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少年よ夢を抱け!

「夢」のおはなし。

少年よ夢を抱け!





子供の頃は誰もがヒーローに憧れていて

将来ヒーローになるものだと当然のように思っていた

けど、所詮僕は何の力もないただの人間で

傍観者にしかなれなかった僕は


いつの間にか僕の中のヒーローを忘れていたんだ






気付いたら僕は真っ白な世界にいた。

嗚呼、これ夢なんだなぁって。そう思った瞬間馬鹿らしくなった。


うわぁ僕こんな夢見ちゃってさぁ…つまんないの。もっとスッゲー夢見ろよ。


「その『すっげー夢』ってどんな夢?」

そりゃあ、すっごくカッコいい夢だよ。

「例えば?」


例えば?!あー…うん。ヒーローになって世界を救うみたいな?

…救う…みたい…な…救…う、うう、う


「うわぁぁぁっっっ?!」

「世界を救うのかぁ…うん!すっごくカッコいいね君!」

「君誰?!」


気がつくと僕の前に女の子が立っていた。

茶色の髪にクリクリした大きな黒目をしている。

真っ白な世界で彼女のまわりだけ色に溢れている気がした。

女の子を指さしたまま目を白黒させる僕に女の子はクスクス笑って言う。


「ふふっ…さぁ?誰でしょうか。いーい君、レディに名前を尋ねる時はね男の子が先に名乗るモノなのよ」


名乗るものと言われてもそれが本当なのか何なのか…。

けれど何となくそうしないといけない気がして僕はしどろもどろになりながらも律儀に名乗った。


「えっ、あ、ゴメンなさい…。僕は道端(ミチバタ)って名前です…」

「みちばた君?本当に名前なの?」


ええまあ、よく言われるんだけどそうでーす。

僕が苦笑いで頷くと女の子は訝しげな顔をする。


「…まぁいっか。君が『道端』なら私は『迷子』かもね」


やっぱ信じられてないか…。何時ものことだから気にしないけどさ。

お互いの自己紹介がすむと『迷子』ちゃんは僕に向かってニッコリ笑いかけてきた。


「よろしくね?『道端』君」


すこし首をかしげて笑う姿に僕は一瞬で心を奪われる。

どうしよう、僕の好みど真ん中!


「あっ、う、うん!」


って…イカンイカン、何デレデレしてんの僕!

緩みかけた頬をぺちっと叩いて自分に喝をいれる。

こんな気の抜けた間抜け面じゃ『迷子』ちゃんに変な奴と思われちゃうじゃん。


「…あのね、『道端』君。会ったばかりで悪いんだけどお願いしてもいいかな?」

「はぇ?…あっ!うん!モチロン!良いに決まってるよ!」


むしろ頼ってください。頼りまくってください。僕が格好いいところを見せるチャンスをください。お願いします。


「……ありがとね」


僕が勢いよく頷くと『迷子』ちゃんがホッとした顔をした気がした。

でもそれはすぐに引っ込められて元の笑顔に戻る。


「でも不思議な気分だなぁ。私の夢にこんな男の子が出てくるなんて」

「……………え?」


ちょ、ちょっと待ってくださいよ『迷子』ちゃん!

今、夢って言いませんでした?!


「あれ、これ僕の夢じゃないの…?」

「え?私の夢でしょ?」


僕たちはキョトンとして顔を見合わせる。

そして二人同時にお互いを指さして言った。


「君、僕(私)の夢じゃなかったの?」





「こんばんは『道端』君」

「こんばんは『迷子』ちゃん」


夢の中で出会ってから数日、流石に初日はいろいろあったけれどようやく夢の中にも慣れてきた。

夢に慣れるまでにお互い話してわかったことは二人とも学生と言うことぐらい。ちなみに彼女は一人暮らしだそうだ。

そうそう、それと彼氏は…ナシ!僕にも脈ありって事!ありがとうどっかの偉い人!そしてグッジョブ僕の夢!


