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黒髪灼眼って何か混ざってませんか? つーか何あいつ超重症じゃん。

 葵夜風です。

 この作品は本当に思い切り思いつきの作品でありまして、ふと中二病ヒロインを描きたいと思ったことから始まったんです。いや、もう本当に思いつきで、ストーリーの行く末が全然見えません。だって考えてませんもん。

 でもそうなだけあってこれは『戦争の醜さ』や『命の大切さ』などを伝えることをコンセプトとしたラノベの割にストーリーの重い『Bullet Author』よりも気楽に楽しめると思うんですよ。あ、もちろんあっちも自分が気に入ってるから描いてるんであって読んでみてくれてもいいんじゃないかなぁ、いやむしろ読めとは思ってますがね。

 結論を言うと、これは本当にそれはもう本当に気楽に楽しんでくださいってことです。

 では、どうぞ。

 我は、ロキ・フェン・ディシィーズ。《終焉へ誘いし者(デスエンドルーラー)》だ。そんな崇高なる我が、この世界を語ってやろう。

 この世界には魔力という概念が存在し(せず)、魔術を使いこなす人々がいる(いない)。だが、それを為せるものは極少数である(一人もいない)。極一部の、《神に仕えし神官(サーバント・オブ・ザ・ゴッド)》――即ち我々の敵(じゃない)と、我と我が眷属のみだ(そいつらも使えない)。我々と奴等は、悠久の過去、長い長い千年戦争を経た(経ていない)。そして、その後物語は完結し、世界が消滅した(していない)。忌々しき、いや、一般人に解りやすくいうと神々しき光に包まれ、純白に包まれ、世界は消滅した(していない)。そして、その虚空で、新しい物語を紡ぎ始めた新世界は、再び形をなし人類を繁栄させ、我々を再び甦らせた(甦らせていない)。身体こそ違えど能力はまだ宿っている(宿っていない)。記憶も鮮明だ(鮮明でない)。そして、現代――人界歴(西暦)二○一三年、再び全ての物語は繰り返され、D.C.のように初めに戻ってまた――

 

 ……なんて妄想をしていたのは、それこそ悠久の過去の話である。

 俺――夢乃悠人はもうそんな妄想をしない。何故なら、しても無駄だからだ。合理性も効率性も皆無。いちいち硬い言い回しをすれば会話が停滞するし、妄想をノートに記せばノートのページが無駄になる。その間に勉強でもしていればよほど将来のためになるだろうし、何より自分のためになる。本を読めば語彙力が付くし、英語を聞けば耳が英語に慣れていく。ニュースを見たり新聞を読んだりすれば現在の世界事情をいち早く知ることができるし、朝にランニングでもすれば体力は付くわ基礎大謝は上がるわ新鮮な空気は吸えるわ身体は目覚めるわで一石二鳥どころの騒ぎではない。

 だが俺は、そうだと理屈では解っていても、やはり少し――かつてよりは現実味はあるが――妄想をしてしまうのだ。

 ――科学が進めば魔力も一原子として発見されるのではないか。

 ――世の中には魔術者たる存在もいるのではないか。


 ――この世界の果てには、何があるのだろうか。


 それを、自分の眼で確かめてみたい。世界を知って、果てを知って、真実を知りたい。近付いて、触れて、感じたい。


 ――俺の世界を、構築したい。


 

 到底俺の妄想癖は消えそうにありません。










「何なんですか一体」

 ある日の放課後、俺は気が付くと職員室の静先生机の前に立たされて、尋問されていた。静は教育指導兼俺のクラスの担任で、綺麗でつやがある、滑るような黒の長髪と、服がはち切れそうな程にまで膨れ上がった豊満な胸と、肉感のある太腿をした、エロ巨乳ビッチ三十路教師である。ちなみに静というのは名字である。今も、椅子の上で脚を見せ付けるように組み、腕を組んでその爆乳をこれまた見せ付けるように持ち上げ、あろうことか両腕で軽く胸を挟み込んでただでさえ深い谷間を更に強調させている。最早誘っているようにしか思えない。本当にこんな教師いたんだ……2次元だけだと思ってた、と最初は大層驚かされたものだ。

