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18、「詩的な文章」の憂鬱

 まったく、せっかく名作レシピが出来て、カクテル界に不朽の名を残せると思ったのになあ。そしたら、小説のことなんかすっぱりあきらめて、カリスマバーテンダーとして生きていけたのに。ちくしょう!

 まあ、そんなことってありますよねー。夢の中で考えた話がすっごい名作で、よし、明日になったら書こう! と思い立っても、気付けばその中身をすっかり忘れてました、なんてこと。はっはっは。

 気を取り直しまして、また頑張りましょう!

 あれ? ああ、いらっしゃいませ。どうしたんですかお客様。

 ふむふむ、自分はどうも文章に魅力がない、だから世間でよく言われる「詩的な文章」を模索しようと思うんだ?

 へえ、なるほどなるほど。

 でも、そもそもお客様、「詩的な文章」って、どういう文章のことです?

 ほお、そのお顔。ということは。

 はいお客さん。カクテル、X・Y・Zです。「魔獣死すべし」にも出てきた名作カクテルですね。それでも飲みながら、少しわたしの話に耳を傾けてください。


 詩的な文章。

 創作界隈でよく聞く言葉です。でも、この言葉もなかなかヌエみたいでよく分からない言葉ですよねえ。

 一般に、詩とは「特定の韻やリズムを持った文章形式」のことであり、小説などの「散文」の対義語です。ってことは、そもそも「詩的な小説」なんていうのは成立しないとも言えそうです。だって、詩という表現形式の対義語として散文(小説など)があるんです。対極的なものが並置されているわけですからね。

 でも、確かに、「詩的な小説」というのは存在します。

 例えば、「叙事詩」などがそれに当たりましょう。叙事詩とは、神話や特定の物語を特定のリズムや韻で以て語り出した表現形式のことです。外国ではインドの「マハーラーバタ」「ラーマーヤナ」、古代ギリシアの「イリアス」、日本では軍記物の「平家物語」がこれに当たります。日本人の場合だと「平家物語」を思い浮かべていただけると分かると思いますが、音読してみるとするすると言葉が流れ、ところどころで韻を踏んでいるのが分かります。

 と、これは大体五十年くらい前の「詩」と「小説」の関係でした。

 でもですね、最近では、「詩」の世界も様変わりしたと聞きます。正直丸屋は外野席にいる人間なのでよく分からないんですが、現代詩の世界って、バーリトゥード、なんでもありの世界らしいですよ。

 なので、最近では、「詩とは、言葉をモザイク状に組み上げていって全体像を提示する文章形式である」という理解も出始めています。

 え、なにそれ、と思った人もいますよね、きっと。

 そういう人は、フォークデュオ「ゆず」の「からっぽ」とか「始発列車」を聞いてみてください。

 ここでは引用はしませんが(垢BANされちゃいますからね!)、あの二曲は別の形での失恋を描いています。しかし、その詞の中には一度として「悲しい」とか「寂しい」といった言葉は使われません。しかし、詩の中に配置された言葉たちによって主人公が感じている悲痛な感情が表現されています。

 他には、例えばラルカンシェルの歌詞なんかも参考になるかなと思います。

 ラルカンシェルの歌詞は、一回読んだだけではよく意味が分かりません。それもそのはず、ファンの間では「比喩に比喩を重ねたような」とまで言われる歌詞だそうです。でも、一曲聞き終えてみると、なんとなく心の中に浮かび上がってくるイメージがある。そういう詩の作り方です。

 でもですね、こういった詩の作り方を小説にそのまま移入するのは考え物です。

 現代詩でこういったものが認められているのは、こういうものを受け入れる土壌があるからです。歌の世界でこういうことをやっていいのは、歌というものの持つ情報は必ずしも詩だけではなく演奏や歌唱に負うところも大きいという理由があります。文章がすべての小説において、無批判に詩の方法論を持ち込んでしまうと、極めて読みづらい文章が出来上がってしまいます。

 特に、ラルカンシェルのやっているような「詩的な文章」の場合、最悪意味不明に陥ります。変な話、曲ならば歌詞以外に聞かせどころがあるのでいいのですが、小説の場合……。そう、文章がすべてなので、意味不明な文章が出てきた時点でお客さんが逃げてしまいます。もちろん、それでも逃げない読者さんを囲い込むためにそういう文章を書くのも一つの考え方ですが、推理物を書きたい、とか、エンタメ小説を書きたい、という人はその選択肢を取らない方がいいでしょう。

 と、実は「詩的な文章」という言葉の裏では、こんなあれやこれやが潜んでいるわけです。もしも、何となく読みやすい文章を志していて「詩的な文章を書きたいなー」とおっしゃっているのなら、それはきっと、「リズムのいい文章を書きたいなー」とほぼ同義です。そういう方は、「詩的な文章」から、「リズムのいい文章」に目標を変えましょう。


 というわけです。

 え、なんですって、今度はリズムのいい文章を書きたい、ですって?

 なるへそ。まあ、当然の帰結ですわなー。

 ってことは!

 はい、次回に続きます!


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