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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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お空の世界は厳しいのです。あと、地上も。(3)

 逃げた。俺は逃げた。

 鬼は二人に加えて兵士諸君。奥の院、城、城下街、城の外でさえ逃げ場は無い。

 だが、一つの逃げ場所をついに俺は見出した!! 男子禁制の奥の院! その湯殿だ!!

 もちろん湯殿、俺は全裸で待機した。さぁ、こいアルエット!! さぁ、こいマリエル!!

 腹が減れば出てくるだろう? いやいや、そんなことはない!!

「レスティアちゃん? 冷たい飲み物が欲しいなー。ほら、俺って聖具だし? その保存と管理は巫女の務めだし~?」

 ふはははははは、我が牙城は完全無欠。トイレ? 我が体内にストレージがあることを忘れたか? 体内のものを一度出して、体内に? なんだか不思議な現象。

 裸体の獣っ娘を侍らせての左団扇よ。ほら、ここって湯殿だし? 服着てる方がおかしいし?

 獣っ娘、巫女服脱げば、獣っ娘。雅かな、雅かな。

『俺は聖具。人に見えるが性具!! それを磨き上げるは巫女の務め!! 柔肌には柔肌、これぞ正しき磨き方よ!! さぁ!! さぁ!! さぁ!!』

 複数人の美少女獣っ娘の柔肌による泡プレイ。まっこと極楽浄土の法悦で御座った。

 なかには体毛が丁度良いブラシになる獣っ娘も居て、多様なる味わい深き極楽浄土で御座ったなぁ。

 ふふふ、今日の磨き役は誰であろうなぁ?

 …………なんとっ! 大巫女さま!? メイメイさまが手ずからにですとっ!!

「お主が湯殿を占領して、巫女達が困っておると苦情がはいっておるぞ? さらに、聖具の扱いとして人肌は人肌で洗うが最良と申したそうじゃな?」

「はいっ!! 聖具を磨き上げるのは巫女の務め。そして、人肌こそが人を洗うに最良。ボクはそのように考えます!! なので、巫女達にもそう求めました!!」

「ふむ、正論じゃの。正論じゃ。ただな、巫女達は嘆いておったぞ? 今日の人身御供は誰かと籤で選ぶほどにのぅ」

「はっはっは、聖具を磨く栄誉に嘆くとは職務怠慢でございますなぁ」

「じゃから、今日はワシが磨きに来たのじゃ」

「え? でも、大巫女様とはもっとプラトニックな関係が良いなぁと、ボクとしましては~」

「安心せよ。プラトニックな磨き上げ方を用意してきたぞ?」

 メイメイさまの手には一本のブラシ。もう一方には白い粉の入った袋?

「なんですか、それは?」

「茨猪のブラシと、荒塩じゃの。荒塩を肌に刷り込むと肌が鍛えられる。茨猪の毛は茨の如く、お主の肌を鍛えてくれるじゃろう。二重に鍛えられるのじゃ。鞄として革が強くなることは良きことじゃろ? 正論じゃろ?」

「メイメイさま? メイメイさまっ!?」

 はっ!? 身体が動かない! これは≪束縛≫の魔法!?

「ほーれ、ワシが丹念に磨いて進ぜよう。その太腿と太腿の間にある女泣かせもなぁ? おや、ぁ? この場合は、男泣かせになるのかのぅ? くふふふふふふふふふ!!」

「メイメイさまの狐心に火がついてるよ!! 誰か!! 誰か助けてぇぇぇぇ!!」

 あ、やめて! お止めてお下さい! そこは男の大事なデリケートゾーンなのです!!