「あのね『道端』君、この前話そびれちゃったお願いなんだけどいいかな?」

「いいよ!」

「もう張り切っちゃって。いいよ、そんなに気を張らなくても。ただ私とお話していて欲しいだけだから」

「そんなんで良いならお任せを!…ってそれだけで本当に良いの?」

「うん。お願いできる?」

「おねがいっていうかいつもやってるじゃん。いーよ」

「そうだったね」


それから僕と『迷子』ちゃんは夢で会うたびずっと、目が覚めるまで話すようになった。


…でも僕にはまだわからなかったんだ。

なんで彼女がこんなお願いをしてくるのか。





その日の夢はいつもと違う夢だった。

暗い暗い海の底みたいに重くて真っ黒い闇が僕に絡みついてくる。


「『迷子』ちゃん?」


彼女がいない。いつもは僕の前に立っているのに。

胸騒ぎがした。だんだん不安になってくる。


「『迷子』ちゃん?『迷子』ちゃん…?ねえ、『迷子』ちゃん!返事してよ!『迷子』ちゃん…!!」


僕は闇の中を叫びながら走る。ただがむしゃらに走り続ける。

走っても走っても進んでる気がしない。どれだけ闇を搔き分けても纏わり付いてくる。


「『迷子』ちゃん!!」


叫んでも、どれだけ声を張り上げても。

君には届かないの?


なんとなくここは彼女の夢の中だと分かった。

いつも二人がいる夢の世界じゃない彼女の夢。


急に体にまとわりついていたものがなくなった。

黒い空間に放り出された。

そして―――…………


「!」


突然目の前に現れたのは真っ黒で大きな「ナニカ」

正体なんかわからない。けど、そこにいるナニカが『迷子』ちゃんに関係しているのは何となくわかった。


「貴方ハダァレ?」

「僕は『道端』だけど。君は?」

「私ハネ『迷子』チャンヨ」


『迷子』ちゃん。……本当に?

自称『迷子』ちゃんのナニカはニッコリと笑った。


「ネェ『道端』君。私ト一緒ニズゥット此所デオ話シテマショウ?ソノ方ガ絶対楽シイモノ!ソウシマショ!」

「どうして?」

「ダッテ私ノ世界ハスッゴクツマラナイカラ」

「つまらない?そうかな。僕はそうは思わないけど」

「………ダッテ皆ハ私ノコトチャント見テクレナイジャナイノ!」

「み、んな…?」

「ソウヨ皆ヨ」


ねえ『迷子』ちゃん、どういうことなの?見てくれないって、どうして?


「皆私ヲ良イ子ダッテ言ウケド、ソンナノ私ノ表面シカ見テナイジャナイ。私ハ良イ子ジャナイワ。ダッテサミシインダモノ」

「モット、チャント見テヨ!私ハ」



さみしいよ。



「『迷子』ちゃん…」



なんで?なんで私を良い子だなんて言うの?

いくら良い子だからって一人でいて寂しくないわけないじゃない。

表面だけ見て、勝手に期待して、勝手に落胆して。

そんなの知らない。私は、私らしくしたいの。

なのに、どうして押しつけて来るの?

苦しいよ。

もう嫌なの。私は本当の私を見てほしいの。

もう…帰りたくないよ。

あんな世界。つまらな「そんなことない!」


「つまらない世界なんてないよ!」

「貴方ニ何ガワカルノ」

「…僕だって、つまらないと思ってたよ」


子供の頃は誰もがヒーローに憧れていて。

将来ヒーローになるものだと当然のように思っていた。

けど、所詮僕は何の力もないただの人間で。

傍観者にしかなれなかった。


傍観者であるのがつらかった僕は全部忘れてしまうことにしたんだ。

ヒーローなんていない。憧れてたものなんかない。

そうやって皆と同じ、つまんない灰色の中にいたよ


夢なんか持ってないから夢を見れない。見ようともしない。

すっげー夢なんて言ったけど、それは何?なんて聞かれても答えられなかったよ。


でもね


「教えてくれたんだ。君が、きれいな色を僕に教えてくれたんだ」


「だから僕はもう一度、夢を見ることにしたんだよ」


もう諦めない。僕は多分どこかの物語の傍観者なんだろう。

けれど、僕は僕の物語の主人公でもあるんだ。


「それって、ヒーローになれるってことじゃない?」

「ねえ、君の物語に僕は居るのかな」


もし、少しでも登場させてくれるのなら


そのときは


「ヒーローが良いかな」



『迷子』ちゃんみたいなナニカがどう思ったのかは知らない。

もしかしたら何か言ったのかもしれないけど何て言ったのかもわからない。

気がつけば僕はまた元の真っ黒な場所に放り出されていた。


真っ黒は真っ黒だけどさっきみたいに息苦しくない。

でも、『迷子』ちゃんここにはいない。


ねえ君はどこ?


