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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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冒険者ギルド、今昔(6)


「メイメイさま。衣食住、全てがこれ以上なく揃っているのに、危険へと命を無駄に晒すボクは……もしかして馬鹿なのでしょうか?」

「なんじゃ? ようやく気が付いたのじゃな? もしかせぬとも馬鹿じゃよ。大馬鹿じゃ。これ以上無いほどの大馬鹿で屑じゃの。己の命だけではなく、他のものの生き死にまで意味無く手を伸ばす。天下一品の大馬鹿者じゃな」

 うぐぐぐ、メイメイさまは容赦が無い。

 あっさりと、おキッツイお言葉でした。

「もしもそれに、弱いもの達を助けたいという理由が付いてでもでしょうか?」

「ふむ、それは最善の最善か、最悪の最悪のどちらかじゃのう」

 一つの質問に対して二通りの回答ですか?

 こういう時には悪いほうを先に聞いた方が精神衛生上、良いと聞く。

 美味しいものは口直しだ。だから食べ残してる訳じゃないんだよ? 奪わないで!?

「では、悪い方を先にお願いします」

「最悪の最悪は、愛していない者のために命を懸けることじゃ。それはの、ただの格好付けというものじゃからな? 格好を付けるために殺されるものの身にもなってみよ。ふむ、ある意味では自分自身のみを愛しているのかもしれぬがのぅ?」

 …………英雄譚のために命懸けで殺戮をしてこいと仰った方の発言とは思えませんが?

 ま、まぁ、メイメイさまのことだ。きっと、ふかーーーーーい深謀遠慮があったのだろう。

「良い方は、どのようなお答えなのでしょうか?」

「最善の最善は、愛している者のために命を懸けることじゃ。愛するもののために立ち上がり、そして立ち塞がる。まぁ、普通の人間のことじゃのぅ。勇気を持つ。普通の人間じゃのぅ」

 ……愛している。だから守る。だから戦う。命を懸けあう。それは当たり前すぎる道理。

 ……愛していないのに守る。そして戦う。命を懸けあう。それは異常すぎる外道。

「勇者さまの召喚。最後の最後までワシは反対したのじゃがなぁ。結局、止められなんだ。この世界のことじゃ、この世界の者でなんとかせよとな。……ほれ、向こうの世界にも愛するものがあるじゃろ? 向こうの者を見捨て、ワシ等を助けよ!! ……まっこと外道の言い分じゃ。さらには関係の無いお主までをも巻き込んでしもうた。……すまなんだ。謝って済むことではないが、本当にすまなんだ」

 おもてなしの三つ指ではない、綺麗なメイメイさまの土下座。

 面白半分受け狙いの俺のそれとは全く違う、礼儀を知った本物の土下座だった。

「メイメイさま。謝らないでください。メイメイさまが召喚したわけじゃないんですから」

「この世界の者として謝らせて欲しいのじゃ。お主にも、愛する者があったのじゃろ?」

「……いえ、そんな大した人は居ませんよ? まぁ、せいぜい家族くらいなものです」

「すまぬなレイジ。ワシの耳は真偽を見逃せぬのじゃよ? 特別じゃ、今日はワシが胸を貸してやるのじゃ。ほれ、わしの膝に……座るのは無理があるのぅ。膝枕で我慢するのじゃ」

 まったく、しょうがないなぁ。

 こてんとメイメイさまの太腿の間に顔を埋めて、泣いた。

 父さん。母さん。爺ちゃん。婆ちゃん。……兄貴はいいや。あとは、健二に智也。それから裕子。恋人じゃなかった。美少女でもなかった。でも、何だか気になってた……。お互いに。

 アルエット。マリエルさん。メイメイさま。獣っ娘。ミレッタさん。……ティータちゃん。

 いっぱいおっぱい。第三惑星じゃお目にかかれない美少女が沢山傍に居るのにな。なんでこんなに切ないんだろう。なんでこんなに苦しいんだろう。

 ……あぁ、そうか失恋したからなのか。一つは物理的に、もう一つは……最初から。

 冒険者なんて切欠だ。本当に暇つぶしだった。いきなり死に掛けるくらいの暇つぶしだった。

 ティータちゃんとのやり取りが楽しくて、心地よくて、眩しくて。でも、もうお終いの日々。

 なーんで気付かないのかなぁ? 十二歳の女の子がギルドマスターという異常事態にさ。

 これが恋は盲目って奴なのかな?

 よくよく考えてみると裕子は普通……よりもぉ? 本人と俺の名誉の為に、これ以上の言及は避けておこうじゃないか。うん。あばたもえくぼ。……あばたって何だろう?


 十二歳の女の子が、必死になって生きていた。眩しかった。

 十六歳の男の子が、ぼんやりと息をしていた。暗かった。

 そうして恋は、始まる前に終わってた。あの演出、悪趣味にも程があるぞ?


「メイメイさま、ボクは何処で間違えたんでしょうか?」

「ふむ、間違いだらけでどの間違いか解らぬが……。不真面目じゃったな。常に」

「不真面目ですか?」

 言われてみれば確かにそうだ。

 剣も、魔法も、冒険も、目的といえる目的も持たず、その日の気分でコロコロ転がっていた。

「目的も無くただフラフラと、その日その日を根無し草に生きおって。……うむむ? だとすれば不真面目でもないのぅ? 目的を持ちながら歩ゆむことが真面目なら、歩まぬことが不真面目じゃ。ならば、目的そのものが無ければ不真面目ですらないからのぅ。……すまぬ、お主の生き様を何と呼び表せば良いのかワシにも解らぬのじゃ」

 その言葉はきっと、モラトリアム。自分探しの旅人です。目的を見つけるという目的の旅。

 小学校から中学校を経由して高校生。そこからは分岐して大学、短大、専門学校、大学院を経由地として、企業や公務員に就職。幾多の人生があった。けれど、その殆どは似たようなレールの上を走っていたんだ。

 人生は道なき道を走る四輪駆動の旅じゃない。すでに敷かれた路線を選ぶ電車の旅なんだ。

 どちらが速いか、急勾配を登りきれるか、登りきれなければ一度降りて複線に入ろう。

 それが人生。……だったんだよ。この異世界に突然放りだされるまではさ。

 ティータちゃんに恋をしたのは、きっと必然。

 分岐路も無く、複線も無く、人生の急勾配がどれだけ厳しかろうと、ただひたすらに敷かれたレールに爪を立て、歯でしがみ付き、登りきる彼女の姿が眩しかったんだ。

 でも俺は、そんな彼女の笑顔の裏側にあるものを見過ごして、まるで学校の悪友扱い……。

 お金を切実に求めたティータちゃん。そのお金をまるで価値の無いもののように扱った俺。

 それからあの悪趣味な演劇に、報酬の独り占め。嫌悪が憎悪に変わっても当然だよね……。


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