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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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冒険者ギルド、今昔(3)


『我が名は天竜王ヴェスパール!! 天空の王者なり!! 地を這う人間風情が、我の領域に挑もうとは良い度胸だ。………褒美として滅ぼしてくれようぞ!!』

「あ、ごめんなさい。今、人生について考えるのに忙しいんです」

『……むぅ? 何があった? 事と次第によっては我が相談に乗ってやらぬでもないぞ?』

 相変わらずお喋りの大好きな天空の王者さんだ。


 ことの始まりは昨日の事。

「おにーさーん! ティータ困っちゃったなー! お肉がたりなくてー。はい、そこで帰らない!!」

「なんでしょうか、ティータ先生。ボクは冒険者として忙しいのですが?」

「…………良いでしょう。そこまで言うなら、真の冒険者としての仕事を与えましょう。泣いて叫んでも知りませんからねー!!」

「ほっほーう! 余が泣き叫ぶような仕事が……。あ、汚物関係はお止めくださいね?」

 差し出されたのは一枚の手配書。

 その魔物の名はハイドラヴァイパー。デッド、オア、デッドの賞金首だ!! 見敵必滅!!

 多頭の巨大な毒蛇であり、息をするように毒の息を吐く。その血は猛毒であり、そして最大の特徴は再生能力。たとえ首を刎ねたとしても、またすぐに生えてくるというのだ。

「ハイドラヴァイパー。危険度は大です。メスタフの沼地に潜み、沼の王として君臨しています。ただ、メスタフの沼地自身が交易路から遠いため、特に討伐もされずに放っておかれた魔物です。討伐の報酬は、なんと金貨五枚!! 銀貨にして二百五十枚ですよー!!」

「ギルドの取り分は?」

「金貨二百九十五枚ですが何かー? おにーさんは、夢より金の人でしたかー? 金より夢じゃないんですかー?」

「それとこれとは話が別だこの野郎!!」

「分かりました、特別価格、金貨六枚に値上げしましょう!!」

「舐めてんのか! この小娘がっ!!」

 ドタバタとカウンター越しにやりあったわけだが……負けた。腕力で、純粋に敗北した。

 俺、レベル零。ティータちゃん、レベル三。まさかの敗北。

「お、おにーさん? ほ、ほら、どーせ、本当にハイドラヴァイパーと戦うわけじゃないんですから、良いじゃないですか? 気にしなーい、気にしなーい。冒険者が一人でー。そもそも冒険者が戦う相手じゃないんですからー。ねー? ほーら、気にしなーい」

 その優しさが……痛かった!! 俺の男心が抉られたっ!! もう、ボロボロだ!!


「ボルケディアス先生。ハイドラヴァイパーってそんなに強いんですか? ティータちゃんよりも強いんですかっ!? ねぇ、大先生!!」

「もう訳がわかんねぇな……。まぁ、戦うなら冒険者じゃなくて軍隊か傭兵団の出番だな。百人単位で囲んでやっとの相手だ。報酬ねぇ……金貨で千。いや、千五百は欲しいところだな。まぁ、メスタフの沼自身がどうにかなって引越しでも考えない限り、手は出す必要は無いからな。それに、わざわざ沼地で戦う馬鹿はいねぇさ。向こうが出てくるのを待ってた方がマシってもんだ。街が危険になれば値も上がるしな」


「武具屋のおっちゃん! ハイドラヴァイパーも一撃な超電磁投射砲を売ってくれ!!」

「……坊主、頭をどうかしたのか? ちょーなんとかなんぞ、ウチでは扱ってないな。あとな、また装備が緩んでるぞ? そろそろ自分一人でキチンと装備出来るようになれや」


「アルエット!! ハイドラヴァイパーも一撃な必殺剣を教えてくれ!!」

「……剣の道を、また舐めているのですか? レイジの頭を一撃しますよ?」


「マリエルさん!! ハイドラヴァイパーも一撃な何か、何かをください!!」

「え~っと、毒? でも、ハイドラヴァイパー自身が毒の塊だから……無理ねぇ~」


「メイメイさま!! ハイドラヴァイパーも一撃な神器をください!!」

「…………神器とは、己の命と引き換えに神代の力を顕現するものじゃが、良いのか?」

「良くないです!!」

「ならば、己が力で倒してくるのじゃ!! レイジよっ!! ハイドラヴァイパーを討伐するまで奥の院の敷居を跨ぐ事を許さぬぞっ!! そして冒険譚をワシに聞かせるのじゃ!!」


