いち。郷には入っては郷に従え…○
無理に常識を貫き通すより、あきらめて非常識を常識にした方が早い事もある。
俺の知り合いはどうも変わってるらしいな
まぁ、大体にして年がら年中つなぎ姿の俺も変わり者なのだが
そんな俺と比べ物にならないぐらいの奴が知り合いな訳で…
別にだからといって騒ぎ立てるのも柄じゃないけど
ぴ〜んぽ〜ん
「…………」
ぴんぽ〜ん
「………」
ぴんぽんぴんぽん
「……」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
「…ッ!判った判った!今でるっつうの!」
朝からチャイムを連呼する奴はどうやら近所迷惑と言う言葉を知らないらしい
俺は嫌々ながら布団からはいだして玄関に向かった
その間もチャイムはけたたましく鳴り響いている
ソイツに脳はあるのか?
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
「はいはいはい!どちら様ッ……………………」
「はーろーん♪おはようごさいます羽莉雨君」
「あ、あ…………」
勢いよく扉を開けると玄関に立っていたのは可愛げのかけらも無い兎だった
「いやいやいや、朝っからつなぎすがたなのかね?君は」
風船配ってそうな兎になんざ言われたかねぇし
扉を閉めようとすると兎は慌てて扉を掴んだ
「僕はラビット…って見れば判るかな。ま、そんな事はどうでもいい。お世話になるよ」
そう言って兎…もといラビットは玄関に上がろうとした
俺は慌てて押しとどめる
「まてまてまて。貴様誰だ?第一、その学ランは俺の高校だろ?高山か?進藤か?藤倉か?」
「ノンノン、僕はラビット。ラ・ビッ・ト。判るだろう?」
ご丁寧に指を振りながら答えてくる
何処となく兎顔の笑顔がどや顔に見えた
「…うぜぇ」
「失礼だね君は。礼儀を知らないのかい」
「その言葉…そっくりそのまま投げ返してやるよ」
俺は良く我慢していると思う
偉いぞ俺
こいつを追い払うには右下から拳をいれるか、脇腹に肘を入れるか考えていたら後ろから声がかかった
「兄さん、どうし…………」
「あ、あーちゃん…」
「嘘、誰それ?兄さん誰なの?まさか僕以外の人が好きになったの?嘘だ、嘘だ!違う、違うよね兄さん。兄さんは僕のだから。そうだよ兄さん。他の人になんか絶対渡さないよ。僕のなんだから。兄さんは僕のだよ。じゃないと僕、何しちゃうか判らないよ。その人殺しちゃうかも。だから兄さんは離れないでよ。兄さんは僕のものだからね。兄さんはどこにも行かないでしょ?ううん、行っちゃうなら僕がその人を消しちゃうだけだもん。兄さんは僕のモノだって言ってよ?ねぇ、兄さん?あれ?なんで?なんで何も言ってくれないの?兄さん…まさか…嘘でしょ兄さん?うん、そうだよね兄さん。兄さんは絶対離れない、離れるはずか無いんだから。だって兄さんは僕のモノだもんね。そう決まってるんだよ?それを一番判ってるのは兄さん、兄さんなんだよ。そうなんだ。ずーっと一緒だからね兄さん。兄さんは誰のモノでもないよ?兄さんは僕のモノだもん。兄さんはずぅっとずーっと僕と一緒。でしょ?兄さん。愛してるよ兄さん。大好きだよ兄さん。だって僕のモノだもん」
あの文を律義に読むなんて芸当はしなくていいからな
あ?読んだ?
