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勇者のバックストーリー<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
赤い糸より確かな質量、それは鞄でした
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プロローグ 幻影の兎(1)

一行42文字、句読点ぶら下げが基準になっておりますともさー。

文字がキチキチ? 設定は自分で変えるものさー。

作者は物語が終わるまで感想返しをしない生き物さー。


ゲッツレィディ? イェェ!!

「ええいっ! 異世界ウサギとは、こうも好戦的なナマモノなのかっ!?」

 対象名、アルミラージュ。

 その角一本。人を突き刺してなお余りある鋭く長き一本ツノなり。

 幻影の名に恥じぬその速力。人の目に映るのは残像のみ。ゆえにミラージュ。

 トタタタと、草原の土を叩く足音だけを頼りに俺は死中に活路を見出していた。目を閉じて何も見えず。だが、視界よりも聴覚を頼りにした方が、人の反応はコンマ何秒ほど早いのだ。

 ここは、ヘルムート草原。王都より直線で三十キロほどを徒歩で歩み、分け入った先の草むらの中である。この丈の長い草の中からウサギを見つけるのは大変だなぁ、などと牧歌的に考えていたなら、幸いにも向こうがこちらを見つけてくれた。

 膝上の草栄えに、膝下大のツノ付きウサギ。

 これほど悪意ある組み合わせはあるだろうか? いや、無い!!

 最初の一矢を避けられたのはただの偶然だった。十二時の方向、正面から何かの音が聞こえ、俺の中の眠れる野生が身を翻させていた。ただ、草むらの中に身を伏せた。

 直後!!

 俺の頭上を飛び越えて言ったのは、一本ツノのウサギらしき影。ただし、俺の知るウサギより三周りは大きい。ちょっとした中型犬の大きさだ。そしてツノはちょっとした槍だ。そして何より俺の知るウサギは砲弾のような速度では走らない。

 偶然とは言え、異世界に連れて来られたこの俺。いつまでも国の庇護下で腐っていても仕方が無いと、男として思うにいたるところあり。

 ファンタジー世界名物、冒険者ギルドへの登録に訪れたのだが、そこで入会の試しとして勧められたのがツノ付きウサギ狩りであった。

「六時に異音を感!! 緊急避難≪地伏犬如ふせひめ≫!!」

 背面から俺の頭上を飛び越えて、突き抜けていく様はもはや槍ではなくロケット弾。頭上と述べたが、そこは俺の元心臓の位置だ。

 俺は逃げ出した!! しかし、回り込まれた!! さらに俺を中心とした周回運動を開始。

 この異世界ウサギ、俺を生かして帰す気が毛の筋たりとも無いようでしたー!!

「草食動物界最弱クラスがこれだとすると、この世界の肉食動物って生きるの大変だよなぁ。だが、俺とてクラスのドッジボールにて変態避けのレイちゃんと呼ばれた男よ。その二つ名は伊達ではない。東山小学校の皆、見守ってくれ! 異世界だけどな!! あと、ドッジボールってキャッチ出来ないと基本的に戦力外通告だったけどね!! 突き指が怖かったんだ!!」

 戦うことは早々に諦めた。逃げることは次に諦めた。だが、生きることは諦めなかった。

 ただ、ひたすらに避け続け、相手が疲れ果てることを待つ持久戦。

 このアルミラージュ、周回速度が異常なのだ。少なくとも、快速電車が駅を通過する速度よりも早い。バッティングセンターの最速よりも早い。だが、音速よりは僅かに遅い!!

 丸い円周上を走るため、飛び掛る際には一度足を止めて目標に向け九十度の角度変更を要する。それから大地を蹴って飛び掛るだけのタイムロスが存在する。つまりは避けられる!!

 俺は、三百六十度を十二の方位に分け、角度を大きく変えて飛びかかる、一瞬の足の乱れを察知して生き延びてきた。一矢を避けるたびに走馬灯が走る。


『武器や防具は装備しなくちゃ意味が無いんだぜ?』

 何を当たり前のことを、そう鼻で笑ってスミマセンでした!!

 武器や防具は正しく装備してこそ効果があるのだ。身に着けることと装備する事は近くて遠い。防具は正しく着用しなければ身体の動きを阻害し、むしろ防御力は落ちるものだった。

 木製バットのグリップ。その握り方を左右逆の出鱈目にしてホームランが打てるだろうか?

 あのRPGの当たり前すぎる至言には、こんな隠された真なる意味があったとは知りませんでした。

 ありがとう武器屋のおっちゃん!!

 でもね、アンタが教えてくれた、このヘルムート平原にて現在進行形で死にかけてるんだけどね!?


「三時! 緊急回避≪土ノ香どげざ≫!!」

 くぅっ! 真横から、腕ごと貫いてでも致死の一撃を与えられる自信があるというのかっ!?

 うん、確かに死ねるだけの確信は俺にもあるわ!! その判断は正しいぞ、異世界ウサギ!!