 …。

 ……。

 ………。

「と、言う次第なんですよね」

『つまり、お主はハイドラヴァイパーを倒す術を考えているのか?』

「いえ、ティータちゃんをどうやって泣かせてやろうかと考えているのです」

『…………お主に勝ったそのティータとやら、相当なる剛の者なのか?』

「ティータちゃんは十二歳の可愛い女の子ですよ? 腹は相当に黒いですけど」

『お主……。我を舐めているのか? 戯言を抜かす口ごと滅ぶが良いわ!!』

 あぁ、人間不信の王者さんめ!! たまには人の言葉を信じろよっ!!

「一足離脱!! からの~空戦機動≪バレルロール≫!!」

『その飛翔ならば前に見たぞ? 同じ技が二度通用すると思うなよ、人間風情が!!』

「なにっ!? 同じマニューバでついてくるだと!? ……相当練習したんですね?」

『黙れいっ!! まさか、このような飛行法があるとはな。人の身の極致の技。こればかりは褒めてやろう。我に認められしこと、栄誉に思うが良いわ』

「えー? バレルロールはまだ簡単な機動なんですけどー? 褒められても困りますー」

『滅ぼす!! 滅ぼしてくれるわ!! 我を振り切ること、今度こそ適うと思うなよ!!』

 むっ、確かに、ただの芸の無いバレルロールでは引き剥がせそうにない。

 だが、この空戦機動にキサマはついてこれるのかな? その自慢の翼でなぁ?

「ふふふ、キサマの努力は認めてやろう天竜王ヴェ……ヴェ……トカゲマンよ」

『ヴェスパールだ!! そろそろ足掻きも尽きたか? ただ真っ直ぐに飛ぶだけならば、ブレスで焼き殺すだけであるぞ? さぁ、そろそろ自らの敗北を認めるがよいわ!!』

「ふんっ! では、着いてこられるものなら着いてこい!! ≪華弁開ク乙女達ノ宴インメルマンターン≫!!」

 インメルマンターン。それはスプリットSと対になる空戦機動である。

 つの字を下から上に描いていくのだが、ただひたすらに上昇角を上げ続ければ機体は自然と背面飛行の形になる。

 インメルマンが空戦の歴史のなかで誇らしげに語られるのは、機械仕掛けの姿勢制御の力もお粗末な時代に、人の力で背面飛行に近い技を成し遂げた、その偉業も含まれるのだ。

 ちなみに、飛行方式が全く違う俺の飛行法にとっては背面も側面も、実は全く関係が無い。

 だがしかし……天空の王者さんは、およそ百十度角で脱落。失速して地面に落ちていった。

 ドラゴンは背面飛行で上昇力を維持できる形状をしていない。羽ばたけば羽ばたくほど、下降するだけだもんねー。

『にーーーーーーーがーーーーーーーさーーーーーーーぬーーーーーーーーぞーーーーー!』

「いえ、逃げきります!! さようならトカゲマンさん!!」

 インメルマンターンの利点、それは速度を高度に変えられることだ。

 速度を位置エネルギーに変換。それから再度、位置エネルギーを速度に変換する事によって高速のUターンが可能なことである。天空の王者? それはインメルマンさんのことだね。

 いまは自称天空の王者さんより、ティータちゃん十二歳の方が俺にとっては重大なのだ。

 そもそも天空の王者さんが重大だった試しがない。……国も、あの魔王は無視しておけば良いという判断だった。

 天空は交易路と関係ないからねー。好きなだけ飛んでてくださいねー。

 とりあえず、ファンタジー名物の飛行船が生まれるまでは暇を持て余していてください。


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