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29、腕だけではなく舌も磨こう

 バーに流れる不穏な空気。

 お客様に「舌を磨けよこのクソバーテンダーが」と暴言を吐かれた丸屋。普段は温厚なキャラで通っている丸屋だったが、右手の疼きが止まらない。そして呟く、「俺の右手が真っ赤に燃える!」 出るのか、必殺のベアクロー!


 待て待て。ちょっと待て。

 お客さんに暴力は振るいませんよ! っていうか、この展開、以前も見ましたよ! ダメですよこういうのは! いくらお客さんに「お前の作ったカクテル、泥の底みたいな味がする」とか言われたって逆切れしちゃいけません。そんな無礼なお客様に対しても、ニコニコ笑顔を絶やさず、「いえ、お客様の舌の方がヤバいだけじゃないですか?」と病院通いをお勧めするのが正しい姿勢……って違うか。

 前回からのお客様、あなたは実に正しいです。

 ええ。いいバーテンダーはいい舌を持っているものです。というより、いい舌を持っていなければなりません。

 ところで、翻ってあなた様です。

 あなた様は、創作家として、鋭敏な舌を持っていますか。


 さて、今回お話しするのは、小説家にとっての「舌」の話です。

 小説家にとって「舌」ってなんだ? といぶかしむ人もいるかもしれませんが、実は簡単なことです。つまるところ、小説を読む力です。

 でも、この「小説を読む力」というのを勘違いしてしまうと、作者として明後日の方向に行ってしまいます。

 何も、「小説を読む力」というのは、小説における技法を指摘したり、伏線の配置やその連なりを正確に指摘できることだけではありません。

 ところで皆さん、あなた様がまだ小説を書き始める前のことを思い出して下さい。

 その頃のあなたは、「あの伏線の張り方が上手かった!」とか、「あの方法論を持ち出してくるとは!」みたいなことを言って小説を読んでましたか?

 たぶん、大抵の人は「いいえ」と首を横に振るんじゃないでしょうか。

 きっとまだ小説を書かれる前のあなたは、「このお話、素敵なお話だったなあ」とか、「ああ、感動したなあ」と言いながら小説をお読みだったのではないでしょうか。そりゃそうです。そもそも小説っていうのは、読者に「素敵なお話だった」とか、「感動した」、「面白かった」という、“幸せな時間”を提供することにあります。え? バッドエンドは幸せな時間を提供しないじゃないかって? いえいえ、バッドエンドのお話であっても、いいお話に出会うと一種のカタルシスを感じることが出来ます。あの感覚というのは、読書体験と名前のつく幸せな時間の一部なのです。

 でもですね、二十作くらい書いてきたあなたはきっと、そういう『幸せな時間』のことを忘れて、やれ“てにをは”の間違いだの、誤字脱字だのプロットの巧みさだの伏線の回収だのといった瑣末なことに興味が向かいがちになっていることと思います。なんでそう思うって? だって、二十作目くらいを書いていたわたしがそうだったんですもん。

 もちろん、てにをはの間違いとか誤字脱字、プロットの巧みさだの伏線の回収だのといった要素を否定するつもりはありません。しかし一方で、“幸せな時間”さえ存在してしまえば、それらの要素などただの小手先のテクニックになってしまいます。むしろですね、全てのテクニックっていうのは、この“幸せな時間”を作るための技術でしかないんです。

 そしてですね。

 この“幸せな時間”というのは、まったく形が存在しません。作者さんの数だけある、きわめて定義しづらいものです。それを見つけるために、この“幸せの時間”を受信することのできる力が必要なんですね。

 本を読んで、つい技術ばかりに目がいきがちなところを抑えて、その小説が持つ“幸せな時間”の正体に目を凝らす。そして、そのエッセンスを盗んで自分の小説に反映させていく。実は小説家に求められている力というのはこういう目利きの部分もあるのではないかと思っています。

 そして、それを鍛えるためには。

 そうですね。本を読むしかないわけです。

 そして、『なぜこの小説は面白いのか』という問いに対し、深奥まで迫ることのできる人というのが、プロアマ問わず人気小説家として活躍してらっしゃる人たちなのでしょうね。


 というわけですよお客様。

 作り手っていうのは、他人の仕事からでも学ぶことのできる人たちです。というわけで、山のように本を読んで、小説の色々な面白さに気づいて下さい。

 え? いつ読めばいいのか? って?

 決まってます。

 今でしょ(ドヤ顔)。

 ちょっと待って! 今のフリはこう言わせるためのヤツですよね! 止めてくださいよ。これを書いている頃(2013.3)はこのネタも鮮度がいいですけど、きっとこれをUPする頃には飽きられてますからー!


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