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17、面白い喋り口の追求

 いやあ、まさかお客様からバイオレンスを受けるとは思いませんでしたよハハハ。

 でも、そういうの、丸屋にとってはご褒美です。女性からのビンタなら全然喜んで受けますよ。ビンタだって身体接触です。いやあ、最近異性の方の手さえ握ってないですよ。それもこれも、このバーの仕事が忙しすぎるせいです。ちくちょう、あの中国籍美人オーナーめ、せめて賃上げをお願いしてみようかな! ……それすらも、丸屋からすれば珍しい女性とのやりとりなのですよ、ええ。

 って、何を言っているのか俺は。今はお客様もあんまりいらっしゃらない模様なので、新しいカクテルの研究をするんでした。うーん、丸屋ってば仕事熱心。

 しかし……そうやって作ってみたはいいけど、なんだこれ……。どぶの底みたいな色をしたこれは一体。あ、匂い嗅いだだけで死ねそうです。これは処分で。

 おや、お客様がお越しです。はいはいいらっしゃいませ……。おお、あなたは日常系小説をお書きのイシカワさんではありませんか。どうしたんですか暗い顔をして。なになに? どうも面白い文章が書けていない気がする? 文章に遊びがないって言われた?

 なるほど。はい、イシカワさん、バイアです。え、お金は取りますよもちろん。男に酒をおごる甲斐性はありません。


 艶のある文章、とか、遊び心のある文章、とか、文の厚み、とか。話の筋以外で小説を面白くする要素として、小説書き界隈の間でよく俎上に上がるのが、「文章力」です。

 でも、この「文章力」って言葉ほど投げっぱなしな言葉もないんじゃないかと思っています。

 だって、そもそも、文章に正解なんてあるの? という話です。

 もちろん、文法的な正解はいくらでもあります。でも、日本語の場合、主語や述語が欠落していても文全体で見れば問題なし、って場合すらあるんですから、決まりなんてあってないようなものじゃないですか。

 もちろん、文章というのは所詮何かを伝えるための手段なので、より的確に、より明確に伝わる文章の方がいいに決まっています。文章そのものを見た時には、「より的確な、より明確な」文章こそが名文、ということになります。

 ただ、小説書き界隈で言われる「文量力」というのは、「的確で明確な文章」のことではありません。もっと、広い範囲の事象を指す言葉だと思って下さい。

 例えば、いくら明確な文章であっても、いきなりネタばれをしているような文章は駄目ですよね。どんなに理路整然としていても読者を引き込むことのない文章というのも、小説用の文章としては駄目です。つまりですね、小説における名文っていうのは、ときに読者さんを焦らしたり煙に巻いたりして興味を引きつつ読ませる力も求められているんです。

 ちょっとまとめます。小説における名文とは、

  ①文章そのものが的確かつ明確

  ②文章の連なりを見た時に、緩急がある

  ③リズムがいい

    etc……。

 という風に、様々な要素が絡まり合って成立しているものだと思って下さい。

 ときに皆様、「人志松本のすべらない話」ってご覧になったことありますか?

 ご存じない方向けに説明しますと、ダウンタウンの松本人志さんをメインに据えたトーク番組で、お笑い芸人たちが自分の身に起こった面白い話(すべらない話)をしてそれを評価するというものです。人気番組ということもあってDVDなんかも多数出ておりますのでチェキラ!

 と、こんなことを喋っていると「お前は吉本のステマか」と怒られちゃいそうですが、でも、あの番組、小説家界隈にとっては大きな示唆のある番組です。

 あの番組でのトークを見ると分かるんですが、実はお笑い芸人だからと言って別に面白い日常が起こっているわけじゃないんです。でも、あの番組で喋る芸人さんたちのトークは面白い。

 あの番組の中で松本さんが披露したものの中に、「子供のころ、風邪を引いて家で寝ていたら庭で飼ってた犬が逃げた」という話がありました。ね? これを聞いただけじゃさっぱり面白くないでしょう? でも、松本さんの手にかかると、これがどっかんどっかんの笑いのネタと化しているのです。

 なぜか。

 言うまでもなく、松本さんの卓越した話術が為せる業です。

 彼の話す言葉は極めて明確です。そして、彼の話には笑わせどころや焦らし所がしっかりと存在します。そして、客を飽きさせないリズムがあります。

 明快な文章や笑わせどころや焦らし所の設定というのは、ある程度メゾット化が可能です(なにせ、そのメゾットがよく「創作系エッセイ」として出回っているものの正体です)。でも、リズムなんていうのは完全に作者さんの身体感覚に近いものなので、とにかく色んなものを読んだり見たり聞いたりして覚えていくのが手なのでしょう。

 とにかく。この稿において丸屋が言いたいのは、「面白い喋り口を追求しましょう」というところに尽きます。


 というわけです。

 商売人たるもの、やはり自分の腕は磨かないとなりませんね。

 え、何を作ってる? ですって? 新しいカクテルですよ。

 よっと。お、これはきれいだ。それに、味もいい!

 オリジナルカクテルが出来たぞ! よし、これを「MARUYA」と名付けよう! ははは、苦節幾年、ようやくバーのマスターぽいことが出来ました!

 え? レシピ?

 あいやー。書きそびれていました。当然思い出せません!


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