『意識を集中してー、剣に魔力を込めるのです。……だーかーらー、魔力を込めて放つのです!! こう!! ギューッとしてズバババって感じで!! 魔力込めるのです! 早く!!』

 剣聖の愛弟子と呼ばれしアルエット。そんな擬音タップリで教えられても、さっぱりです。

 剣は見て盗め。その教えは至言だと思いました。

 でもね、剣を構えた状態と、剣を振り終えた状態。その間のコマが抜け落ちていたので、さっぱり盗めませんでした。

 振り切った後に、たわわなおっぱいが、ぽよよんと揺れることだけは解りました。

 あぁ、つまり剣を速く振りたければ、巨乳になれということだったのでしょうか?

 男子として、それは盗めませぬな!!


「八時!! ≪月面宙半前廻受身ムーンサルトもどき≫!!」

 これだけ走り回っても、いまだ息を切らさぬとは……異世界のウサギは化け物か!! そして、そこまで血に飢えているのか!! ウサギだからと舐めて掛かった己の迂闊が憎いぞ!!


『見えない敵と戦うには、魔力を感じるんですよ~? 目に頼るよりも、ずっとずっと正確に捉えられるんですよ~。……あれ? レイジさんからは、何の魔力も感じられませんね~? これは~、とても不思議ですね~? 解剖しても良いですか~?』

 駄目です、宮廷魔術師のマリエルさん。聖魔の愛し子マリエルさん。

 男の肉体を、その柔らかな手でまさぐることは許します。ですが解剖はお止めください。

 それから異世界の原理を知りたいからって、俺の体で色々と化学反応を試さないでください。

 異世界人も普通に硫酸には溶けますからっ!! 試すなら髪の毛で良いでしょう!? 指先である必要がどこにっ!?


「十時!! ≪後方五体倒置法グランドクロス≫!!」

 俺の真上を飛んでいく。もはや跳ぶではなく、飛ぶ。電気羊は夢を見て、異世界ウサギは空を飛ぶ。異世界のものは飛ぶことが大好きなのだなぁ。


『えーっと。レイジ=サクマさんの現在のレベルはですねー、……ゼロっ!? うそっ!? また機材の故障ですか!? また、修理費用が嵩むのですかー!? また今月も大赤字なのですかー!! ティータは故障の事実なんて知りたくはありませんでしたー!! これの修理費、お高いんですよー!!』

 冒険者ギルドのマスター。金髪に翠眼の美少女、ティータちゃん十二歳は顔を蒼ざめさせていた。

 だけど、そのレベル計測装置は正常です。そのレベル計は壊れていません。保証します。

 そもそもレベルってなんだろうと常々思ってたけど、体内の魔力圧のことだったんだねー。

 そして俺は太陽系第三惑星地球の生まれ。もちろん魔力なんてものは一ミリグラムたりとも持っていない。持っていたなら地球で奇跡の人扱いさ!

 だからレベル一ではなく、レベル零で正解なのです。

 いや、驚いたわ。一だと思ってたら零って。この異世界、俺に優しくない。

 しかし、レベルを測る装置が血圧計と同じ原理で魔力圧を計るものだとは思わなかったけどね。シュコーシュコーって空気を抜いて、手に巻いた魔力帯で魔力圧を計るなんてね。

 あ、もしかして朝と夜でレベルが変わったりするのかな?


 ――――総合すると、地球人に異世界の自然界は厳しすぎます。

 考えてみれば雄大なる大自然は、地球でも現代人には厳しいものでした!!

 しかし、最弱クラスと呼ばれるツノ付きウサギが、こんなにも凶悪なモンスターだとは!!

 神様、贅沢は言いません。聖なるAK47カラシニコフをください! 聖なる無限のマガジン付きで!! 聖なる中国産のコピー品でも良いですから至急応援を求めます!! お願いします!! 出来ましたら聖なる手榴弾もー!!


「十二時!? 正面とは舐めてくれるな!! ≪仏陀涅槃像よこになる≫!!」

 俺は地に横倒しの姿勢となり、致死の一撃を避けるため大地と一体になった。


 ……奴は、笑っていたよ。確かに笑っていたんだよ。ウサギはクスクスと笑っていたよ。

 ピタリと足を止めただけ。まだ、飛んで居なかったんだ。その黒目がちな邪悪なるつぶらな瞳で俺をしっかりと捉えていたよ。ニヤリと俺をばかにするように、いや、実際に馬鹿にしていたんだろうね。

 アルミラージュ。一歩目で時速百キロ、二歩目で時速二百キロを超える奴にとって、必死で起き上がろうともがく俺の姿はスローモーションに見えたことだろう。

 絶命の一矢。必滅の尖角。硬くて鋭い一本角が俺の心臓目掛けて……。あぁ、こんなことなら皮の鎧ではなく鋼鉄の胸甲にしておけば……。

 せめてお前のツノに、僅かなりとも俺の傷跡を残せただろうによ――――。


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