また走り続ける。『迷子』ちゃんの名前を叫びながら。

走って走って走って走って

もしかしたらもうここは彼女の夢じゃないのかもしれない。

ここは別の夢なのかもしれない。


「『道端』くん?」


僕がもうダメだとあきらめかけた瞬間だった。

僕の目の前にいたのは…


「『迷子』ちゃんなの…?」


地面に体育座りをして泣きじゃくってる小さな女の子だった。


「恥ずかしいとこ見せちゃったね」


『迷子』ちゃんは服の袖で涙をゴシゴシと拭うとにっこり笑った。

でも僕にはそれがどうしても笑顔に見えない。まるで泣き顔じゃないか。


「ときどきね。こういう夢を見るの。私、ちっちゃくなってずっと泣いてるの。変でしょ?」

「……じゃない。…変じゃない。変じゃないよ!」


僕は思わず叫んでいた。『迷子』ちゃんがビックリして僕を見上げてくる。


「『迷子』ちゃんは怖かったんでしょ?この真っ黒な場所が」


だったら僕が変えてあげる。僕が君を助けてあげる。

僕は『迷子』ちゃんの腕を引っ張って立ち上がらせる。それから両手を握ってニッと笑って見せた。


「僕が『迷子』ちゃんのヒーローになってあげる!」


いつの間にか捨てちゃった夢だけど。いつの間にか忘れてた夢だけど。それを思い出させてくれた君のために。


「どんなことがあっても、どんな場所でも助けに行ってあげる!こんな夢から君を助けられるヒーローになるよ!」

「どんな場所でもって…お互い本当の名前も住んでるところも知らないんだよ?」


『迷子』ちゃんは苦笑いで僕に言う。


「大丈夫。僕は…」


僕が全部言う前にフワリとした感覚がした。

あ、夢から覚めちゃう。嫌だな。まだ…君に言ってないのに。

フワフワした感覚の中で『迷子』ちゃんに続きを言おうと口を開く。


そこで僕は目が覚めた。





助けるとは啖呵を切ったものの僕が『迷子』ちゃんを助けるようなシチュエーションはあれから一切訪れることがなかった。

どうやら夢の話は『迷子』ちゃんの中でいつの間にか解決しちゃったんだろう。ああ、夢よ。もうちょっとぐらい頑張ってくれ。

一応会うたびに助ける助けると言ってはいるのだが完全に彼女からはお子様扱いで本気にして貰えない。…確かにお互いのことは夢で会う以外何にも知らない。どこに住んでるの?とか何をしてるの?とか一切知らない。まあ、僕も教えてないけどさ…。


僕は頭を抱えながらトボトボ学校の帰り道を歩いていた。

どうやって本気だと伝えたらいいのかな?

どうやって僕の気持ちを伝えたらいいのかな?


そんなことばっかり考えていたから一瞬幻聴かと思った。


「嫌です!」


急に僕の頭の中に『迷子』ちゃんの声が響いた。…実際頭の中に響いたのかは微妙だけどガンッと打ち付けられたような感じがした。


「『迷子』ちゃん?!」


慌てて辺りを見渡しても誰かが潜めるような路地はない一本道。

それでも彼女の声は響いてくる。


「嫌です。来ないで助けて…『道端』君!」


名前を呼ばれた時にはもう僕は走り出した後だった。

何処にいる?彼女は?

焦る気持ちを押さえ付けて町中を走り回る。

だから出会えたのは奇跡に近かった。


…いや、必然だったんだ。

大通りから少しそれた脇道で『迷子』ちゃんが数人のガラの悪いヤンキーに囲まれている。

『迷子』ちゃんを助けなきゃ。

『迷子』ちゃんのヒーローだから。

気がついたら勝手に体が動いていた。

ガードレールを飛び越えて車道を突っ切って『迷子』ちゃんの前に飛び出す。


「『迷子』ちゃん!!!!」


本当はずっと前から登場シーンの決め台詞を考えてたんだけど全部吹っ飛んだ。

はは…カッコ悪いや、僕。


でも僕はちゃんと君を助けに来たよ?





