なんですよー!!」

 なので、俺はティータ先生の教えの通り近づかない事に決めた。

「お前に相応しいスケープゴートは決まった!! ≪生贄羊ノ晩餐会スケープシープ≫!!」

 山と村の間にメーメーと鳴く羊さんを一頭。足には足枷が付けられて可哀想。

 自身は夜目が利き、相手は夜目が利かない。その利点をしっかりと把握しているキマイラは基本的に夜行性だ。見つかっては不味いので、土団子の偽装。トーチカの中で見守った。

 罠が決まらなければ、アヴェンジャーの出番となる。

 キマイラの装甲を撃ち抜けるか? ……アルミラージュさんなら大丈夫な気がする。うん。

 ……来た! 体長は五メートル以上、十メートル未満。だが、翼が十メートルを越える。こう、上手い事斜めにして……ピタゴラスさんに頑張って貰えば収納も可能か?

 生贄羊。キミの犠牲は忘れない間だけ覚えておくよ。

 この異世界の魔物たち。どういう訳か毒が効かない。肝臓や腎臓が異常に発達しているのか、無意識のうちに解毒魔法が働いているかのどちらかだ。

 お陰さまで一度、死にかけた。

 アルエットが稽古を頑張ったご褒美として、手料理を振舞ってくれたことがあったんだ……。

 珍味と呼ばれる魚を一緒のテーブルで御馳走になり、そして窒息死しかけた。これ、フグです……。それも、素人さんが捌いた毒満載のフグさんです。

 マリエルさんの治癒魔法ならぬ医療魔法で事なきを得たが、まさかアルエットはハイドラヴァイパーの肉もムシャムシャいけるんじゃないだろうな?

 美少女ヒロインの料理下手が毒扱いというのは漫画の定番だが、完全無欠の毒料理を出されるとは思いもよらなんだわ!!

 キマイラは甘い匂いに誘われたか、生贄羊に噛み付き、その肉を飲み込み、そして毛を喉に張り付かせた。猫の味覚に甘味は無いというが、匂いは美味しそうに感じたのだろう。

 俺は少々煮詰めた接着蜂蜜ソースを掛けておいただけなのにねー?

 猫っぽく、毛玉をケー、ケーと吐き出そうとするが、どうにもならないようだ。

 人間の喉は、食べ物を嚥下するとき、肺に食べ物が入らないよう気道に蓋をする。

 ご飯が変なところに入った、そんな経験は誰にでもあることだろう。

 そして、ジャパンの正月、御餅を喉に詰まらせる行事。これは気道に餅が詰まった訳ではなく、大抵は嚥下する際に蓋を閉めるセンサー部分に餅がくっついてしまって起きる生理現象だ。

 餅が喉に詰まったなら掃除機で吸い出しても良いし、水などで無理やり飲み込んでも実は構わない。

 センサーの誤作動さえ収まれば良いのだ。だが、キマイラさんの御家族はそのことを御存知なかったらしい。誰も掃除機を持ってこない。喉に何かが詰まった事には気付いたようだが、そこまでのようだ。

 まさか喉に絡みついた毛の一本が、死に誘う罠であるとは思いも寄るまいて。

 小さなドラゴン……つまり、あのトカゲマンよりも頭が悪い生き物のことでしょ?

 なにが賢いだ。なにが不利を悟れば逃げるだ。普通にチアノーゼ反応を起こして痙攣してるわ!!


「キマイラ。お前の敗因はな、せっかく火を使えるのに加熱調理する手間を省いたからだよ。……あ、でも猫舌なのか。じゃあ、仕方ないのかな? ごめんごめん」


 ゴーレムさんのプレートは生死を確認できて便利だ。あとは、少々口中を水洗いして、狩猟方法を機密事項に。アドバンテージとは独占してこそ意味を持つのですよー。

「サラバだ。ミニチュアトカゲマン。お前の弱点はな、翼に竜を選んだ事だ」

 それさえ無ければ、もっと賢い生き物であれただろうに――――。


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