「へびあびやあばばぐじゅろばべんからおろぐじゃるめめんともりばぶるぼぶるじゅさるじゅめんそるじゅありがじゅうがんがらげそんこひゅばらっぱぷのぺんどるふぁんがすばぐれおならしゅるべとくめぎゃらすあぎゃらすとんぎゃらどすもげらへどらもじゅらごじゅらめぎゃごじゅら!!」

「成敗!!」


 ……。

 ……。

 ……。

「お湯が、お傷に染みますです」

「お主が傷つけた乙女心は、もっと傷ついておるじゃろうなぁ?」

 色々と磨き上げられたのち、湯船に入らされた。お膝の上で裸のメイメイさまがチャプチャプと楽しんでいるので、湯からあがることも出来ません。これは、ご褒美? お仕置き?

「お主は聖具じゃ。お主が語ったことも正論じゃ。神域の巫女である以上、聖具を磨き上げるのはその務め。聖具に心があるなら、それを癒やすのもまた務めじゃ。なれど、力押しはいかんな?」

「力押しですか?」

 この異世界の誰一人、押し倒せるような力はありませんが?

「脳天気なお主は気付いておらぬのじゃろうが、巫女達はお主を恐れておるのじゃぞ? いつ、身体を差し出せと言われるか分からぬでな。……お主は聖具ゆえ、求められたのなら応じなければならぬのが奥の院の巫女なのじゃよ。聖具が必要と言うのなら、必要な行為であろう?」

 ……ワンワンニャンニャンコンココーンなハーレムは、既に存在していたっ!?

「どうじゃ、ワシを求めてみるか?」

「――――メイメイさまの、意地悪」

「くふふ、お主ほどではなかろ? ……レイジよ、少しは人の気持ちを考えよ。人の立場を考えよ。自らの立場を考えよ。アルエットがなぜお主を鍛えようとしているのか。マリエルがなぜお主を鍛えようとしているのか。お主が弱く頼りなく見えるからじゃ。剣を教えるのは斬るためではない。斬られぬためじゃ。踊りを教えるのは踊るためではない。舞い避けるためじゃ。……お主が冒険者を目指すと口にした以上、それを止めることは王にもワシにも出来ぬこと。止められるのは勇者様くらいのものじゃろうな。……弱く儚い、なれど戦場におもむくと言うのなら、少しでも鍛えたきが人の情というものであろう?」

 言い返せる言葉が見つからない。

 鬼軍曹二人は俺のことを思って……いや、私怨が八割ほど?

「アルエットの情を踏み躙った。マリエルの情を踏み躙った。ならば、多少の折檻は心せよ。男であろう? お主は立派な冒険者になるのであろう?」

「はい……ボクは、立派な冒険者になります」

「うむ、ワシはお主に期待しておるぞ!!」


 城の錬兵場。一から十までしか存在しない不思議空間。

 アルエットが見守る中、俺はただひたすらに剣を振り続けていた。

「今日は気合が入っているのですね?」

「はい!! 今までの分を取り返そうかと!!」

「だから力んでいるのですね? まずは力を抜きなさい」

「ええっ!? そんな御無体なっ!?」

 頑張っている人間に頑張るなって、酷いっ!!

「ゆっくりで構いません。まず楽に構え、振り下ろす。刃を乱さずに、揺らさずに。小手先でしか剣を扱えないのなら、まず小手先だけでも。そして小手先で扱えるようになったなら、脚や腰でも覚えていきましょう。少しずつ少しずつ、覚えていけばいいのです。全てを一度にこなさせる……。そんな戯言は、才あるものにだけ任せればよいのです」

 才能に合わせて、無能に合わせて、それでも少しでも為になるように。

 本当に優しい女の子なんだな。アルエット。

「あのさ……アルエット」

「謝罪は要りません。今、ここに至るために全ては必要なことだったのですから」

 俺の表情から察せられたらしい。

 アルエットは胸だけじゃなく、心も大きいんだな。

「そっか、分かったよアルエット!! おっぱいプルルンも必要なことだったんだね!!」

「それは今すぐ謝罪しなさい!! 人として!!」

 ……異世界人は嘘つきでした。


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