第1楽章 イタズラの代償
10月22日(水)
昨日、20日夜の嫌がらせもかねて、たくさん祭壇を作った。
すると、祭壇画の青の女神様の絵、すべてに、ヒゲが書き加えられていた。
犯人を突き止めようと思う。
『キオの青春サヨウナラ日記』より
「はい、みなさん、集合――――!!!」
キオは、女神の異変に、朝の礼拝で気付いていたが、集合をかけたのは昼過ぎにした。礼拝は朝5時なので、そんな時間帯にたたき起こすと、さすがに殺されると思ったからだ。
「誰がやったんですか、コレ!」
キオが、青の女神の絵を、びしっと突き出すと、誰ともなく笑いが広がった。
「笑っちゃダメ!」
それでも、笑い止まない。
「追加呪いを、かけられますよ!」
みんな、口元を引き結ぶ。
「いいんじゃない?なんか、面白いし」
「面白い祭壇なんて、祭壇じゃないです!それは、もう祭壇以外のなにかです!誰がやったんですか!」
教会からの借り物に、こんなことをされてはゼペット司祭様にも、青の女神様にも申し訳が立たない。キオの並々ならぬ様子に、みんな、なんとなく視線をそらす。
もちろん、名乗り出る者はいない。
「分かりました。じゃあ、みんな目をつぶってください」
キオの言葉を、不思議がりながら、猟奇殺人鬼たちは目を閉じる。
「みんなの前で名乗るのが恥ずかしいなら、僕にだけ教えてください。女神様にヒゲをつけた人は、黙ったまま手をあげてください」
さて、一体だれがやったのか。
そろそろと、ひとりの手が上がる。
……いや、それはない。
1番ない、と思っていた人物である。
グラン・ジンジャー・ボーデンが、女神様にヒゲを書き足した?
「それは、ないだろぉぉおおおお!!!」
キオの絶叫に、みんなが目を開く。
「おかしいですよ、これは作為的なものを感じますよ、僕は!!」
歩き回るキオに、声がかかる。
「ねぇ、もう犯人分かったんでしょ〜?」
「部屋に帰ってい〜い?」
「イ〜イ?」
キオの直感が囁いた。
犯人は、こいつらだ……この3人だ、多分。
リジー・ドット。
ディーン・クレンペラー。
ペーズリー・ハワード・ゲイン。
3人は、へっへっへと、あくどい顔で笑っている。ペーズリーに関しては顔が見えないが。
「……まだ、犯人が分かったわけじゃありません」
「なんで?だって、グランが――」
「はい、そこぉぉおお!!」
キオのものすごい反射神経に、ビクーン!とペーズリーが猫耳を立てた。
「なんで、目をつぶっていたのに、グランが手を上げたと知ってるんですか」
指されたリジーは、一瞬、しまった、というような表情をした。
「もちろん、僕は疑っているわけじゃありません。でも、グランがこんなことするとも思えません。むしろ、こういうしょーもないイタズラに一番反応しそうなリジーとディーン。そして、猫耳で疾しさを表現したペーズリーに話を聞きたいですね」
疑っていないと言いつつ、名指しのキオ。
3人は、当然、揃って潔白を訴え始めた。
「オイラじゃないでーす。グランでーす」
「そうそう、だって、グランがやれって言ったんだもん」
「グラン ダモン」
なんだ、この性質の悪い小学生みたいなのは……。
というか、リジー、自分がやったことは自供しちゃったよ。
「あのね、リジー。グランは、お話しないでしょう?どうやって命令されたんですか?」
キオに至近距離で詰め寄られ、リジーが目を泳がせる。
「……ね、念波で」
「…………」
「…………」
ディーンと、ペーズリーが、それは無理がある、と言いたそうな目をリジーに向ける。
「や、待った、念波ではないよ、うん。それはね、わたしもムリがあるなーって分かってから。えーと……手話で命令を……手話できたっけ、お前」
リジーに問われ、グランはふるふると首を振った。
「……筆談は?」
再び、ふるふると首をふるグラン。
「コミュニケーション方法ないのかよ!お前ができるのって、『はい』と『いいえ』だけ!?」
こくんとグランが頷く。
「…………」
キオは、リジーが、どういう対応策をとるのか、静かに観察している。
ややあって、リジーがつぶやいた。
「…………キオ、じゃあ、念波で」
「今の会話聞いてたら、完全にリジーが犯人じゃないですかぁあああ!!」
「くっそう!バレたか!」
「くっそう、じゃないですよ!なんなんですか、その小細工!いたずらだけならいざ知らず、嘘をついて、人に罪をなすりつけようとするなんて、言語道断!罰則です!」
「そんな、キオったら大胆……」
「なんで、ジルが嬉しそうな顔するんですか!?」
脊椎反射が下半身に通じているんだろうか、この人は。
アイリーンが、隣で汚物でも見るような顔をしている。
「リジーは、女神様のヒゲを落としておいてください!」
「でも、ディーンとペーズリーもやってたし!」
傍観者に回っていた、ディーンとペーズリーが、ぎくりと肩を揺らす。
さすが、赤ずきん。仲間を売るのが早い。
「リジー、人がやってたら、自分もやっていいんですか?じゃあ、リジーは、ディーンが車にひかれたら、一緒にひかれるんですか。ジルが全裸で踊ってたら、一緒になって踊るんですか。そんなことしないでしょう?」
「え、なんで、私?」
キオは、ジルの問いを華麗に無視した。
「3人で仲良く、直してください」
高らかに宣告され、3人は文句を言いつつも、従う意思をみせた。
「でも、油性ペンで書いたから、落ちないよ?白い絵の具で隠したら、白ヒゲになるし」
「肌色の絵の具で隠せばいいじゃないですか」
「赤は?」
「それじゃ、鼻血になるでしょ!変なこだわりはいいですから、肌色でお願いします!」
絵の具なんて手元にないから、まず買いに行かなければならない。しかし、余計な出費を嫌うキオは、絵を直すかわりに、ホールの掃除を命じた。
「あーあ、グランのせいで」
ディーンの言葉に、無表情な大男が、なんとなく申し訳なさそうにする。
「人のせいにしないの!」
リジーが、ひそかにグランを蹴っている。
「人を蹴らないの!罰則追加です!」
抗議の悲鳴を無視し、キオはディーンとリジーに、皿洗いを命じた。
ここは、まるで、保育園か小学校、あるいは動物園です。
ゼペット司祭様、僕は今日も頑張っています。
【本日のキオに対する好感度】
リジー +1(怒られたけど、こいつ面白い)
ディーン +1(怒られたけど、かまってもらえた!)
ペーズリー −1(オコラレタ)
ジル +1(むしろ、怒られたかった)
アイリーン −1(しょうもないことで、いちいち呼び出さないで)
グラン +2(なんか、かばってもらえた)