カツアゲ犯に絡まれたのは多分私がいつもより無防備だったから。

ガタイの良い男達に囲まれて脇道に引き込まれた。

ニヤニヤ笑いに吐き気がする。


「ねぇ俺達今さぁ困ってるんだよね」


嘘。そんなの誰でもわかる。


「だからちょっと恵んでちょーだい」

「嫌です」

「えぇ、いいでしょ?」


良い訳ないじゃない。やだ、来ないで。


「ねー、頼むからさぁ」

「嫌って言ってるでしょ」

「嗚呼、面倒くせーな!さっさと渡せよ!」


もうダメだ。そう思った時来たのは―…




「『迷子』ちゃん!!!!!」




『ヒーロー』だった。



「平気?!酷い事されてない?!怪我は無い?!」


『道端』君は飛び込んで来た勢いをつかってまず手前の一人に飛び掛かって蹴り飛ばす。


「君は女の子なんだから!平気だよね?!恐かった?!」


私を心配しながら次々と倒して行いった。

『道端』君の顔は凄く困ったような泣きそうな情けない顔なのにアッサリと自分よりガタイの大きな人を蹴り飛ばして行く。

その様子がなんだか面白くて不謹慎かなと思ったけどちょっと笑ってしまった。


「あれ?!痛いところあるの?!病院かな?!いやまず警察?!番号なんだっけ!?119?110?!ねえ『迷子』ちゃん覚えてる?」


動揺する『道端』君の口から警察という言葉が出てきた瞬間にカツアゲ犯達の顔がサッと青くなる。

多分昔お世話になった事があるんだろう。


「警察…ックソ!逃げるぞ!」

「いい顔してんなよガキ!」


そのとき、カツアゲ犯の一人がぽろっと言った捨て台詞に『道端』君の表情が一変した。


「誰がガキじゃあっ…!」


逃げようとするカツアゲ犯はうっかり『道端』君の逆鱗に触れたらしくガキの一言で吹っ切れた『道端』君によって皆頭にスニーカーや教科書を頂いて伸びてしまった。



「ヒーロー参上!…なんつって今更だね。でもね、ちゃんと君を助けられたでしょ?」


クルリと振り返って恥ずかしそうに笑う私だけのヒーローは


すっごくすっごく、世界中の誰よりもカッコよくて


「…うん。ありがとうっ」


泣かないって決めてたはずなのに


なぜか泣いてしまった。






「おくって行ってもいい?『迷子』ちゃん」


カツアゲ犯を警察に突き出してきた後、僕は勇気を出して『迷子』ちゃんに言ってみた。

『迷子』ちゃんはニッコリ笑って頷くと僕の手をギュッと握って言った。


「行こっ」


『迷子』ちゃんは僕の腕にぎゅっとしがみついてくる。

うわわ…女の子ってなんでこんな良いニオイするんだろう。

何で女の子ってこんなにキラキラしてんだろう。

せっかく誘ったのに『迷子』ちゃんを見れなくて僕はまっすぐ前を向いたままちょっとぎこちない動きで歩く。

そんな僕に『迷子』ちゃんはクスクス笑っていた。


「『道端』君って意外に純情―」

「……………違うもん」


ちょっとは反論してみるけど彼女は相変わらず笑ったままだ。


「へーぇ、じゃあそういうことにしておくね?」


…女の子って難しい。とりあえず僕は彼女に勝てないようだ。

『迷子』ちゃんと二人きり。

夢ではずっと二人だけだったのにこんなにも緊張するのはなんで?


「あ、私こっち」

「うん」


手を繋いで歩いているうちに僕は段々違和感をおぼえはじめた。

あれ?この道―…


「それからここはこっち」

「う、うん…」


…おかしいなぁこの道、僕の帰り道だ。

『迷子』ちゃんは僕の帰り道をさも当たり前の様に歩く。そりゃあそうだ。だってこれは『彼女の帰り道』だもん。


「私、このマンションなの」


『迷子』ちゃんのマンションの前で僕は唖然とする。それに気付かなかったのか『迷子』ちゃんは自分の鞄から鍵を出して振った。あのぅ、僕そのデザインには物凄く見覚えがございますよ。