 だが、それを口にすることはしない。時間の無駄だし、それに別に向こうも本当に見せ付けている訳ではあるまい。

「何なんだ……って解らんのか?」

 というセリフが飛び出すとき、大抵は本人が自覚している。つまり、自覚したうえでの悪事などに対して使われるセリフであるそれは、自覚が一切ない今回の場合に於いては全くの誤用であるということだ。

「あの……ぜんっぜん覚えがないんですけど。何かしましたかね俺。テストでも悪い点取ってませんし、てかむしろかなり上位でしたし? それに別に器物損害とかそういうことしたわけでもありませんし? 勿論襲ったりとか人倫に悖ることもしてませんよ?」

 ちなみにそういうのも嫌いではない。レイプ系も行きすぎるとアレだがそうでなければ……いや、そんなこと考えるのはやめよう。見透かされるような気分になってしまう。

「そうだな。そういうものではないな、確かに。いや、むしろ逆だ」

「逆?」

 全然意味が解らない。この言葉をそのまま解釈すれば善行を咎めるということになるのだから最早おかしい以外の何物でもなかろう。

「そうだ、その通りだ。お前は確かに何も悪いことはしていない。点も取るし、職務も全うするタイプだ。かといって運動音痴のガリ勉君という訳でもない。無論、人倫に悖る行為もしていないのだろう。だが、妄想はするだろう?」

 本当に見透かされていたのだろうか。相当不安になる。

「も、妄想!? 妄想って、そりゃ人間誰しもするじゃないですかそんなもの」

「確かに、その通りだ。だが、――お前もそうなのかも知れないが――妄想の著しい人種がいるだろう。ほら、何といったかな……」

 もしかして俺の過去のことを……いや、それなら今更言うまい。もう高二なのだから、一年経ったのだから。

「『中二病』ですか?」

「そう、それだ」

 この教師はそんな言葉も知っていたりするらしい。

「で、それがどうかしたんですか」

 少し疲れた様子で問う。

「ああ、それがな、この学校にもいるんだよそういうのが。まあ傍から見てても一目瞭然だろうからお前も気付くだろうがな。まあお前とはクラスが違うから見たことはないかも知れん。その……中二病にも何種類か人種があるようだが、特に目立つ奴でイタい感じの『中』じゃなくて『厨』、厨房の『厨』に置換することもままあるというアレだよ」

 何故そこまで詳細な情報が出てくるのに中二病の名前を忘れていたんだ、と問うてはいけないのだろうか。

 とりあえず質問に答えよう。

「『邪気眼系』のことですかね。不良ぶる『DOQ系』、マイナー方向に走る『サブカル系』よりも明らかにイタいといえば」

「そうだ、それだ。てか、お前詳しいな。もしかして……」

 やばい、それだけは言及されてはいけない。

「先生、続きをどうぞ。俺も忙しいんですから早く」

 ここで、よく2次元のキャラがやるように『あ――――――、聞こえなぁ―――――――――い!』と言ってしまえばそうですと言っているようなものだ。流石にそこまで馬鹿ではない俺は、一切の冷や汗を掻かずクールに流して見せる。ちなみにここで『あー!もーっ!ギ○ーッ!!』と叫ぶこともない。ちなみに、『あ』に濁点がないことは忘れてくれ。

「そ、そうだな。それでだ、お前、さっき忙しいとかいってたけどそれも妄言だろう? 何故忙しいか言ってみろ、一応聞いてやる」

「そ、それは勉強ですよ! 勉強! 俺東大狙ってるんですから!」

 先程よりも言われてもガラスのハートにヒビの入る内容ではなかったのでつい気を緩めてしまい、それこそ妄言を吐いてしまった。しまった、油断大敵なのに。

 だが、これも慌てるときは慌てる子だからさっき忙しいとかいって流したのは本当は流したかった訳ではなく純粋に先を聞きたかったのだろうな、と思わせることができるので作戦のうちだ。……という後付け設定じゃいけませんかね。