同情してやるよ
あーちゃんこと亞莉雨は俺の実の弟であり、俺が言うのも変だが過度のブラコンである
ついでに人間じゃない
「兄さん、こんな兎馬鹿になんか渡さないよ。大体兎なんかより魚の方が綺麗なんだからね!もふっとしただけの兎なんか可愛くないんだよ!」
「失礼だな。君は下半身魚じゃないか。そっちの方がカオスだろう」
ま、つー事だ
亞莉雨は人魚で下半身は魚だ
普段は二本足にもなるけど精神的に疲れるらしい
じゃあお前は?って話だが俺は人間だし正真正銘、亞莉雨は弟だ
生命の神秘ってすごいな
「兄さん、誰コイツ!」
器用にも今は魚の足で地団駄を踏みながら亞莉雨はが叫ぶ
「コイツとは失礼だな、魚君…いや亞莉雨君だったかな?」
「五月蠅いよウサギっ!帰って!ってか何で名前知ってるの!ストーカー!」
「あーちゃん落ち着いて。いま、右ストレートで適当に締め出すから」
俺はそう良いつつ指をコキコキと鳴らす
これでも喧嘩には自信がある
「駄目だよ兄さん。肘鉄もいれなきゃくたばらないよこのウサギ!」
「だったら適当に背負い投げするから。ってことでラビットだっけ?投げるから帰れ」
シッシと手を振りつつ臨戦体制をとると身の危険を悟ったラビットが慌てる
そして…
「いやいやいや…おかしいだろうっ!君達は………こんな事しかできないのっ!?」
ラビットが叫んだ瞬間ポコッと間の抜けた音がしてウサギ頭が外れた…本当に…
「ぎゃあぁぁぁっ!!?ちょっ、ラビット首もげたぁあぁっ!」
「五月蠅いよ…取れて無いって。ホラ」
気だるそうな消えが聞こえて見上げるとクリーム色のブロンドヘアを持った赤い目の青年がいた
というかよくよく見るとウサギ頭はただのかぶりものだった
「うわ、風船配りウサギの下は超絶イケメン」
「失礼なっ。僕はラビット。今日から君んちの居候だからねっ」
どうやらウサギを外すと喋り方が亞莉雨に近いみたいで少しだけ柔らかくなる
一方で亞莉雨は頬を膨らませて怒っていた
しかも足を人型にしてファインティングポーズまでとっていた
「居候なんて許さないよ!ウサギウサギ!ストーカーウサギっ!」
「仕方無いだろう!姉さん達が決めたんだから!」
「…姉さん?」
…何処かで聞いたことがある響きだ
俺は数秒間首をかしげると思い当たる節を見つけて叫んだ
「あっ!忘れてた…伯父さんが来るの今日からじゃん!」
「伯父…?まさか兄さんこのストーカーウサギがそうだっていうの?」
亞莉雨がラビットを見て絶望的な顔をする
隠そうともしないあたり流石は俺の弟だ
「ストーカー?!何言ってんの!ブラコン!」
「ブラコンで何が悪いのっ!ウサギ!…僕は認めないよ!こんなストーカーウサギが伯父さんだなんて!」
「だからストーカーじゃないし!」
「だったらなんだっていうのさ!」
「伯父だっ!」
「知るかっ!」
「知ってろ!」
キャンキャン喚く二人に痺れを切らして俺は腕捲りをすると
「近所迷惑だバカッ!」
勢いよく二人の頭に拳を落とした
「にゃっ!」
「痛!」
二人が頭を抱えて蹲る
恨めしそうに俺を見るラビットを睨み付けて黙らせると俺は口を開いた
「いい?決まった事は決まった事!仕方無いから我慢しろ!それと次に喧嘩したら追い出すからな!」
二人はシュンとした後小さく「はーい」と呟いた
「はぁ…まあいいから、朝飯にするか。ラビット、部屋に上がって。あーちゃん、手伝って」
「うん、兄さん!」
「わかった」
俺は二人を家に押し込んで扉を閉めた
それから扉にもたれかかって溜息をつく
…と、不意に上から声がかかった
『大変だな、主も。俺にあんまり愚痴をこぼすなよ…?』
「甲…」
俺は声のした天井を見上げる
天井には着物を着て胡座をかいた美青年が呆れ顔で見ていた
「甲ぅー…」
『…よしよし。日本男子たるものそれごときで泣くな』
半透明の美青年もとい、幽霊の甲は俺の頭を撫でると苦笑いで言った
彼は同居人であり唯一の俺の愚痴り相手
んでもって常識もそれなりで珍しいぐらいの常識人だ
『しっかし、この家は素晴らしく災難を呼び起こすな…』
「他人事みたいに言うなよ…大体災難を呼ぶのは家だけじゃないだろ?」
俺が溜め息混じりにいうと甲も苦笑いでいった
『この町自体が変わってるからな…けれど、万年つなぎに人魚に幽霊に…とうとう兎!この家が一番だろう?』
「…ひらながなで言わなならんほどの言葉じゃねぇがな」
俺が小声で突っ込むが甲は気にしない様子で言った
『まぁ、仕方無いだろう』
軽く受け流す
そして笑いながら奥を指差して言った
『ともかく…朝飯を作らなくていいのか?』
俺はそれからその先を見て数秒ポカンとしたあと呟く
嗚呼…忘れてた