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15、その卵、壊死してませんか?

 ふう、いやあ困っちゃった。突然変な声が聞こえるんですもん。てっきり自分がメシアかなにかだと勘違いしそうでしたよハッハッハ。

 え、あの声は誰だ、ですって。ああ、あれは、丸屋の母です。あ、そうなんですよ、うちの母、以前世界的な戦争兵器メーカーによって改造を施されましてね、今では優れた視力聴覚を駆使して索敵を行なったり、仲間との通信の中心になってる人なんですよ。へ、父ですか? ああ、お客さんのおっしゃる通り、父はマッハ三で走り回ることが出来ますが何か。

 そんな家庭の事情はさておいて、マスター業を頑張りましょう!

 おや、店の奥でうずくまってるお客さんがいるぞ! 飲み過ぎかしらん。ちょっとお客様ー! 吐くんだったらトイレでねー!

 あ、違うんですか。え、なになに? もうかれこれ二十年温めている小説の構想がある? 今日もこうして温めているんだ、ですって?

 ってかお客様、そもそも「温める」の意味が違う気がするんですが……。あくまで構想を「温める」っていうのは比喩なんじゃあないですか。わざわざ床にへばりついてうずくまる必要はないと思うんですが。で、どれくらい温めていらっしゃる? あ、二十年っておっしゃってましたね。

 はい、分かりました。とりあえずお客様、席に座って下さい。はい、ブランデースティンガーをどうぞ。へ? あ、お客様、お詳しいですね。そうです、別名、ホワイトスパイダーっていいます。とにかく、これをお飲みになられて、ちょいと丸屋のお話を聞いて下さい。


 構想練り。楽しい作業ですよね。

 あれをああしよう、これをこうしよう。それでああやってこうやって。まるでパズルを組んでいる楽しさがあります。でも、構想練りを何度もやるようになってくると、ある壁に気づくことがあります。「まだ練りたいんだけど、今の力では練り切れないや」とか、「今の筆力ではこの小説を形にすることができないぞ」とか、「この小説を形にするためには、どうしてももうひとひねりが必要なんだけど思い浮かばない!」みたいなことが。今回は、そういうときにどういう態度を取った方がいいのか、というお話です。

 創作仲間の間で聞き取りをしてみると、十年以上構想を練っているよ、っていう話をよく聞きます。話を聞いてみると、いつか形に出来たらいいなあという風な見果てぬ夢型のことを言う人もいます。また、いつか必ず形にしてやる! と息巻いている人もいます。でも、その中で一定数、「形にするタイミングを逃してしまった」と言っている人もいます。「長年練っている構想」というだけでこれだけの違いがあるんですが、実は、「形にするタイミングを逃してしまった」パターンの構想が、一番扱い難いものだったりします。

 これはあくまで丸屋の私見なんですが、大体にして、思い付く構想と自分の筆力というのはお互いに関係し合っています。もちろん、例外はありますよ。自分の手では書くことが出来ない構想を思いついてしまうことなんて確かにあります。でも、それはあくまで「一年後あたりなら形に出来そうだぞ」とか、「三年後あたりだったらなんとか……」といったレベルです。大抵は、自分の実力の中に収まるようなお話を考えつくのが人間というものです。

 でも、確かに数年に一度くらい、「これはかなり上手くならないと書けないよ!」と思ってしまうような構想に出会ってしまうことがあります。

 そういった構想に出会った時、ちょっと考えていただきたいのです。本当にそれ、「かなり上手くならないと書けないものなの?」と。

 先述の「形にするタイミングを逃してしまった」人に聞いてみると、こう答えてくれました。「だってさ、あの構想、今の俺にとってはぶっちゃけ形にする意味がないし」。要は、若い頃の荒い構想が、気付けば筆力に追い抜かれていたということが発生しちゃうんですね。そうなるともう最後。この構想は永遠に書けなくなります。

 それに、若い頃作った構想と、今書きたいものがズレているなんてことも、よくある話です。

 私事で恐縮ですが、実は丸屋、かつてハイファンタジーの構想を練っていたんです。でも、今の丸屋はファンタジーから遠く離れたモノばかり書いています。よっぽどのことがなければ、きっと丸屋はファンタジーを書くことはないでしょう。なので、今抱えている構想は間違いなく丸屋の心中で腐り落ちていくことでしょう。あのとき書いていればよかった、となっているわけです。

 何が言いたいのかというと、確かに「十年以上温めた構想」というものが存在する可能性はありますが、往々にしてそれはあなたの勘違いであることも多いのです。なので、構想を練っていて「これはもっと温めないといけないかも」と頭をかすめた時、ちょっと立ち止まってみて下さい。本当にそうなのか? 本当にこれ、もっと修業しないと書けないものなのか? 出たとこ勝負で書いてしまっても大丈夫な作品なんじゃないか? 

 二十作目辺りを書くようになると、かなり凝った構想を作ることが出来るようになってきます。それだけに、より一層、自分の実力と構想の兼ね合いを見計らう力が必要になるんです。

 でも、もしそれで構想が没になっても、そう凹む必要はありません。

 その構想は、やがてあなたの中で分解されて他の作品の土壌となります。そして、あなたの他の作品の中で生き続けることでしょう。逆に、ボツにしてやることで初めて、他作品の礎となることができるのです。


 と、いうわけです。

 そろそろ、その構想を手放すのも一つの考え方ですよん。いや、もちろんその構想を温め続けたまま他の作品を書くことが出来るっていうなら話は別ですが。

 うんうん。そうですね。手放しますか。うん、それも一つの考え方ですよ。よかったよかった。

 え、丸屋に受け取って欲しい? 構想を?

 ああええ……、って! え? これ、本当に卵じゃないですか!

 なになに、これでオムレツを作るとすごく美味しいんですって? あなたの体どうなってるんですか! え、実はハ虫類宇宙人なんだ、って?

 あのうお客様、今時ハ虫類宇宙人なんて流行りませんよ!

 え? マジなんですか。

 へー、えー、そりゃまた……。あのうお客様、その長い舌を顔ににょろにょろさせないでください。なんで口をそんなに大きくあけるんですか。うわ、今なんか歯の間から変な液体が! あ、これ毒なんですか。ってなんで丸屋に毒を吹きかけるんですか……、うわなにをするやめ


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