「はっ、それこそ妄言だろう。さあ、素直に言ってみたまえよ」

「はあ、仕方ありませんね。アニメ消化とかラノベ消化とかマンガ消化とかゲーム消化とかTL監視とか2ch徘徊とかね、色々あるんですよ」

 開き直って一気に捲し立てる。『うわあ、何こいつ廃人じゃん』とか思われたって今更傷付くこともないので平気で言える。

「うわあ、何こいつ廃人じゃん。……とか言われても今更傷付くこともないのだろうな。でも、それが理由なら……」

 思い切り睨まれる。眼光が鋭すぎて一瞬猛禽かと思ってしまった。静なら猛るな。猛ってもないけど。

「すいません忙しくないです一般人の見解では。でも俺はとにかく忙し――」

「アルファが何か言ってるが気にしない気にしない。で、――てか話進めてもいいか?」

「どうぞ」

 拒絶するという選択肢を想定してすらいない癖に今更訊くな、とは言えない。

「じゃあ続けよう。ゴホン。じゃあお前の夢を少し語ってみたまえ」

 話が進んだどころかむしろ後退したんじゃ……と思うが静が進んだというのならそうなのだろう。この会話は全てあいつが回しているのだから。

「夢ですか。まあ夢って言っても今更努力して何かするつもりもありませんし普通にサラリーマンとかになれれば、と。このご時世、就職できるだけでもまだマシでしょう? ただ、強いて現実から離れるのならば科学者になったりパイロットや船乗になるというのもいいかも知れません、と思っています」

「その心は?」

「科学者になって本当にマナとかその類の物質はないのかというのを研究してみたり、世界中を飛行したり航海したりして世界の果てを見てみたりですかね」

 何か真面目に語っている気がしてきた。何だこれ。

「ふむ、なかなか悪くはないと思うぞ。だが、『マナ』とか言っているあたり、今の記憶と悠久の過去の記憶が綯い交ぜになっているのではないか?」

 やっぱり俺の過去知ってたんですか。策士ロ――悠人の華麗なスルーは無駄だったんですか。

「何ですか悠久の過去って。何中二病に因んでるんですか」

「別に因んでる、という訳でもないが。まあいいだろう、とにかくその夢は立派だ。夢乃の夢だしな」

 辛うじて流すことに成功したようだが、最後の言葉は少し看過しがたかった。別に今更キレることもないが昔から『夢の悠人!』とか念願の悠人という名前だ、よかったな、みたいな意味不明なニュアンスを含む言葉でからかわれることがよくあった。全く、餓鬼の考えることはよく解らん。後は『夢乃ちゃん』とか言われたが、そんなことを言われ続けたせいか俺はこういうときに流すのが得意になった。流石、賢しき俺だ。

「夢乃の夢とか夢繋がりで掛けるのやめてくれませんか。それ、トラウマあるんですよ」

「その口ぶりだとトラウマに聞えんぞ?」

「確かに、今はそんなことで落ち込んでいては時間の無駄、効率が悪いと思っているので反応しないようにしているからそう見えるのも仕方がありません。でも、先生気付いてるか知りませんけど結構俺話流していってますよ? この名字のせいで手に入れたスキル、《リディキュールスルー》で」

 名字、という言葉を発したとき、名前じゃなくてよかったぁ、と思う自分がいた。

「そうか、悪いな。じゃあそんな夢を持つお前だが、勝手にそれを不可能だと断じ合理性だけでサラリーマンなどという平凡な職を選択している自分もいるのだろう? つまり、極端な妄想をする中二病ではないがその成分をやや含み、同時に極端に現実的で普通であろうと、理屈と正論だけで片付けてしまおうとして逆に捻くれているように見えすらする……ええっと……」

「『高二病』ですか」

 この人は用語だけはなかなか覚えられない人らしい。そういう病気なのだろうか、中二病とかみたいな精神系の。いや、記憶なら脳か。どうでもいい。

「それだ。……その高二病という訳でもないがその成分もやや含む。妄想するがそれを自制し現実的に塗り替えようとする。常に葛藤し続ける人種だ」

 そこで一旦区切り、静は俯いて思案顔になる。だが、その顔をしていたのはほんの僅かな間で、すぐに顔を上げた。


「――そうだな『半中二半高二病』とでも言おうか。別名『葛藤病』」


 そんな病名は当然存在しない。言ってしまえば中二病も病気ではないのだが、そうではなく、その『半中二半高二病』とやらは本当に存在しない名称なのだ。つまり、静が一瞬の沈黙のうちに考えたということになる。

