3、漫画を読むことが小説の肥やしになるか?
(めっちゃええ声、あるいはドラゴンボールのナレーターでの脳内再生を希望します)
前回、本を読め、とお客様に言い放った丸屋。しかし、お客様は色々な理由をつけて、「今日は漫画を読む」と言い放った。どうやら丸屋は言いたいことがある様子。バー「創作駆け込み寺」に緊張が走る。丸屋の右手に力がこもる。君は生き残れるか!
(ナレーション終わり)
ちょっと待って下さい! いくら慇懃無礼な丸屋でも、お客さんと殴り合いなんてしたくありません! そもそも、丸屋も小説家のはしくれ、ここにいらっしゃる方は潜在的な丸屋のお客様です。ですのであんまり喧嘩なんてしたくありません!
でも、前回から引き続いて絡んでいるお客様にはこう言っちゃいました。
「まずは小説を読んでから!」
ふう、すっきりした。あのお客さん、じゃあカプセルホテルに泊まる、って言ってくれました。よかったよかった。
おや、ふとカウンター席を見渡せば、いつも指定席で酒を飲みながら本を読んでる小説家さんがいらしているではありませんか。すいません、お相手しませんで。え? 「もしわたしに同じことを聞かれたらなんて答える?」ですって。決まってるじゃないですか。
どうぞどうぞ漫画をお読みください、そう答えるに決まってるじゃないですか~。
別に丸屋は、空気を読んだわけじゃありません。
小説家が小説を読むのは当たり前。それが前回の論旨でした。それは疑わざる前提です。
そしてその上で、小説以外の創作物に触れたい、というのであれば、進んでどうぞ! という立場なだけです。
世の中には色んな創作物があります。絵、動画、漫画にアニメ、演劇からドラマ、小説や詩、戯曲、歌やダンスなど。その中で、あなたは小説という方法を選んでいる創作家です。であるからには、小説に対して一家言ある存在にならないとダメです。そのために小説を読もうぜ、というのが丸屋の主張です。
そして、素人さんはあまり気付いていませんが、それら創作物っていうのはそれぞれに特徴があります。例えば、ダンスという創作物においては、理論立った推論をお客さんに伝えることができません。そういったことは小説や論文という創作物に長があります。その代わり、小説や論文は臨場感に乏しいという欠点があります。そこは、強い臨場感を持つダンスには敵いません。これ、アニメや劇などでも同じことですね。それぞれに一長一短があり、それぞれ自分の得意分野で頑張っている、というのが現在の創作物を取り巻く環境だったりします。
前回小説を読め! といったのもその辺りが理由です。小説っていう創作物は何が出来るものなのか、どういうことが得意なのか。小説の強みを知る、ということはすごく大事なことです。
そして、それを知った上で、他の創作物に触れるということは多大な意味があることです。例えば、映画を知ることによって、映画と小説の比較が出来るんですよ。「あ、映画ではああいうことが出来るけど、小説ではああいうことは出来ないんだな」とか、「小説ではああいう技法があるけど、映画では無理なんだ」ってことが分かるわけです。
そして、器用な人は、そこから先のことが出来たりします。
2012年、以前からベストセラーになっていた「のぼうの城」が映画化しましたね。あれは元々同名の歴史小説ですが、あれは歴史小説界隈においては驚きをもって迎えられた作品でもあります。あの作品は、従前の歴史小説の書き方から大きく逸脱した小説なのです。詳しいことは割愛しますが、あの作品が新しかったのは、歴史小説というジャンルに、演劇の方法論を持ち込んだことに求めることが出来ます。それもそのはず、元々あの作品の作者である和田竜さんは脚本家であり、「のぼうの城」だって元々は脚本でした(城戸賞という脚本の賞を取っています)。そう、演劇的なやり方を小説に取り込むことで、新しさを作り上げたんですね。
そして、実は似たような方法で大成功した小説群があります。
いわゆる、ライトノベルです。
漫画原作者、小説家、批評家として高名な大塚英志さんによれば、ライトノベルとは小説の枠組に漫画的なキャラクターや法則を落とし込むことによって誕生した、とのことです。確かにこの論には頷けるところが多いような気がします。一般文芸で描かれる人物像と、ライトノベルの中で描かれるキャラクターとの間には乖離があります。そして、ライトノベルでのキャラクターと漫画のキャラクターの間にはそれほどの差がないような気がします。とにかく、大塚さんの見立てだと、「漫画的な世界観を小説の技法で描いたものがライトノベル」ということのようです。言い換えれば、最初にライトノベルを書いた人というのは、小説に漫画的な方法論を持ち込んだとも言えましょう。
という風に、他の創作物からその方法論を移入することで、新しい小説を作ることが出来るんです。
それに。これは完璧に私見になってしまうんですが。
ギャグ漫画ってありますよね。でも、ギャグ小説っていうのはない。もちろん、ユーモア小説みたいなものはありますが。そしてこの広い世の中にはギャグ小説と呼びうるものを書いている人はいるのでしょうが、まだ大きな潮流として現れてはいません。つまり、小説からギャグを学ぶのは絶望的に難しいということになります。だったら、ギャグ漫画やお笑い芸人から学んだ方が手っ取り早いのではないでしょうか。
というわけなんですよ、小説家の先生!
え? ああ安心した? いやあよかったです~!
で、先生、安心ついでにちょっとお願いがあるんですけど。あ、そんなに難しいことじゃないんです。先生とお知り合いの編集の方を是非とも紹介してほしいんですよ。そして、丸屋の小説を是非とも勧めていただきたいなあと思いましてキッシッシ。
え? 今時の編集者は忙しくて持ち込みは読んでくれない、ですって? もし読まれたいなら公募に出せ、ですって? まったく、世の中っていうのは世知辛いでゲスなキッシッシ。
え、そもそもゲスだのキッシッシ等というやつに編集さんを紹介できるか、ですって?
至極その通りです、はい。