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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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冒険者ギルド、今昔(2)

 おや? 今日のティータ先生は機嫌がよろしくないようで、いつもの笑顔が見られません。

 どういうことでしょうか? あぁ、なるほど。あの笑顔はボクにではなく、その背後の肉に向けられていた笑顔だったんですね! 納得! 超納得!!

「ティータ先生、今日の依頼は無いのでしょうか?」

「ホーンドラビットを十匹。いや、二十匹です」

「解りました。ホーンドラビットを二十匹退治して、それをお肉屋さんに卸して来れば良いのですね?」

 そっかー、いま市場ではホーンドラビットが不足してるのかー。

「おにーさん? 冒険者ギルドだって慈善事業じゃないのですよー!!」

「ティータさん? 冒険者そのものも慈善事業じゃないのですよー!!」

 ガルルルルルルルルと今にも噛み付いてきそうな黄金の獅子だが、悲しいかなここは異世界。

 百獣の王など猫クラスの生き物です。肩身を狭くして生存しているそうです。


「良いでしょう。教えましょう。うちの酒場の名物はウサギ腿肉の揚げ物です。それを調理する事で、市場価格の倍額で販売する事が可能なのです。ただし、その場合、調理の手間や廃棄を考えると儲けはたったの七。でも、善良なる冒険者さんがギルドに肉を卸してくれたならば儲けは十五!! 腿肉以外の部分も含めれば、儲けは軽く二十を越えるのですよー!!」

「この中間搾取ギルドマスターめ!! 俺はもう騙されんぞっ!!」

 竜虎相搏つが如く睨み合う。……ティータちゃんの翡翠色の目って綺麗だな。

 しかし、この異世界の虎は竜と同じくらい強いのだろうか? やっぱり猫クラス?

「とにかくホーンドラビットを二十匹!! それが済むまで、おにーさんの仕事は無しです!! 無職の人です!! まぁ、私とおにーさんの特別な仲ですからー、アルミラージュを二十体でも許してあげましょう。特別にホーンドラビットと同価格で買い取ってあげますよ!!」

「アルミラージュの市場価格は肉だけでもホーンドラビットの百倍じゃねーですかっ!! 毛皮を含めれば三百倍。薬剤としてのツノの売価を含めれば千倍を軽く越えるじゃねーですかっ!!」

「それは昔の話ですー!! 何処かの誰かが乱獲したせいで、今では八百倍にしかなりませーん!!」

 どちらにしろ同じだろうが!!

 むぅぅぅ、この守銭奴め。いままで、俺からどれだけの中間搾取を行なってきたんだ?


「おにーさんは古き良き冒険者を目指しているんでしたね?」

「……えーっと、うん、そうそう。確か、そうだった。なんだか過去形だけど」

「古き良き冒険者。古き良き冒険者ギルド。特別に、そのお話をしてあげましょー」

「ほう、それは凄く興味が湧く題材ですね。ティータ先生、よろしくお願いします」

 昔々の冒険者ギルドか……。

 どんなファンタジックな冒険談が聞けるのだろう、ワクワクしてきたぞ。


「その昔……肉や皮の卸売りは、冒険者ギルドの専売特許だったのですよー。そして世界が平和になり酪農や牧畜が安全に行なわれるようになると、精肉業のギルドという悪の組織が結成されました!!」

 肉屋が悪? それって何基準?

 あと、ファンタジー成分は何処っ!?

「そして肉屋が余らせた革が服飾産業のギルドに卸され、その他諸々も……。全ては専業化、分業化の弊害なのですよー!! おにーさんの求める古き良き冒険者ギルドの時代はこうして終わったのですよー!! 冒険よりも、お金を求める、卑しい金の亡者どもによって滅ぼされたのですー!!」

 あぁ、目の前で金の亡者が亡者してるわ。

「ティータちゃん……。いや、マスターティータ。冒険者ギルドにも、そんな悲しい歴史があったのですね? なるほど、酒場が九割を締めるわけがよーく分かりました!!」

 納得の帰結だ。荒事は傭兵が数で、肉や革は専業のギルドが受け持つようになった。

 何でも屋。コンビニエンスギルドが徐々に解体され、その形骸がこの冒険者ギルドなんだな。

「解ってくれましたか、おにーさん……。おにーさんが古き良き冒険者であるためには、ホーンドラビットを二十匹。この冒険者ギルドに卸す必要があるのですよ……」

「あ、それは断りますんで他のお仕事ください。冒険者っぽいのが良いです。ホーンドラビットを仕留めるのは冒険者というより狩人じゃないですか、ねぇ?」

 膨れっ面のティータちゃん、可愛い。


 だが、俺は騙されない……。女の色気に騙されるほど甘くは無いのだぞ!!

「えーっと、レイジさん? ちょっと、お肉が不足してるんだけど、ホーンドラビットを捕まえてきてくれないかしら?」

「はっ!! ミレッタさんがお望みなら、例え地の中水の中!! 百匹ほどで良いでしょうか!?」

「それだと腐らせちゃうから、三十匹ほどお願いしても?」

「お任せください、我が名にかけて獲ってまいりましょう!! こう見えて俺、ウサギ狩りは大好きなんですよ!!」

「おにーさーん! おにーさーん!! その態度の違いはなんなのですかーっ!!」

「……信用の差?」

 あと、おっぱいかなぁ? さーて乱獲乱獲!! 奴等は追えば巣の中に逃げる。

 だが、地面を掘れば自然落下死だ!! これほど簡単な狩りもない。

 その日は報酬としてミレッタさんに酌を注いで貰った。悪くない。こういう報酬も、時には悪くない。冒険者とは、そういう生き物なのさ……ふふっ。


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