「何ですかそれ。てかそれ俺のことですか」

「そうでないなら誰だというんだ。ああ、そうだ、少し解りにくい説明をしていたかも知れんな。一文が長すぎたかも知れない。まあ端的に言うとだな、理想と現実へ馳せる思いの乖離があるとでも言えばいいのかな。まあそんな人種だ」

 あまり端的になっていない気がするが、これも言わない。てかこの話をさっさと終わらせたい。

「てか何で別名まで付けたし。別にいらないじゃないですか」

「それは呼びやすさ考慮だ」

 いらぬところに配慮をするな。こんな会話に付き合わされてる俺に斟酌しろ。

「それで? だからどうしたっていうんですか。てかこの学校にいる中二病の話はどこへ行った」

「……そうだ、それだ。その話をしていたんだった」

 もしかしてこの人、話題忘れてたの? もし本当にそうだったら少し記憶障害を患っているのかも知れない。ただ、ここで他人を慮れる俺は本当に患っているかも知れない静にこの話を振り気分を陰鬱にさせたりなどしない。

「それで、そいつがどうかしたんですか」

「いや、教育指導の身としてはだな、高二にもなっていつまでもああいう言動や挙動を取られていては将来が非常に心配なわけなんだよ。あのまま大学に行って、就職して、生きていけると思うか? というかその前に、どうやって入試の面接潜り抜けた、と訊きたいんだが」

 確かに、将来を心配する気持ちは解る。妄想癖を早く取り除かないと将来が危うい。と、俺が言えた義理ではないが。

「それは本人に訊いてください。――とにかく、先生はそいつが心配な訳ですね。で?」

「何だ、その気怠げな態度は。真面目に訊いているのか?」

 困ったような顔をしているように一見見えるが、口許が少しニヤけている。お前わざとやってるだろ絶対。

「いいから言ってください」

「はいはい。――それでだ、その件についてお前に相談に乗ってほしいんだ」

 相談に乗ってほしい。そのセリフは相談、つまり一種の会話を始める一番初めに置かれるものだ。つまり――。

「前置き長えよっっっっっ!!!」

 気が付けば、職員室で思い切り叫んでいた。しまった、やばい、どうしよう。

「まあまあ。大丈夫だ、中身は少ない」

「甲殻類でごつい図体してる割に中身が少なかったみたいなハズレの蟹かロブスターかっての」

 今の喩えはあまり上手くなかった。全然上手くなかった。

「まあ相談と言っても既に結論は纏まっているんだ。後は承諾を得るのみ」

 まあでも、そろそろ終わるというのであれば、それに越したことはない。

「で、その結論というのは」

「ああ。――お前は半中二半高二病、つまり中二病スキルをもって中二病である者の気持ちを察しつつ、己の経験に基づいて高二病スキルでそれを無くさせることができるのではないかと思っているのだ。ああいう奴の気持ちが一切解らない私より余程役に立つだろう。だから、頼まれてくれないか」

 めんどくさっ。マジめんどくさい。

「条件にもよりますね。もしそいつが可愛い、もうホントに超可愛い女子で、しかもその子とのラブコメ展開とかを約束してくれるのであれば、引き受けましょう。この際清楚系でもロリ系でもツンデレでも何でも構いません。巨乳じゃなくて貧乳でも嫁にくれるのであれば『貧乳はステータスだ』と言ってみせます。ただ、あたかもオタクで本当にオタクなキモデブ男とかはNGですよ? 男の娘はギリセーフとしますが、それもそこらのギャルを軽く凌駕する『萌え』がないと却下です」

「お前……マジで引くクラスの変態だな。『好きなエロゲは?』『星○か!』とかやめてくれよ。あ、今のは一例な。つーかお前高二だろ。って、そうじゃなくて。そんな表最良裏最悪な夢乃な訳だが、一応条件には合致するから引き受けてもらおうか」

