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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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勇者のバックストーリー(6)


 ……と、いうような邪魔が入りつつも到着した村は、一言で言えば無惨。純粋に無惨。

 石ではない木造屋根の家々は燃やされ、家畜を食い殺され、ただ死を待つだけの状況だった。

 キマイラは面白おかしく家や畑に火を付け、飛び出してきた獲物を甚振って食い殺すのだ。

 魔力という壁があり、目の前で食い殺される家族を前にして動けない村人達。小さなドラゴン。その名に恥じぬ魔力圧は、非力な村人程度では近寄る事すら許さなかった。

 そんな危険な場所だというのに農民達が移動できない理由は簡単だ。

 近くの街への移住を希望した。『手に職は?』『ありません』『では、次の方どうぞ』。

 領地内での移動も制限されていることが多い。浮浪民と書いて犯罪者と呼ぶ時代の事だ。

 異世界生物はファンタジーに溢れているというのに、人間はどうしてこうも生々しいかな?

 もちろん領主様に助けを求めた。なんのための税金か。もちろん領主さまのための税金だ。

 だが、悲しいかな。彼等がこれから支払い続ける税とキマイラ討伐に掛かる費用は、秤にかけるまでも無かった。

 傭兵でもあるボルケディアスさんは言った、

『キマイラかぁ……手強いな。空を飛んで火を吐く。巣の中なら戦いにもなるだろうが、外に出られちゃどうにもならねぇ。こちらの攻撃は避けられる。不利を悟れば逃げられる。意地になって逃げないドラゴンよりも性質の悪い魔物だ。――――それで、その巣は蟲の森の向こう? 金貨を百万、二百万貰ってもお断りだな。稼ぎ頭の首を刎ねられちゃ困るんでな。ま、運が悪かったってことだよ――――』

 二つ名は猟兵王。数ある傭兵団のなかでも最高位に近いボルケディアスさんの言葉だ。

 俺が茨猪を持ち込んだときから狙われていたらしい。俺が欲しいと。この若さでありながら、単身で茨猪に挑み勝つ。なら、末は凄腕の傭兵か兵士になれるだろう。

 冒険者なんぞにしとくには勿体無かったそうだ。

 善意なのでしょうが、お節介さんなのですよー。


 さて、目の前の老人。どうして村長というのは年功序列になるのやら。

 年寄りと言うのはボケるのが上手で、彼が差し出したのは銀貨五十枚ほどに銅貨が少々。

 冒険者ギルドに依頼した時点では手元に二百枚あったらしい。ただ、生きていくために手を出してしまった。そして、下げた頭で穴埋めを試みた。

 下げた頭で穴埋め? 窒息死でもしたい馬鹿なのか?

 老人、そして若者、残った村人、全員の頭が下げられ窒息死を試みた。馬鹿揃いだな。

『私達、とっても可哀想でしょう? だから貴方が命を懸けて助けてくださいよー』

 でもね、ウィルキンゲトリクスさんが教えてくれたんだ。

 戦いは命懸け。相手か自分、どちらかが死ぬ命懸けの行為だ。

 ならば相応の対価を用意することは必定。そうでなければ俺の命に失礼だ。キマイラの命にも失礼なんだ。

 藁にも縋る気持ちは解る。だが、溺れるなら一人で溺れろ。……そういう世界なんだよね。

 さてと、こうして禿げた頭頂部を眺めていても仕方が無い。大盤振る舞いするとしようかね。

「キマイラ退治、銀貨千枚で引き受けましょう」

「冒険者さま!! ここにある銀貨で全てなのです!! 本当に、本当なのです!! 依頼料として用意した銀貨に手をつけてしまったことはお詫びいたします。ですが、本当に用意できた銀貨に銅貨はこれで全てなのです!!」

「あぁ、それなら大丈夫ですよ。貴方がたは銀貨を千枚、ちゃんと用意出来るはずですから」

 無知は罪。その罰はナチュラルな死刑。その中は世知辛いもんだなぁ。甘味が欲しいよ。

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