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13、他人の創作論を笑うな

 いやー。なんだかさっきまで悪夢を見ていたみたいですよ。あのくだりはもうメロンビー星人に脳味噌を乗っ取られたと思ってなかったことにして下さい。

 さて、またマスター業にうつつを抜かすとしますか!(←なんか違う)

 うーむ。おやおや、見れば店の奥で言い争いの声が聞こえるぞ? なんだ、どうしたんだ? いずれにしても、ここは時給720円のマスター丸屋が仲裁に入るしかないッ! はいはいブレイクブレイクお客様、どうしたんですかまったくもう。喧嘩するんだったら駅前の交番の前でやって下さいよ。

 え、何? 芸術上の論争に口出しするな、ですって? おやおや、お二人は芸術家さんなんですか。……あ、アマチュアの小説家さんですか、ああそうですか。で、どんな論争をなさっているんです?

 ふむふむ、プロットの作り方? 右の方は最後の光景を思い浮かべてから逆算して作る? 一方の左の方は最初の光景を思い浮かべて、順繰りに作っていく? どっちの方がいいか口論中、ですって? 

 まったく、しょうがないですねえ。

 じゃあお二人さん、とりあえずこのミルクをどうぞ。え? カルーアすら入ってませんよ。マジでミルクです。

 お二人とも、しっかりお話をお聞きくださいませ。


 文学上の論争というと、谷崎潤一郎さんと芥川龍之介さんの「小説の筋は芸術性を持ちうるのか」論争(詳しくは、芥川の「芸術的な、余りに芸術的な」参照のこと)があります。文学者っていうのは、昔から自己主張が激しいのですね。まあ、これは小説を書いている皆さんに当てはまることであります。え? だれですか、自分は違う、って言ったのは! もしも自己主張のない人だったら、そもそも小説を書こうなんて思い立ちません。この社会で黙々と生活している人になっているはずです。小説を書く、という選択肢を選んだ時点で、あなたは自分の言葉を世の中に放ちたいという目立ちたがり屋さんなのです。

 それに、小説家というのは職人さんです。文章を書く、というのは識字率がほぼ100%の日本においては教養ですが、小説を書くとなるとそれは立派な技能です。つまり、20作も小説を書いてきたあなたはある意味で技能者なのです。やがてその自覚が強くなってくると、その技能に対するこだわりや愛着が生まれてくるのも当然のことです。繰り返しますが、20作も小説を書いてきたあなたは、既にある種の技能をお持ちです。そこは胸を張っていいことだと思います(もしも疑問に思われるならあなたの現実世界を見渡してみてください。小説を書ける人より、書けない人の方が多いはずです)。

 そういう職人たちが集まると、自然、話は技の競い合いや道具箱の中身に向かうわけですね。小説の上手い下手や、「あんたはどうやって小説書いてんの?」という話になってしまうんですね。そうして、自分と相容れないことを言われたりすると、カーッと頭に血が上って気色ばんで反論しちゃう、なんてことがあります。

 なんでこんな克明に喋れるのかというと、かつて丸屋がそうだったからです。いやー、関係方々には大変ご迷惑をおかけしました! もう本当に申し訳ないです!

 とまあ、誰にしているのか分からない贖罪を済ませて、本題に入ります。

 経験者だからこそ思うことですが、こういった論争は極めて無意味です。

 特に、「小説の作り方」みたいな創作論を他作者と争うなんていうのは百害あって一利なし、得るものはなく失うものばかりです。

 だって、創作論って、その作者さんによって違って当たり前なんですもん!

 例えば、世界的なアニメーターとして有名な宮崎駿さんは、「最初の一枚」なる絵を書いて、その絵を元にお話を膨らませるそうです。ちなみに「崖の上のポニョ」の「最初の一枚」は、序盤のあるシーンでした。

 また、小説家の小川洋子さんは、最後の光景を思い浮かべた後、最初の光景を思い浮かべ、その二点を結ぶ道程をひたすら書き綴るスタイルだそうです。

 はたまたある推理小説家さんは、メイントリックを決めてからキャラクター配置を決めて、そのトリックの形に沿うようにお話を展開させるそうです。

 はい、三者三様に違いますね。

 でも、考えてみりゃ当たり前のことなんです。一口に「小説」といったところで、それがエンタメなのか文学なのかによってもその特性は違ってくるでしょうし、各ジャンルによっても変わってきます。なので、それらの特性を無視して、「こうやって作った方がいい!」、「いや、ああやって作った方がいい!」とやり合うのは無意味極まりないことです。

 っていうかですね。そもそも「創作論」っていうのは、どんなレベルでの話であれ、その創作論を使って作った小説が面白くないと何の役にも立たない張り子の虎なんです。冒頭の「小説の筋の芸術性」論争において芥川さんは筋に頼りがちな自分の文学をも否定することになってしまったんですが、そうして否定した後すぐに芥川さんはあの世に旅立ってしまったので、果たしてあの創作論が正しかったのかは誰にもわからないんですね。なので、他の小説家さんの創作論に出会ったら、ここは自分に取り込めそうだぞ、ここはあんまり自分に合わないや、と情報を取捨選択していくのがいいんではないかなーと思います。


 分かりましたかお二人さん。創作論を戦わせるなんて百害あって一利なし。他人の創作とやり方が違って当たり前。だって人間だもの(みつを)。

 そんなわけで、二人とも仲よくしましょうよお。はい、握手握手。

 はい、これで一件落着!

 いやあ、これにて悩める子羊を救ったぞ!

 おや、どうしたんです二人とも。なんだか怖い顔ですね。

 へ? そもそも、お前がこんな店を開いていること自体が、創作論の論争を生む土壌になってるんじゃないかですって!?

 ああいや、そういう面もありますけど……!

 ああちょっと待って! 続きは次回!


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