 冗談のつもりだったんだけど、マジっすか。ちなみに星○かも好きです。ゲームの方もプレイしましたしアニメもリアルタイムで見ました。ラスト超泣けた。

「じゃあ一応属性を聞きます。何属性ですか?」

「それはお楽しみにしたらどうだ? まあ、中二病を除けばそこそこいい性格してると思うぞ。だからオンリーツンじゃあない」

「そうか。よかった。オンリーツンだけは2次元限定にしてるんですよ、俺。ツンデレはまだなんとかOKですが。できればデレが――」

「解った解った。今はお前とそんな話をしているのではない。てか場所考えろよ」

 そう言われて気付く。ここが職員室だったということに。

 人生が終わる気がした。

「あ、しまった……。職員室でしたほんっとすんません」

「まあよく解ったよ、お前が変態なことは。今度カフェにでも言って二人で語らおう」

 薄々気付いてはいたが、この教師はやはり変態のようだ。もしかしたらエロボディを見せ付けているのもわざとかも知れない。犯してやろうか。

「そうですね。そうしましょう。あ、後できればその後ラブ――」

 周囲の視線が恐ろしく痛い。

「すいません自重します。で、そいつはどこにいるんですか? 中二病を治させるのは相当難しい――それこそ癌細胞取り除くよりも余裕で難しいかも知れませんが頑張ってみます。一応――これは高二病成分だな、とか思うのかも知れませんが――ネットでは俺の嫁とか言ってても実際はちゃんとした家庭を築きたいとか思っているので未来の嫁のためなら引き受けざるを得ないでしょう」

「おお、引き受けてくれるか。お前はそういう奴だと思っていたよ、今度飲みに――ゴホン、カフェにでも行こう」

 それさっきも行ってたよな。どんだけ俺と行きたいのどんだけ俺と語りたいのサブカルについて。

「解りましたって、今度行きましょう。そして語りましょう。で、そいつはどこにいるんですかって」

「ああ、じゃあ今日はお前と同じく帰宅部のあいつは帰ってるかも知れないから明日の放課後に――そうだな、廃部された元文芸部用の部室で今は空いている文芸室に来い。そこにあいつも呼んでおく」

 ということは今日はもう帰れるということか、と真っ先に思った。話マジ長ぇ。でも逆に語るときは語れるよな。

「解りました。あ、一つ言っておきますがこういうときは先生は割り込まず、さり気なく俺とその子を逢わせるんですよ。シチュエーションも大切ですからね」

「そうだな。じゃあそういうことにしておこう。よし、今日は帰ってよし」

 ついに帰宅許可が下りた。これ程嬉しいことが他にあろうか。いや、ある。正直超ある。

「帰宅許可、ありがとうございます! 今度語りましょうね」

そして職員室を出て、最後に、

「失礼しました」

と言って扉を閉め、猛ダッシュで帰宅した。



 次の日の放課後、俺は言われた通り文芸室へ向かった。旧校舎四階という何でこんなに遠いの、と嘆かざるを得ない程遠い位置にある教室へのんびりと向かい、十分ほどかけてようやく着いた。

 そして、その教室の扉に手を掛ける。ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえた。

 そして、扉を開いた。


「なっ……」


 絶句した。

 そこにいたのは、小柄で、あどけない顔をした、まるで一輪の花のような少女だった。強い西日が窓から入り込み、その光を受け逆光的に暗がりになっているが、それでもそこから放たれる圧倒的な可愛さ、体躯の瀟洒さ、華奢さはよく解る。

 室内に、香しい香りが漂う。そしてその香りが鼻腔をくすぐる度に癒されるような感じになる。

 だが、その少女は左目が黒眼なのにも関わらず、右目は灼眼だった。

 右目の灼眼が陽光を受けて燃えるように炯々と光り、そして少女は口を開く。


「お前か、私に用があるというのは。《劫火を宿し灼眼(デストラクションアイ)》の使い手であるこの私、フレイア・ヴィ・ド・パイロ・デストラクト・焔に言いたいことがあるなんて上等だな」


 ……重症だ。恐ろしく、おっそろしく、それはもう恐ろしく重症だ。

 かつての俺を見ているようで胸が苦しくなりました。

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