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2、小説、読んでます?

 いやー、第一回目にしていきなり凄く空気が悪くなっちゃったなあこのバー。いやあ、やっちんちん☆

 ってか、お客さんが減ってるがな。そういう人はきっと、今から小説を書きに行ったに違いありません。うんうん、いいことだ。実にいいことだ(と、涙を流しながら)。

 おや、カウンター席に、原稿用紙とペンを持ち込んで小説を書こうとしている人がいるぞ? しかも飲んでるのは水。おお、ストイックですねえ。これぞ小説家の鑑! あれ、でも悩んでる。どうしたんでしょうか。どうしましたー? ご主人さまもといお客様ー!

 え、書き出そうにも小説が書けない、ですって? モチベーションは上がっていて、書きたいネタもしっかりあるのに、書き出し方が分からない、と?

 うーむ。ということは。

 お客様、ときにお客様は、小説を読んでいますか?

 え? 自分の作風に影響を与えるからまったく読んでない、ですって?

 ははーん、なんとなく、お客さんの抱える問題が分かってきましたよ。


 小説を書くためには、まず小説を読まなければなりません。

 でもこれ、当たり前のことのような気がします。

 漫画を読んでこなかった漫画家なんているでしょうか。他人の絵を鑑賞するのが嫌いな人がどうして絵描きになろうなんて思うでしょうか。音楽を全く聞かない人が、どうしてバンドを組もうと思うでしょうか。

 それにですね、よく、職人の世界では、同業者の技を盗め、って言います。大工さんなんかは、師匠のカンナ捌きを覚えたかったら師匠の技を見ろ、って今でも言うみたいですよ。

 でも中には、こんなことを言う人がいるんじゃないですかね。「いや、そんなことをしたら作品から影響を受けちゃうから、小説を書く時には本を読まないようにしています」って。

 うーん。プロ気取りかと。

 というかですね、そもそもプロの小説家さんほど、とんでもない読書家ですよ。中には、小説を書く時には座右に好きな小説を置いて詰まったら読み返す、なんていう人(「博士の愛した数式」の小川洋子さんのこと。ちなみにこの方の小説エッセイは非常に感覚的なんですが凄く参考になります)さえいるくらいです。

 そもそも、影響を受けてなんで悪いの? という話です。

 日本において、小説は西洋列強が育んだ「novel」を日本語に翻訳した時から始まります。もちろん前史として源氏物語などの古典や、曲亭馬琴らを始めとした戯作などもありますが、これは「novel」に取り込まれる形で影響を与えています。そして、日本人たちは「novel」を手本にして日本の小説を作り上げてきました。そうして出来た小説に、村上春樹さんによってアメリカ文学的な「novel」が融合することによって、現代の小説が出来上がっています。つまりですね、小説家っていうのは、過去の小説を苗床にして自分の花を咲かせた人なんですよ。

 もちろんこれは剽窃をオススメしているわけじゃありません。丸屋が言いたいのは、小説っていうのは影響を与えあって存在しているもので、あなたの独創だけで出来上がるものでは断じてない、ということなのです。

 それに、(批判的な文脈で用いられることも多いですが)「春樹チルドレン」とひとくくりにされる小説家がいます。プロでもこのような状況なのですから、影響を受けることを怖がる必要はないと思います。

 それに、ですね。もしもあなたの文体がそこらの小説を読んだくらいで劇的に影響を受けてしまうような文体なのだとしたら、まだ修行が足りないのではないでしょうか。自分の文体というのは書いた年月や悩み続けた時間によって醸造されるものです。そんなものが、そう簡単におじゃんになることはありません。もしおじゃんになってしまうとしたら、あなたの育んできた文体はまだ「あなたの文章」になっていない証左です。それこそ、色んな小説を読んで自分のスタイルを模索して下さい。

 それに、他の人の小説を読むことには他の意味合いもあります。

 技術やネタの引き出しが増えるのです。

 中には、「俺は小説家の指南本を持っていて、それで勉強しているからセオリーは完璧さ」って人がいると思います。もちろん、指南本を読むことでセオリーを知るのはすごく大事なことですし、なるほどめちゃくちゃ参考になります。でもそれは、「小説を読んでいること」という最低限のお約束の上でのことです。

 高校生の方からするとあるあるネタかもしれませんが、高校に入ると古典の文法を勉強します。でも、いくら助動詞の活用を覚えても、実際に古典を読んでみないとどうその知識を生かしたらいいかなんてわからないはずです。いわんや、その知識を使って古語で文章を書こうと於いてをや。(どうでもいいけど、この使用法は間違ってそうだなあ……閑話休題。)

 たとえば、「貴種流離譚」という物語の類型がある、それを元に小説を書いてみよう、と思い立ったとします。でも、実際の貴種流離譚がどういうものかを読んだことのない人間は、どうそれを書いたらいいのか判らないはずです。「ああ、そういえばスサノオの降臨とか『伊勢物語』の在原業平の辺りとか『義経記』とか、あ、ジブリ映画の『ゲド戦記』なんかがまさにそうだな」という風に引き出しがあれば、「ああ、ああいう風に書けばいいんだな」と当てがつくようになるんですよ。

 読む、という作業はあなたの小説家としての筋力をつける、本当に大事な作業です。是非ともお読みください。


 というわけですよお客様。書くためにはまず読まないと。

 え、今から図書館に行ってくる? 勘定をお願いしますって?

 ええと、お客さんは……、焼酎お湯割り三杯に、ワイン二杯、ピニャコリャーダ三杯にジンライム二杯、あと梅酒ロック六杯お飲み頂きましたので……。ってお客様、飲み過ぎですよ。そんなへべれけに酔っぱらっていたらそりゃ書けませんよ!

 そもそもお客様、今、夜の十二時ですよ。もう図書館やってないですよきっと。そもそも終電も逃してますが!

 え? じゃあ漫画喫茶で漫画を読むからいい?

 ふむふむ、なるほど。

 ちょっと長くなっちゃったので、ここから先は次回だ!


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