「きっ、奇遇ダネ…ボクモダヨ…」

「へーぇ…えっ?!本当!?」

「うん…」


僕は頷いてポケットからマンションの鍵を取り出した。

『迷子』ちゃんの持つ鍵と同じデザインとロゴの入った鍵だ。


「ほんとだ…。じゃあ私達会ってたかもしれないってこと?」

「みたいだね」

「なーんだぁ、変なの!」


『迷子』ちゃんはクスクス笑うと入口で部屋番号を打ち込むと鍵を差し込んで扉を開けた。


「一緒に入っちゃう?」

「あ、ども…」


うわぁどうしよう。物凄く嫌な予感がする。嫌と言うかとんでもない事を知りそうな気がする。

さっき『迷子』ちゃんが打ち込んだ部屋番号、手の動かし方ってか位置があからさまに僕の部屋番号に似ていた。


僕達は同じエレベーターに乗り込む。

『迷子』ちゃんが階を押した途端僕の予感は確信に変わりかけていた。


「『道端』君は何階?」

「オナジデス…」

「えっ…?」


どうやら『迷子』ちゃんも同じ予感はしていたらしい。


エレベーターを降りて始めに曲がる向きが同じだった時にはもう気まずい顔で二人とも黙り込んだ。


なんかいやな予感がするなあ。


「「………………………えっ?」」


僕らはお互いに顔を見合わせた。

僕が立つ扉は508号室。『迷子』ちゃんが立つ扉は507号室。


「ねぇ『道端』君…その扉畑山さんだよ?」

「うん。僕は畑山道端だけど」

「『道端』君の道端って名字じゃなかったの?!」

「だから名前って言ったじゃん」


たしか一番はじめの頃に。結局未だに信じられてなかったのか…。


「私てっきりあだ名か名字だと…ゴメンナサイ!」

「いやいや、平気平気。よく間違われるしね」

「うぅ…本当ゴメンね。あ、そうだ私の名前は」


『迷子』ちゃんは部屋についているネームプレートを指さして言う。


「園山 ユヅカです」


ちょっと気恥ずかしいけどお互いもう一度挨拶をした。


「でも、何で会わなかったんだろうね?」

「高校の時間ってこんなにずれてたっけ…僕越境してるからこの辺あんま知らないんだよ」


どうなんだろ。僕がうーんと唸って居ると『迷子』ちゃんが小さな声で気まずそうにに言った。


「私…大学生…なの」

「なんですと―――っ?!」

「結構背が低いからあんまり見られないんだけど…」


申し訳なさそうに『迷子』ちゃんはうつむく。


「じゃあじゃあ『迷子』ちゃんじゃなくて『迷子』さん?!」

「うん。私二年生なの」


しかも僕の二個上だと―――ッ?!

年の差…二歳…だとっ?!

僕、メチャメチャ不利じゃん!気持ちの問題で!


「あれ?『道端』君?」

いきなり頭をかかけて「うぬああああ」と叫び始めた僕に『迷子』ちゃんはオロオロとする。


「ゴメンね!私が大学生で…」


あ、ああイヤイヤ違います違います。


「『迷子』ちゃん1」

「はひっ?!」


僕はがしっと『迷子』ちゃんの手を握りしめて叫ぶ。


「絶対絶対ぜっっっったあい君にぴったりのヒーローになるから待っててください!」


僕の勢いに流されたのか『迷子』ちゃんが驚いた顔をしたまま頷いた。

そのあと…


「待ってるからね?ヒーローさん」


昇天しちゃいそうなほど綺麗な笑顔で『迷子』ちゃんがニッコリ笑ったのだった。





「ぐぉら畑山ァ!!!」

「ぎゃあぁこっち来んな!」

「ほざけ!ふざけた事書いてんじゃねーぞ!」

「でもそれが将来の夢なんですぅ!」

「アホか!第一希望ぐらい真面目に書け!」

「超真面目っす!」


それから数日後の学校。僕が先生と学校の廊下で鬼ごっこをしていると急に横から手が伸びてきてグイッと空き教室に引き込まれた。

先生は気付かずにそのまま走りさって行ってしまう。


「…先輩なにやらかしたんスか?」


呆れ顔で僕を見たのは後輩の秋織だった。


「うんー?進路希望でさ第一にヒーローになるって書いたらこうなった」

「なんで書いたんすか?!」

「え?だって二歳の差を埋めるため」


秋織ははあっと首をかしげる。

ま、青少年にはわからないことだよ。


「だからまずは出来ることからってね!」

「立派な心がけです」

「そりゃどうも」


ねえ『迷子』ちゃん。僕はまだヒーローにはほど遠いだろうけど

いつかヒーローになって迎えに行くから待っててね!





子供の頃は誰もがヒーローに憧れていて

将来ヒーローになるものだと当然のように思っていた

けど、所詮僕は何の力もないただの人間で

傍観者にしかなれなかった僕だけど


君に出会えたから


またヒーローになれるんだ

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